幕間録:006「防寒着と白い騎士」
感想からとても良い原案をいただきました。
ご提案の内容がとても良かったので、出来る限り採用して執筆いたしました。
ご満足頂ければ幸いです。
吐く息が白く染まる季節になった。
山の中腹にあるこの老犬ホームにも、本格的な冬の寒さが訪れている。
窓の外では、枯れ枝を揺らす北風がヒューヒューと冷たい音を立てていた。
だが、施設の中は薪ストーブとエアコンの恩恵で、春のようにポカポカと暖かかった。
元保健所職員であり獣医師の資格を持つ町田亜子さんが、専属獣医としてこの施設に合流してから、早くも数ヶ月が経過した。
彼女の存在は、俺たち人間だけでなく、ここに暮らす五十匹近い老犬たちにとっても、すっかり欠かせないものになっている。
日々の診察や健康管理はもちろんのこと、彼女が持つ確かな医療知識は、俺の「老犬の言葉がわかる」という能力と見事に噛み合っていた。
犬たちの痛みの声を俺が通訳し、町田さんが医学的なアプローチで原因を突き止め、治療する。
それは、言葉を持たない動物たちを救う上で、これ以上ない最強のタッグだった。
最初の頃は、俺が老犬の言葉を通訳するたびに、町田さんは半信半疑で怪訝な顔をしていたものだ。
科学的な知識と長年の経験で命を救おうとしている彼女にとって、超能力のような俺の言葉は、無責任な「犬好きの妄想」にしか聞こえなかったのだろう。
無理もない話だ。
獣医師という科学の徒に対して、犬の心の声が聞こえるなどと主張しているのだから。
だが、俺の通訳をもとにエコー検査や精密検査を行った結果、彼女自身の手で隠れた病巣を次々と発見していくうちに、ついにその能力を事実として受け入れてくれた。
今では、彼女の方から「山城さん、この子の問診をお願いします」と頼んでくるほどには信用を得られたようだ。
そして最近、俺たちの生活にはもう一つ新しい変化があった。
うちの施設の老犬たちの健康管理だけでなく、近隣の住民が飼っている犬の診察も受け入れるようになったのだ。
この辺りは限界集落に近いほど高齢化が進んでおり、車で何十分も離れた町の動物病院までペットを連れて行くのは、足腰の弱いお年寄りにとって非常に大きな負担になっていた。
だからこそ、施設の入り口に「山城老犬ホーム&町田動物病院」という手作りの小さな看板を掲げたところ、あっという間に口コミで広がり、ぽつぽつと地域の患者が訪れるようになったのである。
かつて孤独の底にいた俺が、こうして地域の誰かの役に立てる日が来るとは、数年前には想像もしていなかった。
俺という人間は、かつて愛犬のコロを見殺しにした屑だ。
その罪悪感は一生消えることはないだろうが、コロが遺してくれたこの能力を使って、少しでも多くの命と心を救うことが、俺にできる唯一の贖罪だった。
どれだけ多くの命を救おうとも、あの日に見捨てた小さな命への償いにはならないかもしれない。
それでも、俺は歩き続けるしかなかった。
この声が聞こえる限り、彼らの最期に寄り添い続けると決めたのだから。
木枯らしが窓を揺らす、ある日の午後。
待合室代わりにしている奥の広い部屋では、いつものようにうちの老犬たちが集まり、暖房の効いた部屋でだらだらとくつろいでいた。
元ブリーダーが使っていたこの広大な土間は、町田さんの手によって見違えるほど清潔な診察室と待合室に生まれ変わっている。
空気清浄機の静かな作動音に混じって、犬たちの穏やかな寝息が響いていた。
『……ふぁあ。
今日は一段と冷えるねぇ。
骨の髄まで寒さが染みるよ』
雑種のモモ婆ちゃんが、お気に入りの毛布にくるまりながら大きなあくびをする。
保健所から引き取った当初はガリガリに痩せ細っていた彼女だが、今ではすっかりふっくらとして、毛並みも良くなっていた。
その隣では、柴犬のゲンが腹を無防備に出して寝転がっていた。
『そうか?
