悪役令嬢レイチェルの現状
「お前っていつも寝てるよな」
何を思ったのか魔王がまた話しかけてきた。
「そりゃあ僕はコスパが最悪だからね」
追加装備があれば日光をエネルギーに代えて活動もできるが、なんせあのパーツは大きくて目立つので持って来れない。
そういうことで学校では省エネモードの活動をしている。
表情は特にエネルギーを使うので今の僕は無表情である。
「そんなんじゃ不健康だろ?ラジオ体操しようぜ」
「僕の話聞いてた?」
あとこの世界にラジオ体操なんてあっただろうか。
……僕は昨今の事情に疎いからな。
▫
悪役令嬢……そんな生易しいものでも無い気がするが、とにかくレイチェルはあれでなんだかんだ上手くやっているらしかった。
それは別に構わない。レイチェルが嫌われるよう仕向けたのは本題ではないし。
何が問題かってソシャゲのプレイアブルキャラで見たことのあるイケメンどもに囲まれていることだ。
これは明らかにおかしい。ゲーム通りではないだろう。
「やあレイチェル。今日も元気そうでなによりだよ」
僕を止めに入ろうとするガタイのいいイケメンを手で制止させ、レイチェルが前に出てきた。
「わざわざ嫌味を言いに来たんですか?この通り私は貴方のせいで今大変なのですが」
……ん?
大変そうには見えないが。
あれか?地位のある優秀な美青年達に囲まれて大変です〜とかそういう話しか?
それは大変だな。
「そうなんだ。お疲れ様」
特に意味があって話しかけてみたわけではなかった。とりあえずこれで手を振って帰ってしまおう。
……。
「なに?」
1人で離れると、誰かが着いてきていた。
「いや、聞きたいことがあって……」
少し背が低い、しかし僕よりは背の高い青年が戸惑ったように口を開く。
「……。いいよ、僕が許可してやる」
「先日のあの騒ぎはレイチェルを手に入れるのが目的だったんじゃないの?」
「はは。面白い冗談を言うね」
恋愛関係だとでも思われていそうな表情だ。
しかし言い回しだけ考えればそうだな、5割くらいは当たっているかもしれない。
「レイチェルが誰と結婚しようがどうでもいいさ。最終的に僕の手に入るならね」
彼に後ろ向きで手を振って別れたあと、ぼんやり歩きながら考えていた。
レイチェルは確保できそうにないかもしれない。わざわざゲーム通りにことを進めたのはレイチェルを姉様の経営する会社に引き抜きたい狙いがあったからだ。
仕方がない。少し早くイベントをこなしてしまった僕の失態だ。
▫
「なあ魔王僕の見た目はお前が見るとどういう風に見えるんだ?」
「どうした急に」
机から顔を上げ、帰ろうとすると魔王がこちらをじーっと見ていた。
そのため昔から気になっていたことをひとつ聞こうと思ったのだ。僕は乙女ゲームにおいて不人気キャラだった。それこそルートを潰されるほどに。
しかし僕の設計者は確かに、僕を世界一整った顔にしたと言っていたはずだ。
周りの反応を見てもよく分からない。僕の方を振り返るとかそういうありがちなイベントは無いし、しかし話してる相手が突然僕の顔をまじまじと見てくることもある。
姉様がかっこいいと言ってくれるのでかっこいいと思っているが……。
「んー、正直なこと言っていいか?そういうことだよな?まず白いなという感想が浮かぶが……見て引っかかる部分を全部排除した顔。人外並に整っているけど印象に残る部分を削りすぎて美形には見えない。みたいな」
「……君すごいな」
それっぽい。僕がロボットだということは魔王も知っている訳だが、設計図に当時の人間の顔の平均を取って僕の顔としたと書いてあったのだ。
写真の平均を取ると美形になるのは皆知ってるよな?
ということは、だ。この魔王は僕の苦手な美醜の区別がしっかりできるタイプだ。
「この学園でお前が1番かっこいいと思う男は誰だ?」
「俺」
「……」
まあ、この学園で1番モテてるしな。
なんでこんな質問をしたかと言うと、この乙女ゲームの攻略対象が誰なのか見た目の良さで分からないかと思ったのだ。僕は設定は読み込むタイプだが、ゲームの出典までは見ていない。
キャラ設定でライムちゃんに触れている全てのキャラが攻略対象というわけでもないだろうし、記憶に自信があるわけでもない。こういう方向からでも参考になれば僕としては大変助かるということだ。
アーノルドくんとアレックスくんはしっかり結婚のことに触れていたので確定だが、他が分からない。
「次は?」
「ああ……好みの問題になってくるが、演劇部のレイズとか」
「ほう」
知らない人だ。ソシャゲにはいなかったよな?
しかし演劇部か。ギャルゲーではあんまり見ないタイプな気がするが、乙女ゲームではそうでもないのだろうか。まあ攻略対象と決まったわけじゃないからここはおいておこう。
「なんだ、知らないのか?演劇部のスターだぞ。中性的で華のある美青年で、1回は見た方がいい」
「ああ、うん……」
「興味無さそうだな。なんで聞いたんだ?」
まあそこ疑問に思うわな。
「よく聞いてくれた!実はな、最初に言った質問に関係しているんだ。僕は物の美醜に関して疎くてね。姉様の補佐をするにあたってこれは良くないと思っていたんだ」
と、サラッと適当なことを言っておく。
この場合の適当は正しいの方じゃなくて雑な方ね。
「これは嘘……か?うーん」
首を傾げている。