6月23日 天狗、閉会宣言をする。
終わったー!!
もう火曜日なのに日曜の話がやっと終わったー!
6月23日 昼
南小6年のユウキとタツキは、北小6年のダイサク、シンヤとうろな中学2年の芦屋に追いかけられていた。
「3対2とかヒキョーだぞー!」
「うるせえ!いいから早く捕まりやがれー!」
グラウンドに設置された工事用フェンスを挟んで対峙した5人は、息を整えながら次の手を考える。もう時間は数分もないはずだ。このまま逃げ切れれば勝ちだと南小コンビは判断する。
「タッキー!」「うん!」
言うなり二人はしゃがみこみ、フェンスの下半分に身を隠す。それと同時にタツキだけがフェンス右から飛び出す。「あっ!」「待てよタツキ!」誘われるようにタツキを追うダイサクとシンヤ。
しかし芦屋はそれには釣られず、フェンスの左側へと回りこむ。「彼は囮!正解はこっちね!」とユウキを捕まえようとしたが、そこに彼の姿は無かった。
「残念でしたー!俺もこっちだぜ!」時間差でフェンス右側から駆け出すユウキ。
フェンス下の隙間から、芦屋がどちらに回り込むか観察していたのだ。タツキが逃げていった方角とずらして走り出す。
フェイントに掛かった芦屋の体が深く沈みこむ。ブレーキをかけると共に切り返しの力を蓄え、全力で大地を蹴った。
「甘ーいッ!」
芦屋の身体的能力は、女子中学生平均のそれを大きく上回る。それは陰陽師としての鍛錬の賜物であり、彼女が妖怪と渡り合っていくために必要な能力であった。
「うっわ、芦屋姉ちゃんはえぇ!!」
「祐希君、捕まえたー!!」
「タツキ、捕まえたぜっ!」
少し離れた所でタツキもダイサク・シンヤの二人に捕まったようだった。
○ ○ ○
終了を告げるホイッスルが鳴り響く。
グラウンドに立っているものは1人もいない。平太郎が牢屋テント前に集まった参加者を前に
「『ドロボウ』チームの勝利である!」と宣言した。
「なんでだよ天狗の兄ちゃん!笛が鳴る前にタツキもユウキも捕まえたじゃねーかよ!」
平太郎は、グラウンド端の草むらを指差して、
「芹沢殿が、あそこの草むらで力尽きている。彼が『ドロボウ』チームの生き残りだ」
と言った。彼が自分で隠れようと思ったのか、力尽きた場所がたまたま草むらであったのか、それは誰にも分からなかった。一つ言えることは、全員の心の中になんとなく納得できない気持ちが存在していた、と言うことだろう。
もちろん、せっかく町民が集まったケイドロ大会がたった一回で終わる訳はなく、平太郎はすぐさま次のゲームに向けて用意をするのだと参加者に声を掛けた。
再びそれぞれのチームに分かれて、作戦会議が始まる。
「休む者は見学テントに入っておくのだ!お茶も用意してあるので水分補給は
こまめにするのだぞ!10分の休憩の後、2回戦である!」
『ドロボウ』チーム一回戦勝利の立役者、芹沢洋忠はふらふらと行谷と大辻のいる場所へと戻ろうとしていた。
「たった20分で情けないなー。休憩?却下に決まってんでしょ!」
行谷がどこからか取り出したネズミ花火を投げつけ、シュルシュルと動き回るそれに芹沢は「うわわわわ!」と不思議な踊りを踊った。連続する炸裂音に芹沢は驚く。
「何するんだよお!ひどいじゃないか!なるたんからも言ってやってよぉ!」
「いや、俺はやめようって言ったんですよ?」
そこに飛んでくる平太郎の怒声。
「こらあッ!危ないではないか!ちゃんと片付けておくのだぞ!
芹沢殿!さあ、次の試合も頑張ろうではないか!」芹沢の手を掴んで歩き出す平太郎。
「あら、怒られちゃった。ほらほら、行った行った~」
「ボ、ボクの扱いが何だかヒドくないかぁ~!?」
「キモオタのダイエットに協力してあげてるんだから感謝しなさい!」
「エレナさん、怖いですよ…」大辻は先輩駅員の行動に若干引いていた。
○ ○ ○
稲荷山考人は見物テントで水分補給をしながら芦屋梨桜に声をかけていた。
「芦屋、お前、俺に手加減しろとか言ってなかったか?」
「だってあんな可愛い子達だよ?かわいそうじゃない!」
「でもお前、さっきの試合の最後、本気出しただろ」
「な、何のことかな!?夢中だったからなー。分かんないなー、あはは」
「お前の方が大人げないな。大体、何でケイドロに参加しようと思ったんだ?」
芦屋がとん、と腰に手を当ててさも当然とばかりにそれに答える。
「そりゃあ、人の集まる所に感情は集まるでしょ?」
「どこかに妖狐が紛れててもおかしくない、ってことか」
「そう!それに、こうやって皆で何かするのって、楽しいじゃない。
稲荷山君も楽しもうよ!もちろん、妖狐探しも忘れずにね!」
そういって『ケイサツ』チームの集まる方へと走り去る芦屋。稲荷山はやれやれといった様子で救護テントにいる妖怪仲間の鍋島と猫塚を見やった。
「にゃ~、妖狐探し、頑張るにゃ。あっしは探せと言われてないから探さないけどにゃ~」
「見つかるといいわねえ、妖狐。おねーさんも応援するわ。ねぇ?“うろな町の3尾”君」
楽しそうな笑みをうかべて稲荷山をからかう仙狸と人狼。稲荷山は今日一番のため息をついた。
「はぁ…不幸だ」
そこへ、公園内に入ってきた一組の男女が現れた。うろな中学2年、椋原真帆と、それに拾われた16才男子、日比野正宗だ。