部屋の中はポカポカで最高だぜ。
俺はずっとここで寝ていたい』
『お前はいつも寝ているだろうが。
元番犬としてのプライドはないのか』
同じく元番犬のバロンが、呆れたようにゲンを小突く。
工場で過酷な労働を強いられてきたバロンもここでの生活に慣れ、かつての刺々しさはすっかり鳴りを潜めていた。
だが、バロン自身もストーブの真ん前という特等席から一歩も動こうとしないのだから、あまり説得力はない。
『……ストーブの前から動かないというのも、それはそれで退屈なものだ。
だが、動けば寒い。
生とは常に矛盾を孕んでいるな』
窓際で外の景色を眺めていた哲学者のサブが、白く濁った片目を細めながら、そんな小難しいことを呟いた。
雨の日にふらりとやってきて、そのまま居着いてしまったサブも、すっかりこの場所の古株のような顔をしている。
平和な光景だ。
俺は新しく作ったカルテの整理をしながら、そんな彼らのやり取りを聞き流していた。
すると、玄関のチャイムが控えめに鳴った。
「はい、どうぞ。
開いてますよ」
俺が声をかけると、引き戸がガラガラと開き、冷たい風と共に小柄なおばあさんが姿を見せた。
近所に住む、ヨシ江さんだ。
数年前にご主人を亡くし、今は一人暮らしをしているというおばあさんである。
そして彼女の手には、一本の太いリードが握られている。
その先には、真っ白でフワフワの毛並みを持つ大型犬……
サモエドの「シロ」がいた。
年齢は今年で十一歳になる立派な老犬である。
「こんにちは、山城さん。
それに、町田先生。
今日はお邪魔してごめんなさいねえ」
ヨシ江さんが申し訳なさそうに頭を下げる。
「いらっしゃい、ヨシ江さん。
シロ君、今日はどうしたんですか?」
白衣姿の町田さんが、優しく微笑みながら歩み寄る。
俺もシロの顔を見て、思わず目を丸くした。
シロは、真っ赤な手編みのセーターをすっぽりと着せられていたのだ。
ただでさえモコモコとした巨体に、さらに分厚い毛糸のセーター。
まるで巨大な赤いダルマのようだった。
しかも、首元には黄色のマフラーまでしっかりと巻かれている。
どう見ても、犬に着せるには度を越した防寒装備だ。
「それがねえ、先生。
最近、シロの元気がなくて……
散歩に行ってもすぐにへたり込んで帰りたがるし、家でもずっとぐったりしてるのよ。
ご飯もあんまり食べないし……
急に寒くなったから、風邪でも引いたのかと思って、急いでこのセーターを編んで着せたんだけど、全然良くならなくてねえ。
三年前に夫に先立たれてから、この子は私のたった一人の家族なのよ。
私自身はまだ元気だけど、この子が倒れちゃったらどうしようって、心配で心配で……
ここなら診てもらえるって聞いて、飛んできたのよ」
ヨシ江さんは今にも泣き出しそうな顔で、シロの頭を撫でた。
シロは「ハァ、ハァ」と荒い息を吐きながら、舌をだらりと垂らして床に伏せている。
確かに、一目見て元気がなさそうだ。
深刻な病気なのかもしれない。
俺がそう思ってシロを見つめていると、待合室の犬たちがヒソヒソと話し始めた。
『……おい、ゲン。
あいつ、すげえ格好だな。
赤いダルマみたいだぞ』
『しっ、聞こえるぞ。
でも、あれじゃあ身動きが取れねえな。
敵が来たらどうするんだ?』
『お前ら、失礼なこと言うんじゃないよ。
あれは飼い主の愛ってもんさ。
愛情が形になったんだよ』
モモ婆ちゃんがたしなめるが、犬たちの好奇の視線はシロに釘付けだ。
すると、床に伏せていたシロが、俺の方をちらりと見て、微かな声を脳内に響かせた。
『……おい、そこのあんた。
健太、だったか。
あんた、俺たちの声がわかるんだろ?
