悪役令嬢の実情
「女の子と話したい……」
「ロボットが女に飢えてる……」
「やめろ!」
僕が窓の外を見ながら黄昏ていると魔王が茶々を入れてきた。
いや女の子っていうのは姉様の後継者という意味での話でだな。
「ま、ロボも年頃だもんな。そういうこともあるだろ」
ほぼ2000歳の僕に年頃なんて概念はあるのか。
そして僕は魔王の政敵を攫って確保したとんでもない敵なわけだが、なにごともなかったかのように話しかけてきて何がしたいのか。
「ないよ。僕は超越存在だぞ。そんな概念は最初から持ち合わせていない」
「またまた〜、理想の女の子作ろうぜ。……あれか?ロボだと理想の女王様とかの方がいいか?」
……。
そういえばレイチェルはどうなったんだろうかと思いを馳せる。あの時は僕自身焦っていたのもあってよく考えていなかったけど、レイチェルを囲んでいた家柄のいいイケメン達は、ソシャゲでは第1王子のアレキサンダーの取り巻き……友人達だったように思う。つまり、アレキサンダーが王位継承権を捨てるきっかけになったあの事件について詰められていた可能性が高い。
レイチェルの言っていた、貴方のせいで今大変が本当だったかもしれないのだ。割と申し訳ないことをした。
まあでも、レイチェルも今のところ実家に暗殺されている様子もないし上手くやってるんだろう、多分、と思い直す。
「ロボ、話聞いてる?」
魔王はどうやら僕の呼び名をロボにしたらしかった。身バレしかねないのでやめて欲しくはあるが、魔王を魔王と呼んでいる僕の言えたことでもないので気にしないことにした。むしろ僕への意趣返しなのかもしれない。
オスカーのことはオッシーと呼んでいるのを確認したしね。オッシーって何?
「聞いてるよ。馬鹿らしくて返答に困ったんだ」
「言葉の棘がいちいち鋭いんだよな……」
「はあ。で、なんだっけ?理想の女王様か?そうだなぁ。一芸持ってて、強くて、カリスマ性があって、そんな感じかな」
「普通!」
「うるさいな」
あと男性器があるともっといい。いやほら、完璧な女性に男の部分があるともっと完璧な気がするじゃん?
…………うん。これは言わないでおこう。前世分で生えてきた趣向だしな。
「魔王は?」
「可愛い子はみんな好き」
「そっかー」
▫
「レイチェル、君の家は今どんな感じだい?」
「……それを聞いてどうするおつもりですか」
おお、怒ってる……。
「どうもしないけどね。君の家はいつもきな臭いから」
ふと思い出して心配になったなんて言った日にははっ倒されそうだ。
それに家がきな臭いのは本当だ。一般的に、この国の第1王子、アレキサンダーが王位継承権を棄てたのは不義の子だからと言われている。それは間違ってはいないが、全てを現しているわけではない。
確かアレキサンダーが12歳くらいの時だったかな、食事に毒が盛られたのだ。致死性の毒だった。もともと血筋から疎まれていたアレキサンダーには毒見がおらず、言ってしまえば暗殺し放題の状態にはあった。
しかし、アレキサンダーに懐いており部屋によく出入りしていた第2王子のアーノルドが毒に気づき、急いで吐き出させたため、命に別状はなかった。
そして、その事件は闇に葬られ、第2王子を危険に晒したとして王位継承権を降りたのだ。
……アーノルドくんも、父にも母にも全く似てないせいで少し疑われる立場にあるしね。まあ絵画に残っている初代女王にそっくりで、曽祖父とも似ているのでなんとかなってるけど。というか初代女王を知ってる僕から言わせてもらうと性格含めて瓜二つだよ。性差どこ行った?って感じだよ。まあアーノルドくんの方が心なしか好奇心強めで攻撃的な気がするけど。
「……私にアレキサンダー王子と良い仲になれとお父様が仰っています」
何か思惑があるのかこっそり教えてくれた。
……これもしかして助けて欲しいってことかな?
アレキサンダーは弁えているやつではあるが、相応に権威欲も高い。見た目が好青年だから騙されがちだが、少し腹黒いところがある。境遇を考えると仕方ないけど。
国王になれる機会を粛々と伺っている。武勲を上げ、王になる可能性を一欠片でもつかもうと、ならなくても良い騎士になった。まあアーノルドくんがあれなんであんまり意味なかったんだけどね。
爵位はそんなに高くないが、王太子が10割悪い理由で婚約破棄をされ、今1番勢いのある家になった娘と言ってもいいレイチェルと結婚すれば王位へ少しだけ優位になる。この流れを受け入れる可能性はあると言える。
そうなると僕としてもかなりまずいな。姉様が王位につける可能性がまた遠くなる。
「なるほどね……」
じゃあイケメンに囲まれていたのはもしかしてそっちの方が理由か。いや、逆に第1王子暗殺未遂事件について問い詰められるその境遇を利用して第1王子に近づけって言われたとか?だとしたらあんまりにもあんまりだな。そりゃあレイチェルを陥れた側である僕であろうがなりふり構わず助けを求めたくなりそうだ。
「まあ僕が助けてもいいんだけど、そうするとミーシアの家がお取り潰しになっちゃうだろうしなぁ。地位を失いたいわけではないんだよね?」
「……え、ええ。そうですね」
「ちょっとだけでいいからさ、自分でがんばってみない?大丈夫。君が死なないように、僕が後ろ盾になってあげる」
まあ後ろ盾というか、レイチェルが死んだら時間を巻き戻してあげるよということである。
彼女が死ぬのはやっぱちょっとだけ罪悪感があるのでね。一方的にだけど、僕は小さい頃の彼女も知っているのだ。
「……お願いします」




