約束破り
「従わずとも自衛に徹するならば我々は奪わない」
その言葉を受けた王は感謝した。
なにせ、双方の死者は既に甚大だったから。
「不干渉。それこそが我らにとっての最善の道である」
敵国の王の言葉に王は同意した。
大勢はすでに決していた。
王の国は既に戦うだけの力はなく、それであるのに憎しみはとぐろを巻き、民達は最後の一人となっても抵抗を続けるだろう。
敵国の勝ちは決まっている。
それでも容易く手に入れられる勝利ではなく、むしろ僅かな土地のために多くの命を失う苦い勝利しか残っていない。
故に提案されたのだ。
「自衛に徹しよう。互いに不干渉としよう」
ここに約束が結ばれた。
千年も昔の話である。
*
「勇者よ。よくぞ目覚めた」
約束から千年後。
約束をした王様の千年後の王様は勇者に言った。
「我らは魔物によって常に追いやられ、この小さな土地でしか生きてこられなかった」
嘘ではない。
だが、真実は違う。
けれど、千年の時間は人間にとって長すぎた。
「今こそ、魔物……魔王への反撃の時だ」
自衛に徹するならば――そんな約束を覚えている人間など最早いない。
勇者は恐ろしい力を用いて魔王の領土へと歩き出す。
立ち塞がるものを切り伏せる。
少しずつ、人の領土を増やしていく。
千年の時間は人間にとっては途方もなく長い。
しかし、魔物にとっては長いけれど忘れられないほど長い時間ではない。
魔物たちの鳴き声が響き渡る。
しかし、千年の時間は人間の世界から彼らの言葉を消し去るのには十分な時間だった。
彼らの鳴き声。
いや、言葉を訳するなら以下のようになる。
『約束破り』




