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うろな天狗の仮面の秘密  作者: 三衣 千月
うろなの夏祭りを見回る天狗のはなし
16/77

7月6日 うろな夏祭り・夜 『天狗、西の山へ跳ぶ』

今回の企画も楽しませていただきました。

やはり楽しいものですね。


7月6日(土) 


 平太郎は賑やかな祭りの喧騒の中を歩いている。日が落ちて、祭りの会場にはまだまだ参加者が集まってくる。近所の子供たちも夕食を終えて家族と共に来ているものも多いようだ。会場に設置された笹に、町の人々が願いを記した短冊を飾り立てていく。


「おとうさん!アタシの願い事、叶うかなあ?」

「そうだな。さっちゃんがいい子にしてたら叶うだろうな」


 願い事を書いてはしゃぐ子供と、それを暖かく見守る親。


 家族、か。


 今は亡き父を思い出し、天狗面から空を見上げる。面によって狭くなっている視界ではとても周りの景色をすべて見ることは出来ない。見えるのは、ただ眼前の光景だけである。

 私はこの面を被り、前しか見えぬが故に前へ進んできただけなのではないだろうか。ふと、そんな考えが頭をよぎる。しかし、今は祭りの警護見回り中であることを思い出して強く首を振った。


「あ!天狗の兄ちゃん!」


 声を掛けられた方を振り返ると、南小の6年生コンビ、ユウキとタツキがどこかの屋台で貰ったのであろう玩具を持って立っていた。


「うむ。ユウキ君、タツキ君、祭りを楽しんでいるようで何よりである」


「へへっ。型抜きで俺の右に出る奴はいないぜ!」


「僕は傘の形で失敗しちゃったよ」


 平太郎は微笑み、彼らの頭を撫でる。もちろん、微笑んでいることは仮面越しには分からないのだが、彼らには雰囲気で充分伝わったようであった。


「じゃあ、ダイサク達と花火やろうって言ってるから行ってくる!」


「うむ。周りの子達の事も見てやるのだぞ。この天狗仮面も見張っているがな」


「任せろよ!行こうぜタッキー!」


 少年達が駆けてゆく様を見つめる平太郎。家族がおらずとも、この町で出来たつながりはちゃんとあるではないか。もちろん、千里や次郎もいる。何を思い悩むことがあると言うのか。

 自分を戒め、平太郎は見回りを続けるのだった。




   ○   ○   ○




 大人達が祭りの気配に任せて飲んだくれている頃、会場では参加者達に花火が配られ始めた。平太郎も、周りの参加者達に「花火は向こうで配っているぞ」と声をかけつつ、子供たちが集まる場所へと足を向けた。


「む?あれは…」


 そこには、黒いマントを羽織った怪人が子供たちと遊んでいるようだった。確か、名をカラスマントと言ったか。平太郎は遊具の近くで遊んでいる子供達に声をかけた。


「諸君!この天狗仮面も仲間に入れてはもらえぬか!」


「あー!天狗だー!」「兄ちゃんも遊ぼー!」


 子供たちのはしゃぐ声。その横で子供たちと戯れるカラスマントにも声をかけた。


「貴君。なかなか見所のある姿をしているではないか」


「おや、天狗さんではありませんか。子供たちの人気はもはや私のものです。

 って言いたいトコだけど、そろそろ疲れたよ。疲れないの?天狗仮面って」


 カラスマントを名乗る少年が腕に背中にと乗ってくる子供たちをあしらいながら問う。平太郎は一つ高笑いしてこう答えた。


「疲れるかどうかは問題ではないのだ。子供は遊ぶものだ。全力で遊ばずして

 良き思い出になるわけが無い。故に、こちらも常に全力を出すのみだ」


「なんか、高校生にはちょっと暑くるしい台詞だー」


「いや、全力を出すというのは良いものである。持っているものを出し惜しみしてはいかん」


 そう言うと平太郎は遊具の周りにいた子供達に向かって一声叫んだ。


「これより、『天狗鬼』を開始する!諸君らは全員鬼だ!見事、この天狗仮面を

 捕まえてみるがいい!」


 言い終わるか否か、近くにいた数人の子供たちが平太郎を捕まえようと走ってくるが、平太郎は難なくかわしていく。時に走って距離を取り、時に切り返して華麗にかわす。徐々に鬼が増える中、カラスマントが「全力、ねえ」と声に出し、ふっと笑ったかと思うと、息を吸い込んで叫んだ。


(みな)、今こそ天狗を捕まえる時!怪人カラスマントに続くがいい!」


 黒いマントをばさぁっと翻し、子供たちの先陣を切って走ってくるカラスマント。平太郎も仮面の奥でにやりと笑い、


「天狗たるもの、そう易々と捕まるわけにはいかんのだ!」高笑いしながら、子供達に捕まって押しつぶされるまで、平太郎は全力で走り続けた。そうとも、今見える景色に全力を出せばそれで良いではないか。

