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昨日友人が亡くなりました

掲載日:2025/09/25

 よい朝ですね。

 昨日、友人が亡くなりました。

 あなたさまの奥さまは、まだ眠っていらっしゃるのですか。

 こんなに晴れていて日も高くなっていますのに、お寝坊さんですね。

 

 奥さまは、ジョゼフィーヌさまですよね。

 わたしの友人は、ヘレナといいます。

 ええ、そうです。

 同じ女子校の同級生です。

 ですから、ジョゼフィーヌさまとも親しくしておりました。

 旦那さま。

 あなたさまのお話も聞いております。

 旦那さまは、わたしの存在をご存じないようですね。

 結婚式には呼ばれませんでしたので、知り合う機会がありませんでした。

 あの頃は、わたしも忙しくて。

 母の介護をしておりました。

 ヘレナには、やりすぎだから施設に入れたら? と何度も言われておりましたが。

 なかなか日常生活というものは、自分の思い通りにはいかないものですね。

 もっと、もっと、ヘレナと共に過ごす時間を作りたかったのですが、それは叶わぬ夢となりました。


 母ですか?

 母はまだ存命で、一緒に暮らしております。

 わたしの周りは相も変わらず日常が過ぎて行きますが、ヘレナはこの世からかき消されたように消えてなくなってしまいました。

 もちろん彼女は今もわたしの心にはいます。

 なので完全に消えてしまったというわけではありませんけれどね。

 別の体で命を持って存在していた者が消えてなくなってしまうというのは、なんとも言えない寂しさと虚無感を生みますね。

 仕方がないと諦めることと、わたしの心の在り様は別問題です。


 旦那さまは、わたしが今日ここに来て、さぞや不思議に思われていることでしょう。

 ヘレナをご存じないですからね。

 ヘレナはジョゼフィーヌさまの中におりました。

 何のことか分からない?

 当然ですよね。

 知らされないことは、知りようがないですからね。

 それでも旦那さま。

 ジョゼフィーヌさまが複雑な生い立ちであったことは、ご存じですよね?


 ジョゼフィーヌさまは、ご両親を早くに亡くし、この家を相続されました。

 あまりに若く幼かった彼女に、お金も、地位もあるこの家は、さぞや重かったことでしょう。

 気が弱くて優しいジョゼフィーヌさまのことを守るために、彼女の中に生まれたのがヘレナ、わたしの友人です。

 わたしとヘレナはとても気が合って、学生時代には双子のように側にいました。

 ですが、わたしとジョゼフィーヌさまは、水と油のようにスッと離れてしまう間柄だったのです。

 女性同士というのは、なかなかに複雑なのです。

 それでも、ジョゼフィーヌさまのことは、ヘレナが大切にしている人間として、わたしも大切に思っておりました。


 だから旦那さま。

 あなたさまと早々に結婚をされたジョゼフィーヌさまの気持ちは理解しております。

 それはヘレナも同じです。

 結婚そのものに反対はしませんでしたが、お相手が旦那さま。

 あなたさまだったという点においては、もっとしっかりと反対すべきだったと思っております。


 旦那さま。

 あなたさまは、ジョゼフィーヌさまを裏切って、別の女を抱いて、その人に子どもまで生ませましたよね。

 この家も、お金も、地位も、ジョゼフィーヌさまのものだというのに。

 あなたさまは、他の女に愛を捧げましたね。

 ジョゼフィーヌさまは知りませんでしたが、ヘレナはすべてを承知していました。

 わたしはヘレナから詳細に色々なことを聞いております。


 ジョゼフィーヌさまは屋敷からほとんど出なかったから、わたしが知っているわけがない?

 いえいえ旦那さま。

 世の中には、手紙というものがありますでしょう?

 わたしはジョゼフィーヌさまの近況も、しっかり存じておりますよ。

 そんなはずはない?

