精神攻撃に弱いスパイってどうかと思う
「ミール・ストレンジャー、こっちに来い」
先生に呼ばれた。人通りの少ない廊下に出る。
「敬語とか使えないの?」
「あのですね、一応私は教師としてここにきているんです。特別扱いすると不自然でしょう」
「真面目だなぁ」
他の教師は僕に対してバリバリ敬語だぞ。
まあ平民上がりとかは僕を知らないらしく、普通に話しかけてくることもある。苗字が異なるうえ、王子と同い年の王弟殿下とか知らんわな。そう思うので僕も特に咎めない。
「授業中寝るのやめてくださいよ」
「やだ」
「やだ、って。子供じゃないんですから」
「ほら、僕も生徒として通ってるからさ」
「……」
黙った。何か言いたそうだな。
まあ何も言えないのも無理は無い。僕の気配を消す能力は一流にも劣らないからね。
そう、目の前に立っているこの男、国家直属のスパイであり、紛れ込んでいる魔王を見つけるため教師としてこの学校に来ているキース先生よりも、だ。
白々しく高校生のフリもできている。何せ中等部から何食わぬ顔で在籍してるからな、僕。
「で、要件は何?」
「……あれ?」
「え?」
まさか要件を忘れたのか!?
先生マジかよ。……魔王の認識阻害に簡単にかかっちゃうしな先生。スペックは高いけど精神異常に対しては弱すぎる。何らかの精神阻害を受けたと考えるべきか。
「しょうがないな、頭ちょっと弄るけど我慢してね」
「は、はい」
先生の頭の中を閲覧していく。僕は破壊系ロボットだが、それはそれとして精神閲覧、把握と再構成も得意なのだ。機能として持っているわけではないので、本当にただ得意なのだと思う。
何?産まれてすぐ捨てられ……いやこれはいらない情報だな。これじゃなくて、最新最新。おや、魔王っぽい情報発見。
▫
休憩時間だ。講義は続けてこの教室で行う。そのため、観察するにはちょうどいいチャンスだ。教室を見渡す。そして、職務として特に見なくてはいけない生徒達を周りに悟られないよう見ていく。
まず、アーノルド皇太子殿下を見る。いつも通り頬杖をつきながら本を読んでいる。いつもは戦術や武器、歴史に関する本だが今日は違いそうだ。タイトルは古代文字かあれ。震え、魔術……?よく分からない。
そしてそれを遠巻きに見ている中等部の少女達が以前と同じく嬉しそうに何かを話している。
次にライム。彼女は俺と同じ任務を負っている。
前から目をかけていたが、この間皇太子殿下に勝利したらしい。俺には関係ないのだが、やはり嬉しい。今日も教室の隅で素振りを繰り返している。
最後にミール王弟殿下。彼は建国の英雄であり、本来王弟でもないらしい。しかしそういうことになっている。なんで若いままなのかとかいろいろ聞きたいことはあるが下っ端には教えてもらえない。お偉いさんの考えることはよく分からんね。
いつも通り机に突っ伏して眠り込んでいる。講義中であってもお構い無しだ。全く。
いつもは他の生徒に話しかけられても無視するか嫌味を言っているが、最近は前の席のやつとよく話している。金髪碧眼の名前は確か、確か……。…………。……?
「お前、誰だ?」
思わず声が漏れる。
そいつはニンマリと笑って、俺の方を向いた。
!まずい。ミール様にすぐさま報告しなければ。
「ミール・ストレンジャー、こっちに来い」
▫
見終わった。
ああ、何?魔王の魔法ってあくまで記憶の優先順位を書き換えるだけで記憶そのものを消せるわけじゃないのか。全部見れちゃったじゃん。
「どうでしたか?」
「魔王バッチリ見えたよ」
「は?」
「僕に2回も言わせるつもりか?」
「っ、いえ。魔王が?」
まあ魔王のことを他人に話さないなんて一言も言っていないし、話しちゃっても構わないだろう。元はと言えば隙を見せた魔王が悪い。建前を守りきっている間は見逃してやろうと思ったのに。
認識阻害くらいなら子供の遊びくらいにも思えたが、さすがに記憶を消したも同然のことをするのはね。
「容姿の情報頭に直接ぶち込むから待ってね」
「え?あ、はい」
精神干渉魔法を解いてやれよと言われそうだけど、悪魔の魔法なんて解析に時間がかかって仕方ない。高度という訳では無く、感覚派すぎるのだ。系統がどいつもこいつもバラバラすぎて一から調べなくてはならない。なかなか難しいのだなこれが。
さっき閲覧した記憶をコピーし、新たな情報としてぶち込む。
「ほら、どう?」
「……。…………。頭が痛いです」
「ああ、ちょっとした副作用だよ。気にしないで」
「金髪碧眼の男……ミール様とよく話している生徒じゃ……」
「そうだよ」
ああ、そのあたりは編集していけばよかったか?まあでもどうせすぐに分かることだ。これで正解だろう。
「なんで教えてくれなかったんですか?」
「聞かれなかったし」
「……」
「上に報告してくれてもいいよ?僕は僕で魔王から情報絞っておくから」