 花火の時間が近づいたので、終了の宣言をし、カラスマントと握手をして平太郎は公園内の小さな山に向かった。少し小高いその場所は、周りを見渡すのに最適だったからだ。




   ○   ○   ○




 空に、大輪の花が咲き、眼下には小さな花がパチパチと咲いては散っていく。祭りも終盤だ。


「こらあッ!花火を持って走り回るのではない!危ないであろう!」


 中央公園にある、少し高くなった小山の上から、平太郎は花火を楽しむ人たちの姿を見つめていた。遊具の周りでは平太郎が目をかけている4人の少年達も手持ち花火を楽しんでいる。


 小山から辺りを見回す。みんな、笑顔だ。


 平太郎はいつものように一つ大きく頷いて、夜空に浮かぶ花火を天狗面越しに見上げた。


「お疲れかしら?天狗仮面」掛けられた声に振り向くと、そこには浴衣を着た少女が立っていた。


「千里、いや、その姿の時は百里だったな。いつのまに姿を変えたのだ。

 先刻まで、藤堂殿や星野殿と飲んでいたではないか」


「用事があるって抜けてきたわ。タツキ君に誘われた約束を果たさなきゃ。

 ちゃんと誰にも見られずに変化したから安心して。それと、コレ」


「次郎ではないか。いつの間に持ってきたのだ?」猫塚の手に握られた番傘を見て、平太郎は驚いた。朝昼は持っていなかったはずだ。


「ステージ裏に行ったら転がってたのよ。どうやってここまで来たのかしらね」


 面白そうに笑い、猫塚は平太郎の手に傘を押し付けて子供たちの下へと歩いていった。

 まったく、ころころと姿を変えて、仕様のないヤツだ、と思いながら手に取った傘次郎を見ると、柄の部分に可愛い丸文字で「てんぐかめん」と書かれていた。

 周りの人の目もあり、傘次郎は言葉こそ発しなかったが、ずいぶんと疲れた様子であることは見て取れた。


 平太郎がしばらく辺りを見回していると、猫塚と少年達がやってきた。短冊に願い事を書きに行くのだと言う。平太郎も誘われたが、会場を見張らねばならんと遠慮した。


「ねえ、ところでその傘などうしたの?今日はずっと晴れてたじゃん」

「天狗兄ちゃん、それさっきまでは持ってなかったよな?」少年達が問う。


「百里が持ってきたのだ。これを持っていれば、いつ雨が降っても大丈夫だからな」


 平太郎は出任せを述べた。目の前の少年達に傘次郎の存在を明かすわけにはいかない。


「なるほどな。『備えあればうれしない』ってヤツだな!」


「何で用意してあるのに嬉しくないんだよダイサク。憂いなし、だよ」


「やーい、間違えてやんの!…でも、ウレイって何だ?」


「土に()まるほど深く()をすることよ。ユウキ君。

 ちゃんと準備をしておけば、そんなに謝るような失敗はしないって意味よ」


「そうなのか!モモって物知りなんだな!タッキーみてえ!」


「こら」猫塚の頭に手を置く平太郎。

「出鱈目を教えるものではない。憂いとは、心配事のことである」


「ひでえ!だましたのかよモモ!」


「普通は気づくよ。ユウキ君」


「タッキーもひでえ!」


 少年達の笑い声が響く。周りでも、同じように人々は皆それぞれの夏祭りを楽しんでいた。




   ○   ○   ○




 町長から祭りの終わりが告げられ、人々は中央公園をあとにする。祭りの後の独特の雰囲気を感じながら、平太郎も町長に「また何かあれば声をかけて欲しい。この天狗仮面、いつでも助力は惜しまない」と挨拶をしてから公園を去った。


 隣には、コンビニであれこれ買い込んできた袋を提げて、猫塚が歩いている。その姿はいつもの20代半ばの姿に戻っていた。


「呆れたヤツだ。あれほど飲んでいたのに、まだ飲むつもりか」


「平気よ。それに、今から長老の所に行くんでしょう?おねーさんも行くわ」


「うむ。こうして次郎もいることであるしな。一つ、跳んでいこうと思っている」



 駅近くのビルの裏路地に入り、番傘を構える平太郎。猫塚は片方の手で彼の手を握り、空いた手にはコンビニの袋を持っている。


「ではゆくぞ、次郎」

「お任せくだせえ!」


 ビルの隙間から夜の空へと上昇する平太郎と猫塚。ビルの屋上でもう一跳ねして、さらに上空へと跳び上がる。空から見下ろすうろな町の夜景は都会の煌びやかなそれと違い、どこか優しくちかちかと灯りが点在していた。