頼む、助けてくれ……
俺はもうダメかもしれない……』
俺はハッとして、さりげなくシロのそばにしゃがみ込んだ。
町田さんはヨシ江さんから詳しい状況を聞き取るために、持参したメモ帳を開いている。
その隙に、俺はシロの耳元で小声で尋ねた。
「どうした、シロ。
どこか痛いのか?
お腹か?
それとも関節か?」
俺が小声で尋ねると、シロは悲痛な顔で首を横に振った。
『……いや、違うんだ。
……暑いんだよ』
「……は?」
『暑いんだ!
死ぬほど暑いんだよ!
俺は寒さにはめっぽう強いんだぞ?
雪や氷の上を走るための体なんだ。
この分厚い毛皮だけでも、暖房の真ん前にいるみたいにポカポカだってのに!
そこにこんな毛布みたいな服を着せられてみろ!
少し歩いただけで、体から湯気が出ちまうわ!』
シロの怒涛の訴えに、俺は思わず吹き出しそうになった。
病気ではない。
ただ単に、過剰な厚着で体が熱くなり、ばてているだけだったのだ。
「……じゃあ、なんで脱がないんだよ。
自分で暴れて脱ぐことだってできるだろ?」
俺が呆れてそう言うと、シロは急にシュンとして、ヨシ江さんを見上げた。
その瞳には、深い愛情と、飼い主に対するどうしようもない思いやりが宿っていた。
『……そんなこと、できるわけないだろ…
ばあちゃん、俺が寒いんじゃないかって心配して、夜なべして一週間もかけてこれ編んでくれたんだぞ?
老眼で目をしょぼしょぼさせながら、編み目間違えて何度もやり直して、俺のために一生懸命作ってくれたんだ。
それを俺が、「暑いから嫌だ」なんて言って暴れて脱ぎ捨てたら……
ばあちゃん、悲しむじゃないか。
じいちゃんが死んでから、ばあちゃんには俺しかいないんだ。
俺は、ばあちゃんを泣かせたくない』
シロの言葉に、俺は胸の奥がキュッと締め付けられるような感覚を覚えた。
犬という生き物は、どこまでも優しく、そして飼い主の愛情に応えようとする。
自分が苦しくても、飼い主の笑顔のために我慢してしまうのだ。
この巨大な白い老騎士は、ヨシ江さんの不器用で過剰な愛情を、文句一つ言わずに全身で受け止めていたのである。
犬は言葉を持たない。
だからこそ、人間の思い込みだけで接していると、時々こうしてボタンを掛け違えてしまう。
愛情が深いほど、そのすれ違いは大きくなってしまうのだ。
『……でも、もう限界だ。
頼む、健太。
ばあちゃんを傷つけないように、この毛布みたいな服を脱がせてくれ……』
シロの切実な願いを受け、俺は立ち上がった。
さて、どうするか。
ヨシ江さんの前で、「シロが暑いと言っていますよ」と俺が直接通訳するわけにはいかない。
俺の能力は、町田さん以外には秘密にしているのだから。
俺は診察の準備をしている町田さんに歩み寄り、声をかけた。
「町田先生。
ちょっといいですか。」
「はい?
どうしましたか、山城さん。」
俺は町田さんの耳元に顔を近づけ、小声で囁いた。
「シロの奴、病気じゃありません。
あの服のせいで『暑い』って言ってます。
サモエドって犬種は寒さに強いから、あんなの着せたら熱中症になるって。
でも、ヨシ江さんが一生懸命編んでくれたものだから、自分で脱げないそうです。
先生の専門知識で、うまくヨシ江さんに説明してやってくれませんか」
俺の言葉に、町田さんは一瞬目を丸くしたが、すぐに「なるほど」と小さく頷いた。
彼女の口元に、微かにプロフェッショナルな笑みが浮かぶ。
俺の通訳と、町田さんの医学的知識。
この連携こそが、うちの病院の最大の武器なのだ。
「分かりました。
私に任せてください!」
町田さんはヨシ江さんの方に向き直り、穏やかな声で話し始めた。
「ヨシ江さん。
シロちゃんに、とても素敵なセーターを編んであげたんですね。
編み目も綺麗ですし、愛情がたっぷりこもっていて、本当に素晴らしいと思います。
シロちゃんも、すごく喜んでいますよ」
「あら、そうかしら?
