ドロスとベイル-4
縛られたベイルが、アドニスに連れられて、ドロスのベットの近くに連れてこられた。アドニスは、ベイルから凄まじい殺気を感じた。猿ぐつわを付けられた、ベイルの目が見開いている。目だけで人を殺せそうだ。
「口のくつわをといてやれ」
ドロスが言った。アドニスは、少し心配しながら、解いた。解いた瞬間に、ベイルは大声でまくし立てる。
「なんで死にそうになってるんだよ、テメー!俺が殺す前に、死にそうになってるんじゃねーよ!誰に、殺されそうになってるんだよ!教えろ!そいつもコロス!!! そうしてから、お前もコロス!!!」
ベイルはブチ切れ続けている。
ベイルはドラゴンだった。
アドニスは、腑に落ちた。何となく、ベイルが何にキレるのかが、分かったからだ。
前に聞いた時は、殺したかった親父さんを殺されたときに、ドラゴンになったと言っていた。
コイツは多分、自分の獲物を誰かに奪われるのが、死ぬほど嫌いなんだ……。
ドロスが叫び続けるベイルに言う。
「俺を殺しかけたやつは、いねーよ。俺が殺した」
ベイルは、さらにキレた。横で見ているアドニスは、ベイルの頭の血管が、全部ブチ切れるんじゃないかと、心配にすらなっている。ドロスは、そんなベイルを見て、馬鹿にしたように言う。
「結局最後まで、オメーは俺に勝てなかったな!残念だなー。まあしょうがねえよな。お前、弱いから」
アドニスはもう、ベイルを見ていられない。ドロスを見つめて、目で訴える。
これ以上、コイツを煽らないでくれ。ドロスは、その目を無視して、更に言う。
「まあ、でも、もしかしたら、俺が死んだ後でも、オメーが俺に勝てる方法があるかもしれないけどな」
ベイルがまくし立てる。
「教えろ!俺はお前に勝つ!殺せなくても、殺して!勝つ!」
ドロスが、待っていたとばかりに言う。
「オメーがオレを喰って、オレの傭兵団を引き継いで、オメーがオレよりも勝てれば、オレに勝ったと言えるかもな!」
アドニスはドロスを見た。次のリーダーをコイツに、ベイルにするのか?しかも、アレで傭兵団を継承するのか?
ドラゴン族には、古い、古い、風習がある。
ドラゴンが、ドラゴンを、喰う。喰うことで、喰ったドラゴンの力、地位、財産を継承する。
千年以上前に、存在していたと言われる、風習。千年前に竜王が禁止を徹底して以来、存在しなくなったはずの風習。
しかし、傭兵団のような血生臭い集団においては、未だに聞き伝わっている風習。
とは言え、アドニスは、やったという話など、聞いたことなどない。だが、ベイルはやる気になっている。
「やってやる。お前を喰って、お前に勝って、お前を殺してやる」
ドロスは楽しそうな顔をしている。アドニスに指示を出した。
「そいつの紐を解け!」
アドニスは、渋々拘束を解いた。自由になったベイルがドロスに飛び掛かるかと思ったが、そうはならなかった。ベイルがドロスを指さして言う。
「ベットで寝ているな!せめて戦って、喰われろ!」
ドロスは笑った。そして、自分が、何故戦いの終わった戦場をブラついていたのかが、分かった。
いつまで続くのか分からない、戦い。俺もいつか、死ぬ。その後に、何も残らないのは、嫌だ!俺を見る者が、居なくなるのは、許せない!
オレは、オレを喰う奴を探していたんだ……。
ドロスがベットの上でドラゴンになった。ベイルもその場でドラゴンになった。医者、副隊長、アドニスが慌ててテントから逃げ出す。
テントを被りながら、黒い飛竜と、黒い飛竜が激突した!
戦いはあっけなく終わった。ドロスに戦う力など無かったのだから、当然だろう。
アドニスは、ドロスを喰うベイルから目を逸らした。
(まさか……本当にやるとは……)
ベイルは、流石に気持ち悪そうだが、それでも喰らい続ける。嫌悪を執念が上回った。
周りで観ている傭兵団の他の隊員たちも、呆然としている。儀式を知っている者も、知らない者も混じっているが、尋常ではない光景に、目を背けている。
アドニスは逸らした目を、もう一度ベイルに向ける。
(アイツ……この先も、ずっと、ああやって生きていくんだろうか……)
隣に立っていた副隊長が、アドニスに言う。
「今日から隊長はベイルだ。そして、副隊長はお前だ!アイツを絶対に、一人にするな。お前が居ないと、アイツは絶対に、駄目になる。ドロスだって、それを前提にしていたはずだ!」
アドニスも、そのつもりだった。アイツを絶対に、一人にしない。
アイツは……俺の親友なんだから……




