神殺し-1
門を越えたザルツは、少し進んだところで停止した。後続の到着を待ちつつ、悪魔の到着を待っている。以前ヴォルクスと侵入した時に、ネズミを放り込んでから悪魔の到着までにかかった時間を踏まえると、暫くの猶予があるはずだった。その間に、ドラゴンのモードを戦闘用に切り替える。悪魔との戦いのための鍵となるのは、このドラゴンだからだ。ザルツはドラゴンの操作をしながら、ヴォルクスと悪魔の戦いを思い浮かべる。
ヴォルクスは悪魔に挑み、簡単にあしらわれたよう見えた。ただ、それでもすべての攻撃が当たらなかった訳ではないし、悪魔も完全に攻撃を無視できた訳でもない。それに攻撃が当たった端から再生していたが、再生するという事は、傷をそのままにしては置けないという事だ。つまり、悪魔の強さには不思議はない。種や仕掛けがあるわけでもなく、単純に強かったのだ。
そしてザルツは、かつてヴォルクスが読んだという、竜王を殺すときに使われたとされる契約文を確認した。これは旧帝都の博物館に残っていた。そこに書かれていた文章をまとめると、こういう意味だった。
「竜王と、夜中の帝都の上で戦い、苦しんで死ぬように、殺せ!」
長時間戦闘せよ、との指定は書かれていなかった。それでも伝承では、一晩中戦ったという記録が残されている。つまり、そこそこいい勝負だったのではないか?とザルツは考えた。
もちろん、ヴォルクスとの戦いがそうであったように、力の差があったから、余裕で何かをやっていたという可能性もある。だが、契約に支払われた対価と思しき人民の消失を考えると、少し疑問符がつく。
ただ、これらは全て仮説に過ぎない。仮説に仮説を重ねた、危険な仮説だ。だからこれからやることは、ザルツにとっても、大変リスクの高い賭けになる。
ザルツが震えはじめた。恐怖ではない。未知への挑戦と、それにベットした対価の量。それに対して得られるであろう、知的報酬!それによる震え。武者震い!ザルツの脳内に、異常な量の興奮物質が駆け巡っているのが分かる。
門をくぐるのに躊躇していた味方が到着し始めた。そして、上空から巨大な何かが飛んで来て、ザルツの目の前に着陸した。
悪魔
異世界の強者の中でも、最古から存在する、最強の強者。ヤギのような頭を持ち、蝙蝠のような翼を持ち、鹿のような足を持ち、とてつもなく巨大な体躯を持つ、獣人のような造形。
到着した味方は、その姿を見て恐怖している。ザルツはその姿を見て、不敵に笑う。
ザルツが巨大な黒鉄のドラゴンを繰り、悪魔に向かって行く。
ザルツは、これから、証明を開始する!
悪魔が、目の前の光景を見つめる。あの門は以前見たことがある。竜王の息子がくぐってきた物に似ているが、それよりもはるかに大きい。そこから軍勢が湧き出て来ている。
悪魔は、遠隔通信を使って、配下を呼び寄せる。そして、向かってくる、かつて戦った竜王ほどもある、巨大なドラゴンのような何かを見つめる。
悪魔に感情はない。だが、こう思った。
(数が多い。敵が大きい。これは、勝てないかもしれない……)
だが、悪魔に撤退するという選択肢はない。
「この世界を、侵入者から、守れ」
これが悪魔を縛る契約だからだ。勝てる、勝てないの問題ではない。
悪魔は、ザルツを、迎え撃つ!
この世の物とは思えない光景を、ルーカスが黒鉄のドラゴンの上から見つめる。どこだか分からない、異世界のような場所を映し出す巨大な陽炎。そこに飲み込まれる、ザルツのドラゴンと、あまたの軍勢。その先に見える、巨大な獣人。ルーカスは、冷や汗をかきながら思う。
(なんなんだ、これは……。なぜザルツ様は、こんなことをしているんだ?頭がおかしいんじゃないか?)
ふと思い立って、ルーカスはレギウスとアントニウスを見る。二人は……興奮したような目で、この光景を見つめていた。
練り上げられた力を、未だ見たことが無いような強者にぶつける。結果が予想できない、これから起こるであろう戦いの虜になっていた。
ドラゴンにとっての、力の信奉者たちにとっての、神聖なる儀式。理性では否定しつつも、決して逃れられぬ、力の持つ魔性。
レギウスとアントニウス。二人は、ドラゴンだった。
ルーカスは、そんな二人を見て、背筋が凍った。目の前の光景に目を戻す。そして、予感する。
今までの、全てが、壊れていくのではという、予感を……。
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