プロローグ
あなたは、どうにかこうにかたどり着いて、ようやく手に入れた幸せを、一瞬にして奪われたらどう思う?
実際には一瞬なんかじゃなかっただろうけれど、そんなことはどうでもいい。
私は殺された。
私は奪われた。
私は汚された。
なら……ーー
「復讐、したくない?」
声がした。
感情の波を押し分けて、冷静に響く声が。
「……復讐?」
死んでもなお、そんなことができるなら願ってもない。
でも、現実でそんなこと叶うはずがない。
「あ、信じてないでしょ。 ほんと、想いだけ強くて激しいヤツってこれだから困るよねー」
ため息混じりにそう言う。
「無理でも不可能でもない、って言ったら、やる?」
声が目の前で響いてる。
いや、誰かが目の前にいる。
「あ、目を開けてても君は僕を見ることはできないよ。 まずはやるかやらないか、選んでくれなきゃ」
「……どうするの」
声は、くふ、と笑う。
引っかかった、とでも言いたげな笑い方に腹がたったが、それをも察したのか話を進める。
「復讐、と言っても死んでしまった君ではできることも限られる。 相手からは見えないし、そういう意味では好都合かもだけど、実際呪いや心霊の類なんて生きてる人間はいくらでも解決方法があるわけ」
「…………」
にわかには信じがたい。
はぁ、と曖昧な返事をすると、突然声が大きくなる。
「選択肢としては二つ!」
光の束が、集まっていく。
「一つは転生。 君のことを、彼らが全く知らない何かに転生させる。 人じゃなくてもいいけど、なるべくなら人がいいと思うよー」
光の束が人の形をかたどる。色々な姿の人に成っては変わり、成っては変わる。
「もう一つは時間跳躍。 いわゆるタイムリープってやつ。 過去に戻って、やられる前にやっちゃう感じ! 上手くすれば、こうして死ぬことはなくなるかも!」
光の束が、幼い私をかたどる。だんだんと成長して、ついには老人になった私に成る。
運命すらも変えられる……かもしれない。
殺されない、憎いあいつらが居なくなって、私だけが幸せになれる……そんな未来が、あるかもしれない……?
「ほんとう、なの……?」
「……あぁ、本当だよ。 君が望むなら、どうにでもできるよ」
優しく、声は言う。
正直、復讐したところで、という気持ちはあった。
どんな方法にせよ、誰も得をしない。
私がスッキリするだけ。
「でも、それでも……」
それでもいいの。
彼らに……あの女に、痛みを与えてやりたい。
屈辱を、苦痛を、味わわせてやりたい。
「ーー心は決まったな」
私はこくりと頷いた。
くふ、と声は笑う。
「さぁ、ショータイムだ」
はじける音がして、大きな光に包まれて……私が目を覚ました。