「梅ちゃん先生が変な格好してるー!」椋原が梅原を見て叫ぶ。
「ああ、椋原か」稲荷山が言う。
「椋原。これは仕方のないことなんだ。分かってくれ。
私は清水に嵌められただけなんだ。ところで、そっちの彼は?」
「あ、ども。椋原家で居候してます、日比野正宗です」
「わたしが川原で拾ったんですよー」
それを聞いて、一部の人間は「ああ、あれが噂の拾われ系男子か」と納得する。日比野は少し焦りながらも、「ええ、大体そんな所です」と頭を掻いた。
「わたしたちも混ざっていいかな?楽しそうだよねマサムネ!」
天狗が腕を組んで高笑いする。「大歓迎だ!断る理由など何一つない!」
「あれが噂の天狗か…。思ってた以上に天狗だなあ」マサムネは少したじろいだ。
○ ○ ○
それから後も、小学生達が増えたり、大人達が参加したりしなかったり。
公園内の時計は夕刻、4時を示していた。平太郎は今、見物テントにいる。ある人物と話をしたいと思っていたからだ。この町の町長である。商店街の人に囲まれ、皆の意見を真摯に聞くその姿は、本当にこの町の事を考えていることを平太郎に分からせるのに充分だった。
「町長殿。初めて目にかかる。私は天狗仮面と申す。訳あって名を明かせぬが、
以後、どうか見知っていただきたい」姿勢を正して礼をする平太郎。
「あー、先代から聞いてますよ。町のみなさんの話題にもよくのぼるそうで」
軽く握手しながら町長が言う。
「うむ。この見た目であるからな。仕方あるまい」
「あ、自覚はあるんですね…」
「それでも尚、譲れぬものがある。それだけである。
先代には大変世話になった。微力ながら、この町の為に
尽くそうと思う。私に出来ることならば何でも言ってくれ」
この町長にしてこの町ありだ。今のうろな町があるのは、先代の力が大きいかも知れないが、この人ならば、町をより良いものにしてくれる。そう、平太郎は感じた。
「ええ、宜しくお願いします。天狗さん」
「……うむ」
大きく頷いて、平太郎は颯爽とテントを出る。間もなく今の試合の終了時間だ。平太郎は閉会の準備の為にグラウンドへと歩き出した。
○ ○ ○
開会した時と同じように、参加者達が土管の前に集まり、土管の上には天狗が唐草マントをひらめかせて立っている。もう泥棒風呂敷スタイルはやめたようだ。
「みな、今日は楽しんでいただけたであろうか!
こうして町の皆が集まって交流を深められたこと、非常に感慨深い!」
そう言って横に置いてあったトロフィーを掲げる平太郎。トロフィーは商店街の雑貨屋で購入したものである。
「今日の最優秀参加者を発表する!より多くの者と交流し、ケイドロにて活躍した証を
ここに進呈する!その者は……」
グラウンドに一瞬、静寂が訪れる。平太郎が大きく息を吸った音が参加者達にも聞こえた。
「うろな高校1年!日出まつり!!」
「えっ、ホントに!?やったぁ!」飛び上がる日出。
「さあ、こちらへ。これからも、うろなケイドロマイスターとして
皆との交流を深めてもらいたい」
「まつり姉ちゃーん!かっこいいぜー!!」
「まつりちゃんすごーい!」
降り注ぐ拍手喝采に応えて、日出は土管の上でトロフィーを大きく掲げて満面の笑みを浮かべていた。
平太郎は最後に、連絡事項として今日の一部始終が収められた映像を望むものは、帰りに小林拓人教員にその旨を伝えて行くようにと言った。「雑費はこちらで持つので、是非記念に取っておくのだ!」
「帰るまでがうろなケイドロだ!帰る方角が同じ参加者は集まって帰るように!
年長の諸君はその辺り、よろしく頼む!皆の者!来月の祭りでまた会おう!
では、うろなケイドロ大会、これにて閉会である!」
再び起こる大きな拍手。参加者の規模といい、目的であった交流の充実具合といい、まずまずの結果であったと平太郎は満足げに頷いた。
後はグラウンドに置いた障害物やテントの撤収作業だけであるが、手筈は整えてあるので、あとは大丈夫だ。
公園に吹き込む風を身に受けながら、平太郎は「やはりこの町は良い所だ」と実感する。
閉会後の参加者達のざわめきが、とても心地よかった。
こんな自分でも、この町の為に何かが出来る。そう思った時、平太郎の胸の内に何か熱いものが込みあげてくるのであった。
○ ○ ○
余談であるが、うろなケイドロの様子を記録していたのは、小林拓人と清水渉の2名である。2台の記録テープのうち、清水が撮っていた物はそのほとんどが梅原の姿を追いかけたものであった。
唯一、梅原がフレームから外れたのは、ハプニングで高原に抱きかかえられる田中を収めた時だけである。
『梅原メモリー』と名付けられたそのテープの存在が明るみに出ることは果たしてあるのだろうか。それは、神と清水にのみ分かることである。
力を失った天狗、平太郎ごときに手の及ぶ代物ではないのだ。
うろな町は今日も変わらず平和である。
本当に多くの皆様の参加に感謝が絶えません!
とても、とても楽しませていただきました!
自分だけこんなに楽しんで良かったのかと思うくらい
色んなキャラクターに触れられて非常に幸せです!
改めて、参加表明をしていただいた方々、
本当にありがとうございました!