日常ってこんな感じ?
「僕は今日もかっこいい、よな?」
鏡の前でつぶやく。
当たり前である。古代文明の技術の結晶たる僕がかっこよくないわけがないのだ。
白い髪に灰色の目、透き通るように白い肌、華奢な手足。なんというか中学生が好きそうなかっこよさである。いかにも黒幕らしくて僕はこの容姿を結構気に入っていた。
ついでに言うと全ての関節が180°回転する。ロボットだからね。
「そうね。ミールはかっこいい」
奥で見ていたらしい姉様がどうでも良さそうにそう言う。
「姉様は今日も美しい!」
「どうも」
すげなく返されてしまった。
……正直言うと僕は人間の美醜を判断する能力に自信がなかった。姉様にもそれを見透かされているのかもしれない。
とはいえ、薄い茶色の髪と目、高い身長、癖のない顔で歳をとって真価を発揮する容姿だと僕は考えている。そして姉様は今年42歳だ。
言いたいことは分かるね?
「じゃあ行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
▫
約2000歳になる僕ではあるが、真面目に学校に通っている。
「おはよう。策士」
前の席の魔王が僕に話しかけてきた。
僕に話しかけてくるのはこれが初めてだ。
正直やめて欲しい。
「なあ、聞こえてんの?」
魔王、このゲームの悪役だ。ラスボスを担っているらしい。よく知らないけど。
見た目は金髪碧眼の正統派王子様といった感じでとても魔王には見えない。……このゲームの魔王が僕の知ってる魔王の概念とは違う可能性もあるにはある。とはいえソシャゲのボイスは普通に魔王っぽかったから、やっぱり和製ゲームによくいる魔王でいいんじゃないかなポジション的には。ゲーム性能はあんまり強くなかった気がする。
もちろん彼、彼?が魔王だと自分で言いふらしているわけではない、ないが、とにかくキラキラしていて目立つのだ。だからすぐ分かる。あと関係ないけどよくモテる。
僕は机に全体重をかけ伏せていた顔をあげる。
非常に不本意だが仕方がない。
「僕が誰だか分かっているのか?王の姉、エリザベス・ストレンジャーの弟だぞ僕は」
エネルギーがカツカツなので話しかけないで欲しい。そのため、少しキレ気味な僕だ。
「お前そんなんだから友達いないんだよ」
「そうだね。で、それ君に関係ある?ないよね?じゃあおやすみ」
そもそも僕とこの学生達にどれだけの年の差があると思っているのか。
話なんて合うはずもないし、友達なんてもっとできるはずがない。
「待て待て待て、悪かった。俺が聞きたいのはさ、お前昨日のあれ、仕組んだんだろ?まあ理由は分かる。あの王子が力を失ったら得するのお前だもんな。で、さ。なんであの侯爵令嬢…レイチェルを選んだわけ?」
「?」
「ああ、いや……ミスったな。俺は話を組み立てるの苦手なんだよ。あの王子を引きずり下ろすためとはいえレイチェルにあそこまで恥をかかせることなかっただろ」
「ああ、なんだそういうことか……。うん別に僕が仕組んだわけじゃないけどね?」
建前というのはいつだって重要だ。
しかしなあ、ゲーム通りにやっただけだ、とは言えないな。さすがに。
「もちろん」
「はは。あそこの家の料理人のガキが昔僕の姉様を馬鹿にしたんだよ!近くにあのガキもいたくせに何も言わず当主から謝罪も来ないんだぜ?ああ、気分が良かったな、昨日は本当に」
性格が悪いことを言っている自覚はある。
当然これは嘘だ。あの料理人の息子には強い怒りはあるが、だからと言ってレイチェルを巻き込むほどじゃない。
何もしないことを僕は咎めない。
「嘘つき」
魔王がにんまりと笑う。
……僕よりはるかに弱い癖して偉そうに。
とは言わない。だって僕は彼よりはるかに年上なのだから。僕は大人だ。おじいちゃんの方がふさわしいかもしれない。
「僕の睡眠を邪魔しておいて、さらに嘘つき呼ばわりだって?いいご身分だね」
「やさぐれてんなぁ、古代文明に取り残された世界破壊兵器」
「……君さては話の組み立て下手くそだな?」
「そう言ってるやろがい」
魔王が僕の正体を知っているのは不思議なことではない。僕は先代の魔王とそこそこ仲が良かったのだ。伝え聞いていてもおかしくないだろう。
僕はもう何も残っていない古代で作られた世界破壊兵器だった。
「……」
「……」
ここからどうしろと?
なんでこんなやつがモテるんだ。
「なんで僕はモテないんだろうなぁ」
「性格だろ」
▫
「ちぇ。あんなやつ馬車に轢かれて頭がひしゃげればいいのに」
「物騒ですね」
「君は……」
どこかで見たことがあるような気がした。
光で色の変化する青色の髪を短く切りそろえた、頭の良さそうな少女だった。
「ループ、して欲しいと言えば叶えてくれますか?」
彼女は僕にそう言った。
そう、僕の最大の強みはループ、時間遡行ができることだった。だからこそ僕は誰よりも余裕を持って黒幕ができる。まあ1回何かを失敗したのか100年前からやり直しになって絶望したが……僕は未来に行けない。満足なセーブのやり方が分からない。なんでロード地点が100年前になっていたのかも。
乙女ゲームというか、ストーリーゲームにおいて、セーブアンドロードは必須であり、それをになっていたのは僕だった、らしい。ゲームの僕は未来に行く仕方知っていたのだろうか。
「君にロードする権利はない」
「そうですか」
そう言って彼女は去っていった。




