ヒロインの現状
「お、お前が駆け落ちさせようとしたアーノルドじゃん」
「だから僕はしてないって」
魔王が突然そんなことを言うから反射的に答えてしまった。基本は無視をしているので、不覚である。
「……アーノルドの容姿はどんな感じ?」
「黒髪赤目……ってのはさすがに分かるか。プライドと深い知性を感じる眼差しに大人びた顔立ち、立派な体躯も相まって威圧感がある。刺青とか似合いそうだよな。……ああ、もちろんイケメンだぞ。でもあんまり美形って感じでもないな。かなり男顔だし俺の好みじゃない」
「そう……」
僕はかなり男前でかっこいいと思うんだが、まあそういうことじゃないか。ここは魔王の主観に頼っているのだから。
「ライムは?」
「珍しい桃色の目がまず印象的だよな。それから、愛らしい童顔に筋肉が程よくついた高身長の組み合わせにギャップがあってそれが独特の魅力を生み出していると思う。万人ウケするタイプじゃないけどとにかく目立つから舞台映えするだろうな」
「へえー」
これは新しい視点じゃないか?少なくとも僕にはない視点だ。
「じゃあさ、じゃあさ!レイチェルはどう?」
「うーん。顔のパーツにマイナスは無いし、配置もよく整っていて、間違いなく美少女だとは思うんだが、いかんせん地味なんだよな、華がないというか」
「ふうん」
こう自分で話を振っておいてなんだけど、他の人の顔を議論してるのは大分感じ悪いな。この辺で打ち止めにしておくか。
「なあ魔王」
「え?俺魔王じゃないよ?」
なんだこいつすっとぼけるの下手くそだな。そうは思うが魔王に少し好感を抱いて来ている僕だ。こういう隙がモテる秘訣なのかもしれない。
「はいはい。……先代の魔王はどうなったんだい?一応僕も馴染みでさ」
「俺が殺したよ」
「そっかー」
殺されちゃったかー。まあしょうがないね。アイツも恨みを結構買っていたから。先代魔王は魔界で他に類を見ないほど強く、力で王にまでのし上がったんだっけ?確か。僕よりは弱かったけど。
そういえばソシャゲに先代魔王の娘っていたような気がするな。確か名前はサイ・クロニクル……。
性能はめちゃくちゃ強かった。覚醒アーノルドくんには劣るが。
アーノルドくんは設定性能共に最強キャラだからなぁ。冗談みたいな強さと冗談みたいなメンタルの弱さのギャップが魅力的なキャラだった。ぶっちゃけプレイアブルキャラじゃ1番好きだったまである。
「ミールさん」
上から声が聞こえる。そちらを向くとライムちゃんがいた。魔王はそれを見ると、軽く笑いながら席に戻って行った。
「なんだい」
「私、空飛ぶ斬撃を放てるようになりました!」
……なんて?
「今から放っていいですか!?師匠!!!」
「いいわけないだろ!!!!」
▫
「ほら、ここなら人いないから」
裏庭に移動した。
「空散斬撃剣!」
ライムちゃんが何やら言いながら剣を振るうと、剣が触れていないはずの木がスパッと切れた。
……え?
「どうですか!!師匠!?」
「す、すごいね……」
あれ?おかしいな、ソシャゲではライムちゃんこんな技使ってなかったよね?
というかなんだよ空飛ぶ斬撃って!本当に人間か?
「……どうやったんだい」
「?なんか剣を振っていたらできました。……あ!そういうことですか!?師匠なら何をやっているか分かっているとは思っていましたが、私自身で仕組みをしっかり理解し、成長につなげろとそういうことですね!」
「う、うん……」
何?これ以上成長するって人外にでもなるつもりなの?
魔王を倒すんだしそれくらいの力が必要なのか?
なかなか強かった先代魔王を殺したんだしな……力はあって損がないのかもしれない。
魔王ってソシャゲの性能じゃあんなに弱かったのになぁ。基本一撃必殺のゲームでデバフ主体のスキルと必殺技は使いどころが無さすぎる。
「ライム!こんなところにいたのね!?」
誰かが走ってくる。あ、あの縦ロールはアンジェリカだな。えーと確かライムちゃんの親友で、伯爵家のお嬢様。そんでその家のその年に生まれた男の子は災厄をもたらすとかいう不吉な予言のため生まれてすぐ殺されそうになり、そこから逃れるため母親が女装させ、娘として育てられているけど男。だったかな。
僕はこのキャラがきっかけでこのソシャゲをプレイし始めたのだ。僕のフォローしている男の娘絵師さんが描いていてな、銀髪紅目の縦ロール男の娘は新しい気がする……!と思ってインストールしたのだ。
「大木が倒れてる……?ライム貴女何かされていない!?」
「いやこれは私が……」
「そこにいる貴方ね!!?ブラッディソーン!!!」
僕の足元に突如として血の池が発生し、嫌な予感がしたため咄嗟に避けたが、そこから生えてきた長い棘のようなもので腕が吹き飛ばされた。
はあ……、ただでさえ最近魔王と話していてエネルギーがカツカツなのに。
このように実際プレイしてみると、アンジェリカはかなりヒステリックなキャラをしていて、僕はなんか思ってたのと違う……となったものだ。
止まらないため息を吐きながら腕のみの時間を戻し元の形に戻す。
「ただの人間ごときが僕にかなうわけないんだからさ、大人しくしておけよ」
そう言いながら、アンジェリカを風で吹き飛ばした。まあ……死んでたら巻き戻せばいいだろ……。