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【完結】冥府魔道  作者: ikhisa
魔道(罪)
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ベイルとアドニス-3

 ベイル傭兵団は、ミオリアの元で戦うことになった。当面の相手としては、ミオリアのいる都市を、幾度となく襲ってくる兵団の対処になりそうだった。騎士団崩れと野盗の混じった比較的大きな集団で、ベルゼウスというドラゴンが頭となっている。都市の城壁の中まで侵入してくる力はないが、都市周辺の民家などが襲撃の被害にあっていた。周辺住民が、その対処をミオリアに願い出ていたのだ。

 そんなわけで、ベイルたちは、ベルゼウスの動向を掴むために、周辺の調査に当っていた。

 

「それでは、ベルゼウスはここから北西の辺りから来たのですね?」

 被害にあった男の言ったことを、地図を持ったアドニスが確認する。男はコクリと頷いた。彼はベルゼウス達に、妻子を奪われている。アドニスが、礼を言う。

「分かりました。ご協力、ありがとうございました。ベルゼウスは、我々が排除します」

 立ち去るアドニスを、男は複雑そうな目で見送る。傭兵団も、野盗とそれほど変わらないだろうが、と言いたげな目つきだった。アドニスは気づかないフリをする。雇われる相手次第では、確かにそうなってもおかしくないからだ。

 アドニスが待機していた兵団に戻ってくると、ベイルたちにまとめた情報を伝えた。ベイルが地図を見ながら言う。

「さっさと片づけるか。ベルゼウスとやらは俺がやる。一対一になったら、手を出すな」

「……分かったよ」

 アドニスは承知した。目配せをして、他のメンバーにも伝える。彼らも了解したようだ。ベイルの獲物に手を出すのは御法度と、厳重に伝えてある。

 ベイル兵団は、北西に向けて、動き始めた。


 目的に到達すると、古い、崩れかけの砦が目に入った。どうやらそれを根城にしているようだ。辺りを探索してきた斥候の話によると、砦の中の敵は、それほど数は多く無いようだ。

 アドニスが空を見上げると、ちょうど雨雲が出てきたようだった。アドニスがそれを見て、言う。

「雨が降りそうだ。降り出した直後に突入しよう。足音も消せるから、奇襲になる。数では勝っているから、一気にカタを付けられるはずだ」

 全員がその案に了解した。


 雨が降ってきた。雨音に隠れてジリジリ近寄ったベイルたちは、アドニスの合図を元に、一斉に突撃した。

 ベイルと何人かが飛竜になって、アドニスを含む数人の兵士を積むと、そのまま砦に突っ込んで強襲を掛けた。相手が奇襲で動揺している隙に、他のメンバーが包囲するという作戦だ。

 ベイルから飛び降りたアドニスが、岩竜に変身して、無防備だった兵士たちに強襲を仕掛ける。特に魔術師を優先的に倒していった。空中に居るベイルたち飛竜が、魔術による攻撃によって墜落すると、最悪、そのまま倒されてしまうからだ。

 奇襲は完全に成功した。相手は、なすすべなく制圧されていた、その時だった。

「ふざけんな!クソが!」

 大声が聞こえたかと思うと、緑色の飛竜がこちらに突っ込んできた。どうやらアレがベルゼウスのようだ。ベイルも大声で叫ぶ。

「貴様がベルゼウスだな!お前の相手は俺だ!俺がコロス!」

 緑の飛竜に、黒い飛竜が突っ込んでいった。飛竜同士の空中戦になった。


 飛竜同士の戦いは、後ろの取り合いのために旋回を繰り返す。相手の飛翔能力を奪うと、そのまま墜落するため、勝負が決まるときは一瞬で決まる。ベイルとベルゼウスも熾烈な旋回を繰り返しつつ、魔法弾を絡めて牽制し合う。

 地上の制圧をほぼ完了したアドニスは、二人の戦いの行方を見守っていた。戦いはややベイルが有利そうに見えるが、それほど決定的ではない。両者の体躯には、それほど違いがないからだ。

 雨が強くなってきて、雷が轟き始めた。

 長く続きそうだった勝負は、落雷の瞬間に決着が付いた。落雷を背後に置いていたベイルが、落雷で目がくらんだベルゼウスの隙を付いて、魔法弾を翼膜に決めたのだ!


 墜落したベルゼウスの近くに、ベイルが得意気に着陸した。味方が歓声を上げている。ベイルが勝利の咆哮を上げようとした瞬間だった。ベルゼウスが動いた。瀕死だが、まだ息がある。ベイルに噛みつこうとした瞬間だった。

 新兵の放ったクロスボウの一撃が、ベルゼウスに止めを刺した。

「やった……」

 新兵が嬉しそうに言った。が、その新兵を、ドラゴンのままのベイルが睨みながら、叫んだ。

「……なんで、テメーが、勝手に、人の獲物を、横取りしてやがるんだ!!!」

 ベイルはブチ切れた。

 キレたベイルが、新兵に翼爪を振り下ろす。不味いと思って行動を開始していたアドニスが、岩竜のその体で、新兵を庇った。

「落ち着け、ベイル!勝負は決まっていた。彼はお前を助けただけで、横取りなどしていない」

 新兵の顔は恐怖で真っ青だった。まさか殺されそうになるなんて、全く思いもしなかったのだ。

 ベイルはキレ続けている。実際そうであった。最後に油断をしたベイルに非があった。キレたベイルは、やり場のない怒りを抱えつつ、事切れたベルゼウスに向かう。アドニスがたしなめる。

「今は、やめろ。やるなら、せめてベルゼウスの変身が解けてからにしろ。その間に、皆を後ろに下げる」

 ベイルは、この言葉には耳を貸さなかった。ベイルはベルゼウスに喰らいつき始めた。ドロスを喰ってから、共食いに関しての留め金が外れてしまったのだ。人型に戻ったアドニスは、全員を別の場所に下げた。

(こんなものは、他人に見せるようなものではない。見るのは、俺だけでいい)

 喰らい続けるベイルを見て、アドニスはふと疑問に思った。

(ベイルのヤツ……こんなに大きかったのか?)

 ドラゴンがドラゴンを喰うことで力を奪う。というのはただの言い伝えだと思っていた。だが、ドロス、ベルゼウスを喰ったベイルの体躯は、少しづつではあるが、確実に大きくなっている。

 アドニスから、雨に交じって嫌な汗が出た来た。

(このまま喰い続けたら、ベイルは、コイツは、どうなってしまうんだろうか?)


 雷雨は止まない。その轟音は、ベイルの咀嚼音だけは、かき消していた。

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