幸運な男
世の中の人は、俺を幸運なんて言っちゃあいるが、俺はちっともついていないと思う。
交通事故に会うわ、強盗に立て篭られる、財布を何度無くしたのか分からないし、この間なんか大事件に巻き込まれるし、本当についていない。
「俺って本当についてないよな」
四畳半の天井に向かって、俺は一人呟いた。
――ピンポーン
誰だろうか?
呼び鈴が鳴ったので、玄関へ出てみと男が立っていた。
彼が言うには、自分は週刊誌の記者で、俺にインタビューしたいことがあるらしい。
「俺に聞きたいことって何ですか?」
「ハイ。飛行機、船、列車、トラック、数々の事故に会いながらも無事に生還している幸運なあなたにぜひ感想を……」
「帰ってください」
おれは玄関を閉じ、鍵を閉めて、チェーンロックを掛けた。しばらく声やノックの音が聞こえたが、ちょっと経って直ぐに止んだ。
――ジリリリン
今度は電話が鳴りだした。
受話器を取ると今度は弁護士から電話がかかった。
「立て篭もり犯の実家が、結構な金持ちだったようでね。幸運じゃないですか、賠償金を沢山ふんだくれますよ」
「そうですか」
おれはだまって受話器を置いた。
――ジリリリン
続け様に電話が鳴る。
「もしもし、警察です。――さんですね?」
「はい、そうですが」
「あなたの財布が無事見つかりましたよ。今まで全部無事だなんてあなたは本当に幸運ですよ。あと、これが本題なんですが、自爆テロの件、幸運にも生還したあなたの証言からテロに関する有力な情報が手に入ったので、後日改めて感謝状を贈ることになりました」
その後は、表彰式の日取りやら時間やらを説明されて終わった。
今日一日を振り返って思うのだ。
「つくづくロクな目に遭って来ていない。やっぱり俺は不幸だ」
本当に運のいいやつは、俺みたいに事件や事故に遭っていないのだから。