「これが平太郎の見ている景色なのね」


「この面を付けている時は天狗仮面と……、いや、今はよかろう」


 天狗風を身に纏い、夜のうろなを西の山めがけてひと跳びする一行は、実に妖怪らしい雰囲気であった。山の広場には誰もおらず、町を見守っている長老、栃の木と、横に並んで立つ桜の木が静かに佇んでいた。

 平太郎は天狗面を外し、栃の木に向かって一礼する。


「夜分、畏れ入ります。天狗、琴科(ことしな)平太郎にございます。

 (まつ)りが後ゆえにご挨拶に参りました」


 栃の木はその枝を風に揺らしながら「よい、よい。そう畏まるでない」と応えた。


「ここからでも町の様子は分かるでのう。町の花火も見せてもろうたよ」


 山の長老、栃の木は山に住む動物、植物達の長老である。樹齢数百年のその木の下には、動物も人も人外もみな等しく集まってくる。

 平太郎は横の桜の木にも挨拶をと思ったが、「夜更かしは肌の張りに影響が出るそうでなあ、早々に寝ておるよ」と長老に言われたので、差し控えた。


 傘次郎を横一文字に構え、この広場で剣術稽古をしていた時のことを思い出す。考人のヤツも随分としぼられていたものだ、と思い出しながら、平太郎は本来の天狗の姿へとその身を変えた。


 赤黒い肌に、高く伸びた鼻。顔だけ見れば、仮面をつけている時とさして変わりないが、背中に広がる鳥類のような黒い羽根だけは、いつもの仮初の姿とは違うものだった。


 「琴科一派が天狗、平太郎、これに」静かに名乗りをあげ、ばさりと翼を広げた。傘次郎も猫塚も、それぞれ妖怪姿の唐傘化けとヤマネコの姿に戻っている。


「長老。酒の席により少々騒々しくなること、お許しください」


「ほっほ、少々、で済めばよいがなあ」そういって笑う栃の木に、平太郎は首をかしげる。


「この中でうるさそうなのは次郎ちゃんくらいじゃない?」


「姉御、そりゃあ酷いでさぁ」傘次郎が傘をばさばさと広げて抗議する。


 そんな3人の所へ、茂みの中からがさりと何かが訪れた。見てみると、そこから酒樽を抱えた大男がのしのしとこちらに向かって歩いてきている。


「おお!先客がおったか!」


 その大男は肩に担いだ酒樽を栃の木の前にどかっと降ろし、豪快に笑う。


「儂は鬼ヶ島厳蔵(おにがしま ごんぞう)。しばらくぶりにこの町に戻ってきた鬼じゃ!

 祭りの酒ではちと足りぬでな!長老の所で飲みなおそうと秘蔵の酒を持ってきた!

 お主等は天狗に、唐傘に…化け猫か?」


 賑やかな男である。平太郎たちも自己紹介をすることにした。


「天狗、琴科平太郎である。まだここに来て百年と立たぬ若輩だが、

 周りに恵まれ楽しく過ごしている」


「あっしは平太郎兄貴の弟分、唐傘化けの傘次郎でさあ!

 そちらさんとは初めてお会いしやすねえ」


「私は化け猫と似たようなものね。仙狸の猫塚千里。ヤマネコの(あやかし)よ」


 鬼ヶ島と名乗った鬼は愉快そうに笑い、「よい宴席じゃ!」と言った。

 

「長老!では勝手に始めさせてもらうぞ!さぁ、お主等も呑め呑め!

 妖怪の宴には酒と相場が決まっておる!」


 持ってきた酒樽を長老に捧げた後、鬼ヶ島は手刀で鏡開きをした。鬼の秘蔵酒というだけあって実に美味いもので、4人は朗らかに良い酒を呑んだ。いつの間にやら山の動物達も集まり、辺りの妖怪変化も酒と宴の匂いにつられてか集まってわいわい酒を呑んでいる。


 人外達のお祭り騒ぎは、夜が白むまで続いたのであった。




   ○   ○   ○




「そういえば次郎。どうやって中央公園まで来たのだ?」


「そりゃあもう、語るも聞くも感動必至の波乱の旅でありやした。

 聞いてくだせえ、あっしの旅路を」


「柄に書かれた私の名前とは何か関係があるのか?」


「そこからがこの傘次郎の機転の始まりでさぁ!千里の姉御に書いてもらいやした。

 ビシッと決まってるでございやしょう?」


「可愛く書かれてはいるな」


「え?」


「む?」


 うろなの祭りの裏話、傘次郎の大冒険はまたいつの日にか。祭りも大円団をむかえた故、まずはこれにて。


お祭りで色んなキャラをお借りしました!活動報告にて

報告とお礼をさせていただきたいと思います!


長老の所で妖怪達の宴会を開きましたが、町住みの妖怪達も来ていたかもしれません。描写しなかっただけでwww

きっと陰陽師には気づかれていないはず!たぶん。


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