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国のトップ同士のダンスバトルで世界の明日が決まるってマジ?

 スマートフォンのアラームの音に意識がわずかに覚醒した。

 顔を顰めてうっすら目を開ければ、窓から差し込む朝日の眩しさに、布団へ潜り込む。

 スヌーズ機能で繰り返される音とバイブレーションが空気を揺らす中、それをかき消す大声が鼓膜を叩いた。

 「あーきーらー! 起きなさい! 遅刻するわよ!」

 しぶしぶ見たスマートフォンのロック画面は6時53分。

 一気に目が覚め、飛び起きて制服に着替え、洗面所に走り適当に顔を洗うとリビングに飛び込んで席につく。

 「もっと早く起こしてよ!」

 「あんたもう高校生なんだから自力で起きなさい。こうして声をかけただけマシでしょ」

 台所から聞こえる不満の声に首をすくめ、朝食に手をつける。

 ――おはようございます。朝7時のニュースをお知らせします。

 白ごはんをかきこみながらお味噌汁を口に含めた。

 ――昨夜行われた首相と大統領のダンスバトルの結果、日本への関税の引き上げは見送られることとなりました。

 耳を疑うニュースに味噌汁とわかめを吹き出した。

 「ちょ、何してるのよ!」

 母親の尖った声を無視して、テレビに釘付けとなる。

 画面にずらりと並ぶ朝の主なニュースには、昨日の首相と大統領のダンスバトルの結果、子供たちのダンスの習い事の月謝の高騰、若者とのダンスバトルに高齢者の不満が高まる、エトセトラエトセトラ。

 「あら? あんたなんで制服なんか着てるの。今日は午後から学校近くのアリーナでダンスバトルの準決勝があるんでしょ?」

 「は?」

 ダンスなんか生まれてこの方、授業以外でしたことがない。

 リズムにワンテンポどころか、なんなら1.3テンポくらいずれて笑われた記憶しかない。

 「頑張りなさいよ。それにしても、お父さんも今度開催される『アメノウズメノミコト杯ーー天下無双の踊り手を決めろ!2025ーー』に出場が決まったし、いいことばかりだわ!」

 「なんて?」

 父親は自分の知る限り普通の会社員だし、この前ぎっくり腰で動けなくなっていた気がする。

 「さ、それを食べたらさっさと出かけなさい。ウォーミングアップをしっかりね」

 呆然としたまま背中をぐいぐいと玄関まで押される。

 「いってらっしゃい、(あきら)。……ううん、AKIRA!」

 「いま、なんか変な言い方しなかった?」

 家から叩き出されておぼつかない足で駅まで歩く。

 小学生の会話にボックスステップとか8ビートの取り方とかタップダンスの難しさって出てくるっけ?

 バス停の横では、20代くらいのスーツ姿の男性と柔らかく揺れるスカートをひるがえして隣のお姉さんがステップを踏んでいた。周りの人は嫌そうな顔をするでもなく笑顔で見つめ、時に手拍子まで入れていた。

 駅に着くと、駅前の大型ビジョンではアマノウズメノミコト杯の特集が流れていた。出場者の中に見知った父親の顔を見つけた時は頭が真っ白になる程驚いた。

 唖然としたまま画面を見つめていると、緊急速報を告げるアナウンサーの声と、周囲から一斉になる不快な警報音が重なる。

 「たった今入ってきたニュースです。このところ関係が悪化していたA国とB国間の緊張が高まり、両国の軍隊が大陸間弾道ミサイルをはじめとした実戦配備を進んでいると両国の関係筋が明らかにしました。これを受け、両国と関係の深いC国が自国でのトップ同士によるダンスバトルの提案を行うとの声明を発表しました」

 ざわめく周囲からはA国首相の社交ダンスの腕前とB国大統領のブレイクダンスのキレについての批評が聞こえてくる。

 「続報です。両国の報道官が合同で記者会見を開きました。これによると、首相と大統領がホットラインを繋げて会談を行い、C国の提案を拒否するとの決断に至ったとのことです。代わりに、日本時間本日正午、首相と大統領によるダンスバトルにて決着をつけると発表されました。全面的な軍事衝突を避ける狙いがあると見られます」

 意味がわからない。意味がわからない!

 どうなってるんだ。なんで誰もダンスバトルに疑問を持たないんだ!?

 周囲を見回しても、心配そうな顔をしている人はいても、混乱している人は誰もいない。

 俺がおかしいのか!?

 恐怖と混乱から逃げるように元来た道を戻る。

 走って、走って、走って。

 家の玄関を乱暴に開けて、靴も揃えずに自室へ飛び込む。

 驚いた母親の声を無視して、扉に鍵をかけて布団に潜り込む。

 ガタガタ震える体を抱きしめて丸くなっていると、不快な警告音が鳴り響いた。


 はっと目が覚める。

 汗でベトベトの体。はっはっと荒い息と鼓動がうるさい。

 スマートフォンのロック画面を見れば6時53分。

 「あーきーらー!! 起きなさい! 遅刻するわよ!」

 母親の声に恐怖を覚えた。

 がたがたと震える体を宥めすかし、なんとか布団から這い出し震える手で部屋の鍵を開ける。

 恐る恐るリビングに顔を出せば、テレビは6時59分を指していた。

 画面に映る秒針を食い入るように見つめていると、ついに12を指した。

 ――おはようございます。朝7時のニュースをお知らせします。

 ――昨夜行われた首相と大統領の会談の結果、日本への関税の引き上げは見送られることとなりました。

 深い安堵のため息が漏れた。

 「あら、まだ着替えてなかったの? さっさと学校に行きなさいよ」

 「あ……うん」

 「今日は体育でダンスが」

 「今はその単語出さないで!」

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