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桜庭探偵事務所  作者: ゆうすけ


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3/4

3 泥田坊

「先生、S市の駅前にできたビルがあるじゃないですか?」 

桜庭探偵事務所の助手、三上沙彩は所長の桜庭に語りかけた。


「再開発が行われたところか。そのビルがどうしたんだい?」

椅子に腰掛けた桜庭は読んでいた本を閉じ、聞いた。


「深夜、そのビルのところで妖怪が目撃されたらしいんです」


「ほう、それは面白い」

桜庭は椅子にゆったりと、もたれかかりながら尋ねた。

「どんな妖怪だい?」


「暗がりではっきりとは、わからなかったらしいですけど、1つ目で指が3本だったそうです」


泥田坊どろたぼうと言う妖怪がいるね」


「泥田坊?」


「耕作を放棄された田んぼから現れ、『田を返せ』と嘆く死者の念が妖怪化したものと言われている」


桜庭は泥田坊の説明を続ける。


老人が息子のために、田んぼを残して死んだ。

その息子は農業を継ぐどころか酒を飲んでばかりで果ては田を売り払ってしまった。その後、夜な夜な田に「田を返せ、田を返せ」と罵るものが現れた。


「それには、顔が片目のみで手の指が3本しかなかったらしい」


「そうなんですよ先生!」


「?」桜庭は困惑した顔をした。


「実はそのビルができる前、その土地は田んぼだったんです」


親から引き継いだ大切な田んぼだったが、息子はあっさりとお金のために売っ払ってしまった。


「しかも売った相手が暴力団関係者だったんじゃないかと問題になってるらしいです」


「確かS市は市長が暴力団追放を掲げていたんじゃなかったか?」


「その通りです」

S市の今の市長は暴力団追放を掲げている。


「そうなった、きっかけの事件があるんです」


A組と対立するB組の組員が揉めた。


個人的な諍いだったが、B組の2人とA組の組員1人が喧嘩になった。A組の組員は袋叩きにされ、その喧嘩で片目を失った。


暴力団に対して周囲の見る目はどんどん厳しくなっている。


そのためA組の上層部はB組と話し合って解決するので勝手に動かないようにと組員に命令した。


しかし片目を失った組員は報復行動に出て喧嘩相手の1人を襲撃した。


上層部は激怒して勝手な行動を起こさないようにと再び厳命した。


しかし再び命令を無視しもう1人の喧嘩相手を襲撃した。


組員は2度に渡る命令違反に対し、自分の指を2本切り落とし「けじめはちゃんとつけた、これでいいだろう?」と平然とした態度だったと言う。


「それでこそヤクザだ」と報復を成し遂げた組員を称賛する声も多かったらしい。


また組織に対する長年の貢献のため命令違反に対しても同情的な声が多かった。


しかし世間からの視線は厳しく、市長は暴力団追放を掲げるに至った。


そのためA組の上層部の怒りは強く、男は組織から追放されたと言う。


「ずいぶん詳しいな」

「実は三上のおばさまから聞きました」


沙彩は小さな頃、両親を亡くし三上家に引き取られた。


「友人がS市に住んでいるそうで、いろいろ詳しい情報が入るそうです」


「そんな状況で、田んぼを暴力団に売ったのか?」


「本人は少しも、やましい感じもなく、むしろ得意気だそうです」 


その男の名前は黒川と言う。


駅前に住む黒川は親から田んぼを引き継いだ。


S市に拠点を置く暴力団Aは駅の周辺が再開発されると言う情報をいち早く入手していた。


開発されれば土地の値段も上昇する。暴力団はなんとしても土地を手に入れたがっていた。


暴力団が駅前の土地を欲しがっている。


その情報を聞きつけた黒川は暴力団に自らコンタクトを取り、親から受け継いだ田んぼを売っ払い大金を手にした。


それがきっかけで暴力団の組長とも交際が始まった。


周囲から冷たい目で見られても気にせず、むしろ本人は暴力団との関係を周囲に誇示していると言う。


黒川は近々、バーを開店する予定だ。

その資金をA組が提供していると言う噂もある。


そして開店前に関係者を招いてパーティーをする予定だと言う。


「面白いな」桜庭は興味深そうに聞いている。


この人、妖怪よりヤクザの方が興味あるんじゃないか?


ビルの近くに現れた妖怪はとても気になる。


「正式な依頼があればすぐに調査に行くよ」

桜庭はそう言って笑った。


「でも目撃者が泥田坊を見たのは深夜だし、お酒も入っていたらしいのでどこまで信頼できるか…」


しかもS市は、ここから遠く離れている。


自分たちには関係のない話だ。沙彩はこの事件に対して興味を断ち切った。



ところが予想外に三上のおばさまの付き添いでS市に行くことになった。


駅前は再開発されてすっかり賑やかになっていた。


そこに開店した有名なレストランがある。


S市に住む友人に「一緒に行こう」と三上のおばさまが招かれたのだ。そして私もついていくことになった。


駅の近くは、以前は田んぼがあったとは信じられないほど、様変わりしていた。


泥田坊が目撃されたビルだ。近くを見ると開店予定のお店があった。


確か、この店名は黒川が開店する予定のバーの名前だ。


ビルと、こんな近い位置にあったのか…


開店前に関係者のみを招いてパーティーをする…


そこに組長も招かれているとしたら?


泥田坊の特徴は1つ目で指が3本。


組織を追放された組員の特徴と一緒だ。


その組員がバーを監視していたとしたら?


そして真の目標は黒川ではなく組長。


尽くしていた組織を放り出され、そのことを恨んでいたとしたら…? 


目の前を男が走り抜けていった。

一瞬だったのでよくわからなかった。


だが、男は片目で指が3本しかなかった。


…ような気がする。


店の前に人だかりができ騒々しくなっていた。


…誰かが撃たれたらしい。


…やだな、また暴力団同士の揉め事か?


そんな人々の声が聞こえてきた。

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