元プレイヤー視点の情報
俺がこの世界が生前プレイしていた乙女ゲームの世界だと気がついたのは今から100年くらい前のことだった。
突然ふと鏡を見て思い出したのだ。俺はこの世界における倒すべき敵、魔王であると。
鏡を見るとその男は、サラサラの金髪に透き通るような碧眼、中性的にも感じられるが男らしさもしっかり残る整った顔立ちをしている。口角は軽く笑うように固定されていて爽やかさを演出している。スラッとした高身長で細身の体躯だが、しっかり筋肉はついている。まるで物語に出てくる王子様みたいだ、と他人事のように思った。
同人版で人気が出たため、商業版のDLCで攻略できるようになったのも納得のイケメンぶりだった。あの絵が現実に落とし込まれるとこうなるわけか。元々本物の王子様の没デザインの流用ということだし納得はある。
かっこよすぎてナルシストにでもなってしまいそうだ。
ずっと見つづけてしまいそうな鏡から目を離す。考えなくてはいけないことはたくさんある。俺はハッピーエンドの場合どのルートでも殺されるし、俺の配下の悪魔達も敗北する。
俺は約200年前、先代の魔王様から王位を譲られた。戦闘力の低い俺だが、人間に滅ぼされつつある魔界を救えるのはお前だけだと言われ、今まで必死に魔界の繁栄のために尽力してきた。俺にだって矜恃がある。このままヒロイン達に為す術なく敗北するのは嫌だった。
考える。まずアレキサンダールート。
これが王道ルートなのだろうか。作品的にはそのような思惑を感じた。
燃えるような赤髪の青年と出会う。同じ学園に通う騎士見習いの先輩だ。確か礼儀ステータスを上げると上手くいくルートだった。主人公はそもそも魔王が潜伏している学園に、魔王を倒すべく戦闘要員として入学を許された1人だ。魔王に知られないためにその情報は伏せられているが、剣技は折り紙つきである。剣技は今更上げる必要がないのである。
そして礼儀を学び、騎士を志し、アレキサンダーと意気投合をする。そして、彼と共に騎士として成長した彼女はあらゆる困難を跳ね除ける。そして2人で魔王を倒す。そして実は第1王子だったアレキサンダーと結婚し、王と王妃になる。だいたいこんな感じ。アレキサンダーは母親の家柄があんまり良くない不義の子なので王位継承権がないのだが、魔王を倒した功績により王になる感じだな。いいと思う。ノーマルエンドだと魔王は倒せないものの戦争には勝利、結婚はするけど、アレキサンダーは王位にはつかない。といった流れだ。
次にオスカールート。
1番難易度の低いルートだ。会話ステータスを上げると上手くいく。モブに話しかけまくれば上がるステータスなのでかなり簡単である。ゲームを始めたプレイヤーが1番最初に攻略するのは彼なことが多いとか。この彼なのだがひたすらめんどくさいおつかいクエストを発生させてくる。彼のルートじゃなくともこのクエストはやっておいた方が得なので死んだ目をしながらこなしていたのはいい思い出だ。そして全てのおつかいをこなすと、ここまで付き合ってくれたのは君だけだ!と言ってルートが開拓される。難易度が低いとは言えめんどくさいやつだなと思ったのは良い思い出だ。
彼は宰相の息子であり、学年トップの成績を誇る秀才だが、実験室を燃やしたり、なかなか癖のある人間であり、友達は多けれど理解者に乏しかった。そして信頼を得た主人公は彼に、魔王の正体を教え、魔王は暗殺され、2人は結婚し、ハッピーエンドというわけだ。
ノーマルエンドはオスカーの信頼がちょっと足りないため魔王の居場所を教えてもらえない。そして戦争は激化しつつもそれを横目にオスカーは研究に勤しみ、主人公は護衛兼助手として働いている……という流れだ。オスカーは明らかに主人公のことを好いている描写があるのでこのままくっつくんだろうなと思わせるエンドである。味があっていいと思う。
そしてキースルート。恋愛シミュレーションゲームで稀によく見る先生ルートである。
学力ステを上げるとルートに進みやすくなる。
先生は国の極秘スパイであり、この学園に存在しているという魔王を探すために教師をやっている。そのため境遇の似ている主人公を何かと気にかけてくれるのだ。
スパイのため、その体を粗末に扱う先生を何とか止めようと主人公は勉学に励み、とうとう将軍にまで上り詰める。自力だと主人公が1番権威を手に入れている。
