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冬海にたつあぢさゐ  作者: 絹田屋


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9/9

おわりに


 私の生活は以前と同じ間隔で繰り返された。キヨさんに飯の世話をしてもらい、書斎に引きこもり、八畳間や茶の間で執筆をし、時折三木谷と会う。

 変わった事といえば、駿河君がふらりと立ち寄る様になったくらいか。キヨさんの飯と久慈さんの本が目当てであります、等と言うので拒まずに招き入れている。優秀な成績で卒業した後は士官の道を突き進んでおり、今後の日本を背負う重要な人物になるのであろう。

 

 彼からの手紙は、何通か近況報告として届いた。然し私から返事を出す事はなく、軈て彼からの便りも、ふつりと途切れた。物悲しくもあったが安堵した部分もある。自分本位であるのは十分に理解しているが、彼からの便りを重荷に思ってしまう様な性根に、自分自身が失望した。大人の素振りをして、便りが無いのは順調な証拠である、等と格好つけるのも無様である。

 未練がましく何度も読み返したし、触れ合った日を求めて何度も字を指でなぞった。初めに貰った手紙と変わらず、流れる清水の如き文字の形を辿っては、水平線の向こうを手繰ろうとした。


 だから、私は毎年訪れてしまう。


 彼が出立した港と海が見渡せる庭園。其処は、二人で共に散策した庭園の紫陽花と同じ種類のものが、海の先を見つめる様に植えられている。梅雨時には鮮やかな色彩だったのだろうと伺わせる面影が、どの塊にも残る。

 澄み切った青、寛大な白、闊達な赤、移ろいゆく紫……。私が其処へ訪れる時期には、水の器はどれもが褪せて、どれもが色を失くしている。世界の先は大海に包まれていて、輝く水面が放つ輝きに満ちているというのに、その美しさの先にある煌めきに触れる気にはならなかった。


 息さえも凍りつきそうな潮風に揉まれても。葉に積もる雪に錆び付く程の寂寥を伴おうとも。

 それでも冬海を臨み、四葩を散らすこと無く、呆然と立ち続けている。

 

 散ることも許されぬ感情を、何と名付けようか。

 

 今でも答えを出せぬ儘、正しさだけを握りしめている。


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