冥府魔道
レオルンドが軍の指揮をしている。指示を受けている兵士たちは、事情を知らされていない。ただ、軍事演習だと聞かされている。
レオルンドは、事情を知っている。知っている上で、彼らには伝えていない。伝えたところで不安にさせるだけだからだ。レオルンドが、建造物の正面に陣取っているザルツを見つめる。
最初にザルツから聞かされた時、レオルンドは冗談だと思った。しかし、実物が起動するところを見せられたら、何も言えなくなった。そのレオルンドに、ザルツがこう言った。
「これで理解して頂けたと思います。それでは、どうやれば事情を伝えずに兵士を動員できるかを、考案してみましょう」
レオルンドは事情を伝えずに、軍事演習として動員することにした。そして、ザルツが先陣を切ることで、全員が付いて行かざる得ない状況を作ることにした。
レオルンドがザルツの前にある建造物を、緊張した目で見つめる。
本当にやるのか……異世界への、侵攻を……。
建造物に、巨大な召喚門に、膨大な魔力が流れ込み始めた。
ザルツが、それを見つめる。彼は、召喚門の術式を手に入れ、異世界への門を作り出し、その先を見た時から、こうすることを考えていた。
異世界には、悪魔を代表とする、災害の如き力を持つ、強者たちが君臨している。彼らを退け、その先に向かうには、力が必要だった。
ザルツは力を手に入れつつ、異世界の強者を調べていた。その中で、かつてこの世界に君臨していた竜王が、その異世界の強者たちに連なっていたという事を、フローラの残した記述から知った。
そこで、ザルツは竜王を調べつくした。彼がアエリアスに頼んで、深夜の神殿で行っていたのは、竜王の墓の、その中に眠る竜王の遺体の調査。竜王を祭る神殿では絶対に許されない、禁忌の墓荒らし。災害の如き力を持つ竜王とは、何者だったのか?の調査。
それ以外の竜王の記録の調査。そして、マレフィクスを解体して、その内部構造を確認したザルツは、1つの結論を出した。
竜王は、強大な災害の如き力を持つ強者であったが、それでも普通のドラゴンに過ぎない。
ここから、もう1つの仮説を立てた。
ならば、竜王と同列の災害の如き力を持つ強者たちも、普通の何かが力を持った者に過ぎないのではないだろうか?であるならば……
殺せるはずだ。
ザルツはそのための力を集めた。竜王の持っていたであろう力と、悪魔とヴォルクスの戦いから、必要になりそうな力を逆算した。そして、そのために必要な力を得るためには、この地を統一しなければならないという結論を出した。これまでの征服は、全て過程に過ぎない。これから行う事の……
神殺しのための……
建造物の上に巨大な魔力が練り上げられ、そこに揺れ動く陽炎のような何かが作り上げられた。その先には、いつの日かザルツが見た、あの異世界の都市が遠景に見える。
レオルンドが、その光景を、無表情で見つめる。
兵士たちは、信じられない物を見るような目で、その光景を見つめる。
ザルツは、その顔を、嬉しそうに歪めて、その光景を見つめる。
ザルツが、巨大な黒鉄のドラゴンを羽ばたかせて、飛び上がる。そして、その門に向かって行く。
ドロス、ベイル、ミオリア、フローラ、ヴォルクス、アドニスという傑出した者たちの屍を
傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲で埋め立てて
精霊魔術、魔工術、召喚術、魔心術という叡智で舗装した
魔道
その終端に立つ者、ザルツ
彼は、魔道の先にある、冥府の門をその手で開く!
異世界侵攻という、冥府の門を!
彼は天才だった!
彼は天災だった!
ザルツは、巨大な黒鉄のドラゴンを繰り、その門を越えた!!!
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