そして、戦争が起こり、主人公は前線に立って戦い、先生が魔王城に直接潜入する作戦を辞めさせ、主人公によって魔王が倒され、主人公が先生に結婚を申し込んでハッピーエンドだ。先生はお姫様か何かだろうかと当時プレイしていて思った。主人公の英雄性が1番よく出ていて根強い人気のあるルートである。
ノーマルエンドだと魔王城潜入作戦を止められず、先生が死亡、泣きながら主人公が魔王を倒すという感じだ。割とバッドエンドな気がするが、これも趣があって俺はいいと思う。
最後にアーノルドルート。第2王子のルートだ。オスカーも癖のあるやつだがこいつはキャラとして癖がある変化球タイプだ。
そしてこれが俺にとって最悪のルートでもある。そもそもアーノルドは15歳にして王国一腕の立つ剣士だ。
戦い方もこだわりがあるらしいが俺はその辺詳しくないので地味な戦い方だな、というくらいしか分からなかった。
魔法使いになりたいのであって、剣士になりたいわけではない彼は強い人間と見るや決闘を仕掛けるようになる。負けたがっているわけだ。
そこで剣技ステータスを上げた主人公が勝ち、ルートに進む。アーノルドの婚約者、いわゆる悪役令嬢が出てきて主人公を殺しに来るのもこのルートの特色だろう。
悪役令嬢って乙女ゲームじゃあんまり見ない存在だよな。共通幻覚か何かだろうか。おじゃま虫くらいならたまに見るけど。
それで、このルートの何がダメってハッピーエンドでもノーマルエンドでも俺がナレ死するところである。
お分かりいただけだろうか?
物語開始時点で魔王を倒せるだけの技量があると言われている主人公が他のステを捨てて剣技ステを上げているということに。
そして初期ステだと主人公に勝てるレベルの剣士であるアーノルドが魔法まで身につけてしまうということに。
……過剰戦力である。
ハッピーエンドだとエンディングでサラッと2人で悪魔を殲滅し、魔王を討ち滅ぼすことが語られ、2人のあまりの強さに、これは国で囲わなければならないと悟った王様が身分差を超えた結婚を許してエンド。アーノルドは次期国王に。
ノーマルエンドだと2人は駆け落ちする。そこで戦場を駆け、功績を上げ家を起こし、結婚でfin。エンディングの中でサラッと女王の元魔王は倒されたと明かされる。ここでの女王は現国王の妹だろうかと言われている。
彼女の弟を名乗る裏ボスこと、ミール・レストレンジに滅ぼされるんだろう。塵1つ残らなかったに違いない。ミール・レストレンジを敵に回すのは俺にとって1番悪い選択肢だ。敵に回らなかったとしても、過剰戦力2人が外国に行っただけでなんの解決もしていないのも痛い。
後は学園にそもそも行かない選択肢を取った場合の靴屋の息子エンド(名前は明かされていない)と、隠しキャラのルート、DLC2つがある。この全ルートにおいて俺が殺されるルートは無いので今回は考慮に入れなくて良いものとした。
ただ、俺が生存したいならばこのどれかをたどればいいかと言うとそうでもない。魔王ルートは俺の完全勝利ルートだが覚醒して世界最強の魔法剣士になったアーノルドが泣きながら俺を殺しに来るし、友人ルートも友人キャラがめちゃくちゃ苛烈だからついでに殺されかねないし。靴屋の息子エンドはヒロインが敵に回らんだけでなんの解決もしていないという懸念が。
隠しキャラルートはあらゆる意味で論外だ。俺は死なないけど。
全体的に避けたくはある。
とすると、やはりそもそも俺が宣戦布告しなければいいのではないだろうか。
……。無理だな。これは俺だけでどうにかなる問題じゃない。事の発端は先代魔王の娘にして次期魔王、サイ・クロニクルがミール・レストレンジに殺されたことから始まるのだ。魔界における立場が魔王としては弱い俺は、周りの戦うべきだという意見にのまれ、宣戦布告をする羽目になる。
そもそもこの世界の人類は女神の加護だのなんだの知らないが400年周期で強い人間が産まれるのだ。だから俺は優秀な人材が集まるあの学園に潜入して優秀そうな人材をスカウトして悪魔に堕とし、あと100年くらいは静観するつもりだったのに。いや、かもしれないという話か。これから100年後の話だもんな。
なるようになるしかないか、とため息をついた。
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そして100年後、サイ・クロニクルがミール・レストレンジに誘拐されたと聞き、仰天することになるのだった。




