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隠しボス サイ・クロニクル育成計画

黒髪を乱雑にまとめた少女が赤い目を向けてくる。

僕より頭一つ分くらい大きい彼女は、その強さとは裏腹に精神がとても不安定だった。


「わた、しは!勝たなくてはいけないんだ!そうでなくては私が、わたしは……違う、そんなのはあまりにも勝手すぎる。私はもう許されない。何も考えたくない。なあミールお前が全部考えてくれえぇ…」


膝をつきながら泣き腫らしている。

その弱々しい言葉とは裏腹に体には傷一つついていない。

彼女に運はない。生まれた身分も決して高かったわけじゃない。彼女は英雄になるために生まれてきたわけでもない。主人公にだってなれない。でも強すぎてここまで生き残ってしまったのだ。


そんな彼女を眺めながら僕も口を開く。


「僕が考えるってなあ。機械だぞ僕は。機械が人を使うなんてつまらない冗談にも程がある。ほらよしよし」


頭を撫でる。年の功と言うやつだ。起動したのは最近だが、年齢だけなら僕もそろそろ1000歳になる。


「うう……ぐすっ。ミールは、ミールだけが私のことを分かってくれる」


そのまま慰め続けながら、僕は、かっこよくて強いドロシーの唯一の理解者であるという言葉に内心浮かれていた。



「……」


最悪の寝覚めだ。

体を起こす。


「機嫌が悪そうですね?」


寝ている僕をずっと眺めていたらしいサイちゃんが首を傾げながら僕に問いかけてくる。

そうだった。そういえば昨日はサイちゃんを魔王城から誘連れ去って、そのまま疲れて寝たのだった。

シャワーでも浴びるか。


「なんで着いてくるの?」


「私を知らない場所に置きざりにするつもりですか」


まあそれはそうなんだが、誘拐されてきた割にはふてぶてしいなサイちゃん。


「じゃあここで待っててね」


そう言って脱衣所に入り、服を脱いでからシャワー室を使う。僕はハイスペックなロボットなので完全防水仕様だ。

手早く体を洗い、タオルで拭いてから脱衣所に戻る。


「うわ、中に入って来たの?」


「……ミールさん男じゃなかったんですか」


サイちゃんが困惑したように言う。何を言っているのかと思ったら僕の下半身をじっと見ていた。


「ああ、僕は機械だからね。取り外しができるんだ」


僕は食べる必要がない。いやまあ食べることもできるのだけど、最近はほとんど食べていないから排泄行為も必要ない。使っていないので洗う必要もない。ということで部屋に置いてきている。

繊細なパーツだし取り外しておくに越したことはないのだ。


「……?よく分かりませんが、男の人ではないんですね」


「……そうかも?」


少なくとも人ではない。しかし男の人じゃないと何かあるのだろうか。

そう思いつつ常備してある服を着る。

今日は休日なので制服は着なくていいな。姉様のおかげでお金には困っていないので高価らしいこの制服も家には3着ある。身長は伸びることがないので、買い替えの心配はない。


「じゃ、行こうか」


「はい」


何かを考え込んでいるのか返事だけして僕に着いてくる。

おお、前から姉様が歩いてくるじゃないか。


「おはようミール」


「おはよう姉様」


「後ろにいるのは誰なのか聞いていい?」


「サイ・クロニクル。魔王に軟禁されていた人間との融和派だった先代魔王の娘、つまりお姫様だよ」


姉様に対しては真摯でありたいと思っている僕なので、適当な誤魔化しに頼らず真実を話す。


「また政治問題になりそうなことを……」


姉様が頭に手を当て首を振る。

僕は他に政治問題になりそうなことをしただろうか。思い当たるところはないが、とりあえず許してくれそうな雰囲気だ。良かった。


「とりあえず国王陛下には秘密にしておいた方がいいわよね」


「うん。国の管理下より僕の監視下に置いた方が安全だと思うな」


「じゃあ貴方に一任するわ」


「了解」


さすが姉様。判断が早い。僕が頷くと姉様は僕を横切って歩いて行ってしまった。

この判断の速さが姉様を国内有数の商会の主にしたと言っても過言ではない。

今や世界にも名を轟かせ、国内の経済の一端を担っている。


「ふふ、これで万事解決だ。これから君の育成計画を始めるよ」


「……」



「まず何ができるのか言ってごらん」


「結界が得意だと思います」


「得意なものを聞いてるんじゃないから」


結界かぁ結界なぁ。僕はやはりソシャゲ知識で動いているので、ソシャゲで使いにくかった防御用のスキルはあんまり好きじゃない。

まあ僕が性能厨を拗らせているだけで、使えないこともないらしいけど。


「ええ、と、そうですね。他には、軽い支援魔法はだいたい一通り。一応父に教えてもらった重力魔法も使えます」


なるほど。ソシャゲ通りの性能ではあるが、結構なんでもできそうな感じか。


「ふむ。まあ、いろいろ試してみようか」



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