 なぜそんなことをおっしゃることができるのですか、旦那さま。

 屋敷の者からの報告が、旦那さまのもとへ届いていないからでしょうか。

 それともジョゼフィーヌさまの手紙を、すべて廃棄させていたからでしょうか。

 おかしいですね。

 この屋敷は、ジョゼフィーヌさまの物ですのに。

 ですけれど、わたしはジョゼフィーヌさまの近況を知っていますよ。

 わたしに来た手紙の差出人は、ヘレナでしたけれど。


 ジョゼフィーヌさまに関しては、最近のことはもちろん、幼少時のことからの全てにおいてわたしは詳しいのです。

 あなたさまは、彼女のことを取るに足らない女だと思われているのでしょう。

 しかし、わたしにとってはそうではありません。

 ジョゼフィーヌさまは、わたしの友人であるヘレナの、大切な、大切な方だったのです。

 だからわたしは、ジョゼフィーヌさまのことには詳しいのですよ。


 ジョゼフィーヌさまは気付きませんでしたが、ヘレナは気付いておりました。

 あなたさまは、ジョゼフィーヌさまを毒殺するおつもりでしたよね?

 わたしはヘレナに逃げるよう説得したのですが、彼女は受け入れませんでした。

 ヘレナにとってこの世で一番愛おしいのはジョゼフィーヌさまです。

 彼女があなたさまの側に居たいというのであれば、命を落とすと知っていっても殉じると強く心に決めていました。


 手紙しか連絡の手段がないわたしに出来ることは、事実を伝えることだけです。

 あなたさまの指示をすり抜けて、わたしのもとへと届いていた手紙には、様々な証拠から添えられていました。


 あなたさまのジョゼフィーヌさまは幸せな夢を見たまま、死んだのです。

 眠るように死んだのです。


 わたしの友人であるヘレナは、大切な友人であるヘレナは、ジョゼフィーヌさまをぬいぐるみでも抱きしめるようにして亡くなりました。

 彼女はもうこの世にはいません。

 あなたさまのジョゼフィーヌさまもですよね?


 それは幸せなことと不幸なことの抱き合わせです。


 知っていましたか?

 あなたさまが何もしなくても、ジョゼフィーヌさまは近々死ぬ予定だったのですよ。

 遺伝性の病気です。

 そんなはずはない?

 ああ、そうでした。

 ジョゼフィーヌさまは養女ですからね、あなたが知らなくても仕方ありません。

 早くに亡くなったジョゼフィーヌさまの両親は、ジョゼフィーヌさまの本当の両親ではないのです。


 ジョゼフィーヌさまの本当の両親は、幼い彼女に重い負担がかからぬように、遺言書にて親戚筋から信頼おける夫婦を後見人となるように手配しておいたのです。

 それも空しく後見人のご夫婦も亡くなってしまいました。

 1人残されたジョゼフィーヌさまの心のうちを思うと涙が出ます。

 ヘレナの存在には、生涯気付くことはなかったでしょう。

 彼女の愛はそれだけ慎み深いものだったのです。


 おや、警察が来たようです。

 思っていたよりも早かったですね。

 まだ起きてこないジョゼフィーヌさまが、ベッドの上で死んでいないといいですね。


 なんでしょうか、旦那さま。

 捕まっても、罪に問えるか分からない、ですって?


 ふふふ。それは仕方ないではありませんか。

 人間が作った人間の法で、人間が裁くのです。

 しかも裁判官も、弁護士も、男性がほとんどですからね。

 正しい判決、適切な量刑なんて最初っから期待などしておりませんよ。


 でもね、旦那さま。

 死してのちのことは誰にも分かりませんからね。

 わたしは、それでよいと思っているのです。


 いずれにせよ、わたしの友人は昨日なくなりました。

 もうお会いすることはないでしょう、旦那さま。

 ではさようなら。


 残りの人生が、あなたさまにとって、相応しいものでありますように。


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― 新着の感想 ―
ラストの一文のインパクト……! どんどん真実が明らかになっていく構成に引き込まれました。 悪事はいつか暴かれる、主人公とヘレナの友情によって。 終盤の「男性が裁くこと」についての主人公の見解も、なんだ…
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