でも、全然元気にならなくて……」
「実はですね、シロちゃんの元気がない原因は、『寒さ』ではないんです。
むしろ、逆なんです」
「……逆?」
ヨシ江さんが首を傾げる。
町田さんはシロの分厚い白い毛並みを優しく撫でながら、説明を続けた。
「シロちゃんのようなサモエドという犬種は、もともとロシアのシベリアという、氷点下になる極寒の地でソリを引いていた犬なんです。
だから、寒さから身を守るために『ダブルコート』といって、上毛の下に非常に密生した下毛が生えているんです。
人間で言えば、最高級の分厚いダウンジャケットを常に二枚重ねで着ているような状態ですね。
シロちゃんにとっては、日本の冬の寒さくらいが、ちょうど快適な温度なんですよ」
「まあ、そうなの!?」
「はい。
ですので、そこにさらに分厚い毛糸の服を着せてしまうと、シロちゃんにとっては真夏に暖房の前にいるような状態になってしまうんです。
散歩で歩きたがらないのも、ご飯を食べないのも、暑くてばててしまっているからです。
シロちゃんはヨシ江さんが大好きだから、せっかく作ってくれた服を嫌がらずに着ていたんですね。
本当に、賢くて優しい子です」
町田さんの分かりやすく、そしてヨシ江さんの愛情を否定しない完璧な説明に、俺は心の中で拍手喝采を送った。
ヨシ江さんは驚いたように目を瞬かせ、そして慌ててシロのセーターに手をかけた。
「あらやだ!
私ったら、シロを喜ばせようと思って、かえって苦しめていたのね!
ごめんね、シロ。
暑かったわよね、本当にごめんなさいね!」
ヨシ江さんが急いで赤いセーターとマフラーを脱がせると、シロのモコモコとした真っ白な体が現れた。
セーターの下に隠れていた毛は、汗のような湿気で少ししんなりとしていた。
脱がされた瞬間、シロは「ぶるぶるぶるっ!」と体を大きく震わせた。
その拍子に、真っ白な抜け毛が雪のように宙を舞う。
そして、先ほどまでのぐったりした様子が嘘のようにシャキッと立ち上がり、「ワン!」と元気な声を上げた。
千切れんばかりに尻尾を振り、ヨシ江さんの顔をペロペロと舐め回す。
『ふあーーっ!
生き返ったぜ!
涼しい!
空気が美味い!
やっぱり毛皮だけが一番だな!』
シロの脳内からの歓喜の叫びに、俺はたまらず声を立てて笑ってしまった。
「ほら、すっかり元気になりましたね」
「本当だわ!
