無理を通せる立場
「すごいなサイちゃん!重力魔法に関しては君のお父さんよりずっと才能があるぞ!!」
「サ、サイ、‘’ちゃん‘’!?」
サイちゃんが何やら驚いているが、僕も驚きだ。
ソシャゲの方では彼女の父親……名前を呼びたくなかったから色々捻ってたけどもうめんどくさいからいいや、エクスな、エクス。アイツの劣化みたいな攻撃方法だった気がする。
ゲーム性能的には雑魚を散らしながらバフを撒けるサポ型アタッカーの完成形みたいなキャラだった。ということは、攻撃力は下がるが範囲は大きくなってる……のかな?
先代魔王エクス・クロニクルはプレイアブルキャラではなかったのでいまいち判断はつかない。まあ作中時点でとっくの昔に死んでるキャラを出されても困るが。
なぜ驚いたかと言えば、エクスは基本肉体派で、殴ったり、蹴ったり、そういうのが主体だった。そこに重力魔法をついでのようにくっつけて相手を殺す!それがエクスの攻撃方法だった。殴る蹴るの時点で岩が割れるので魔法なんておまけと言わんばかりのストロングスタイルである。
サイちゃんは筋力が足りなかったんだということが、今サイちゃんの放った重力魔法により判明した。いや当たり前か。あんなゴリマッチョと華奢を具現化したようなサイちゃんの筋力がイコールなわけなかった。
まあ悪魔だから実情はその限りでもないが。
「いや、うん。エクスはアイツ自身が触れてないところでは魔法使えなかったからね!」
サイちゃんは僕に触れる直前に発動していた。
「そうだなぁ……まずは少し離れたところに置いた、積んである積み木を崩す練習から始めようか」
▫
「ミール、ミール・レストレンジはいるか!?」
「どうしたの?」
屋敷の近くで声が聞こえたので近づくと魔王が僕の名前を呼んでいた。ので、後ろから声をかけてみた。
「うわ!……家では表情あるのか。ってそうじゃなくて!」
「何?」
「サイ・クロニクルだ!!どこにやった!?」
珍しく焦った様子の魔王をぼんやりと見る。
一応彼がサイちゃんを軟禁している、ということになっていたんだっけ。実情がそうでは無いことは本人から聞き取り済みだ。
「ああ、彼女僕のものになったから」
姉様の補佐につけるのもありかもしれない。悪魔という点に目を瞑れば守れるし攻撃できるし言うことなしだろう。
……逆に悪魔達が狙ってきて危ないか。
「……何故殺さなかった?」
殺す前提か?しかしまあ、僕に少しでも冷静さが欠けていたら確かにサイちゃんを殺そうとしたかもしれない。あの時はカッとなっていたから。
魔界もこの王国もめちゃくちゃになってしまえばいいんだと、今でも少しだけ思っている。だから殺しはしないまでも、攫った。
「殺す理由がなかったから、かな?」
「…………。そうか。ま、こちらとしてもサイ・クロニクルがお前の物になるのはありがたい。ミール・レストレンジが関わってるとなれば過激派も口を出しにくいからな」
そう言って魔王は去っていった。
▫
次の日。
今日は久しぶりに元老院で会議をやる日だ。僕も一応元老院のメンバーなので呼ばれた。
「はあ、元老院の皆さんこんにちは、そうして久しぶり。ミール・レールガットです」
目の前に置いた液晶画面の前でそう呟く。
『相変わらず気の抜けるような挨拶じゃな』
分割された画面の向こう側から、本人曰く方言が少し入っているらしい老婆がそう言った。
「そうだね」
どうせいつも気の抜けるような議題についてしか話さないんだからこれで十分だろ、という言葉は飲み込む。
『久しぶりだな、ミール』
この間議長になった、伯爵家の娘が挨拶を返してくる。
元老院とは王とその直結の組織の間で提出された法案その他を適正かどうか監査する役割を持つ。
枢密院も大審院もトップは男なので、なるほど国王陛下は新しい視点をお持ちだと思ったものだ。
ただこの人が女性としての視点を持っているかと問われると首を傾げざるを得ないが。
「古代技術と古代魔法を流用して遠距離で会話できるようにしてみたよ。足腰の立たない老人もいるのだから、今後もこれでいいよね」
『老人がなんか言っとるわい!ほほほ』
この通り元老院の人間には僕の正体は知れ渡っている。
トップ層の人間は国の有事とあって伝わるのも当然だった。というか僕の処遇を決めたのもここだったし。
そのため、人目を気にすることなく外部装置をつけることができるし、軽い冗談も言える。
「分かっているなら僕を敬いたまえよ。建国に協力した偉人なんだぞ、僕は」
ため息をつきながらぼやく。
『その辺りにしてください。話が進みません』
「ああ、すまない」
『本日の議題は、分かっていますよね?先代魔王の娘、サイ・クロニクルの誘拐です』
画面の向こう側がざわついている。
……伝わるのが速くないか?
なかなか皆落ち着かない。
犯人は誰だとそればかりだ。いつも利権争いで忙しそうだなとぼんやり思う。まあ犯人は僕なんだけど。
「はあ、元老院はいつもこんな感じだね。手短に言うと犯人は僕だよ」
『なっ』
「先代魔王とこの国は同盟関係にあったんだよね?どうやら聞くところによると彼は今の魔王に殺されたそうじゃないか。娘であるサイ・クロニクルに聞くと彼女も先代と同じく人間との融和派だと言う。そのために今まで幽閉されていたんだ、だから僕が救助した。いかにも人道的だろ?」
半分くらい嘘だが。まあ建前というのはいつの時代
も大切だ。特に今回は国が喜びそうなことを述べたので受けもいいだろう。
「とりあえず魔王と話したが、この国に報復する気はなさそうだ」
『そうですか……』
「事件の経緯は詳しく聞かないのかい?」
『教えて欲しいと言ったとして、貴方は素直に教えてくれますか』
「アハハ、確かに」
僕は基本的には元老院に名前を貸しているだけだということを再確認する。
戦争に乗り気な魔王への対策と称し権威を上げている軍部に対抗するためだが、正直愚策だと言わざるを得ない。
僕は別にこの国の味方ではないというのに。