良かったぁ……
大きな病気じゃなくて、本当に良かった。
夫が残してくれた、大事な大事な家族だから……」
ヨシ江さんはシロの首に抱きつき、安堵の涙を浮かべていた。
シロはヨシ江さんに抱きしめられながら、俺と町田さんに向かってウインクするように片目を瞑った。
『健太、そして先生。
恩に着るぜ。
これで明日から、またばあちゃんと元気よく散歩に行ける』
「ああ。
でも、あんまり無理してばあちゃんを心配させるなよ。
暑い時は暑いって、ちゃんと態度で示せ」
俺が小声でシロに言うと、シロは『善処する』とばかりに鼻を鳴らした。
ヨシ江さんは立ち上がると、脱がせた赤いセーターを大事そうに抱き抱えた。
「町田先生、山城さん。
本当にありがとうございました。
これからは、この子の犬種のこと、もっとちゃんと勉強しなきゃダメね。
せっかく編んだこのセーターは……
私が冬の間の膝掛けとして大切に使わせてもらうわ」
「それがいいと思います。
とても暖かそうですからね。
何か心配なことがあれば、いつでも連れてきてください。
私たちはいつでもここにいますから」
町田さんが優しく微笑み、ヨシ江さんを見送る。
玄関を出ていくシロは、来た時の重苦しい足取りが嘘のように、軽快なステップでヨシ江さんを引っ張っていった。
外の寒空の下を歩いていくヨシ江さんとシロの後ろ姿は、まるで長年の相棒のように息がぴったりと合っていた。
ああやって、言葉は通じなくても、互いを思いやりながら生きている人間と犬はたくさんいるのだろう。
俺の家は、そんな彼らが少しでも長く幸せな時間を過ごすためのお手伝いをする場所なのだ。
かつて、冷たい雨の中で震える愛犬を見殺しにした俺が、今こうして誰かの笑顔と、犬たちの安堵のために関われている。
その事実が、胸の奥底にこびりついた罪悪感を、ほんの少しだけ和らげてくれるような気がした。
待合室の犬たちが、それを見送ってまたヒソヒソと話し始める。
『……なんだ、脱いじゃったのか。
あの赤いダルマ、けっこう似合ってたのにな』
『ゲン、お前も着せてもらえばいいじゃないか。
健太に頼んで、黄色いセーターでも編んでもらいな』
『冗談じゃねえ!
俺は誇り高き柴犬だぞ!
服なんか着せられたら、一歩も歩けなくなるわ!』
そんな賑やかなやり取りを聞きながら、俺と町田さんは顔を見合わせて小さく笑った。
仕事が一段落し、二杯分のコーヒーを淹れる。
湯気の立つマグカップを渡すと、町田さんは両手でそれを包み込み、少しだけ遠くを見るような目をした。
「お見事でした、町田先生。
ヨシ江さんの気持ちを傷つけずに、見事にシロを救ってくれましたね」
「山城さんの通訳があったからですよ。
私一人では、ただの『元気がない』という症状から、あそこまで正確に原因を特定することはできなかったかもしれません。
それに……
飼い主の愛情ゆえの我慢だなんて、犬の口から直接聞かなければ絶対に分かりませんから」
町田さんは少し照れくさそうに眼鏡の位置を直した。
窓の外を見ると、本格的な冬の到来を告げるように、さらに強い風が吹き荒れていた。
それでも、俺たちのいるこの部屋の中は、ストーブの火と犬たちの体温で、満たされた温かさがあった。
「保健所にいた頃は、人間の身勝手な理由で持ち込まれる犬ばかり見てきました。
愛情が足りなくて、捨てられる命ばかりを。
でも……
愛情が深すぎて、すれ違ってしまうこともあるんですね」
「ええ。
犬は言葉を持たないから、人間の思い込みだけで接していると、時々ボタンを掛け違えてしまうんです。
でも、俺たちなら、その愛情の掛け違えを直してやれるんじゃないでしょうか」
言葉を持たない動物は、人間の身勝手な行動で苦しむこともあるが、同時に人間の愛情を受け止めるために、一生懸命我慢してしまうこともある。
俺と町田さんがいるこの場所は、病気を治すだけではない。
飼い主と犬の『すれ違う愛情』を少しずつ正しい形に翻訳し、心と心を繋ぐ場所なのだ。
窓の外では、冷たい木枯らしがまた一つ、木の葉を揺らして吹き抜けていった。
だが、この小さな診察室の中は、犬たちの温かい体温と、優しい愛情で満たされていた。
動物病院の新しい日常が、こうして少しずつ、この町に根付いていくのを感じていた。
傍らで丸くなっているモモ婆ちゃんが、安心したように深いため息をつく。
俺もまた、一口飲んだコーヒーの温かさを噛み締めながら、これからの騒がしくも愛おしい日々に思いを馳せていた。
健太は町田さんの理解を得られたようでよかったですね。
これからも沢山の老犬を救って欲しいと願っています。




