表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

彼とのキス。

作者: 瀬崎遊

 彼との初めてのキスは鼻の頭がぶつかった。

 触れただけの唇が少し離れて、目があって、二人して小さく笑って肩をすくめた。


 二度目のキスは『ちゅっ』と小さな音が鳴って離れて、唇の感触を感じたのは唇の端っこだった。

 きゅっと手を握られて、嬉しくて、恥ずかしくて叫び出したい気持ちになった。


 三度目のキスは唇と唇がしっかり重なって、離れていった。 

 キスしたことが恥ずかしくて、目を合わせられなくて、彼の肩にもたれかかった。

 ぎゅっと抱きしめられてもっと恥ずかしくなって、なおさら顔を上げられなくなってしまった。


 キスの回数が増える度にドキドキして、キスの前よりもっと彼のことを好きになった。


 何度キスを交わしたかしら?

 ドキドキが安心感に変わって、私には彼しかいないと思うようになった。



 初めて人前で触れるだけのキスをして、涙を流して、名字が同じになった。


 キスの回数が何百、何千回になった時、三人家族になり、四人、五人家族になった。

 

 子供達にも沢山のキスをして、彼と二人で幸せを噛み締めていた。


 見つめ合い、微笑みあって、幸せを感じた。


 何万回目かのキスをした朝、彼を送り出し、いつもより遅い夜、帰ってきた彼は、冷たくなっていた。


 歩いていたところを運悪く馬車を引いた暴れ馬が、彼を蹴り飛ばして、踏みつけて、馬車に轢かれた。


 不思議と顔には傷ひとつなく、綺麗な顔だった。


 すすり泣く声が聞こえる中、私は彼の頬に触れ、最後のキスをした。

 生気がない、冷たくてしょっぱいキスだった。


 眠る彼に蓋がされ、彼は長い眠りについた。



 私は三人の子供を抱きしめ、彼が埋まってしまった場所を長い間、見下ろした。

 そして彼に最後の約束をした。子供達をちゃんと育てると。


 彼の匂いが残るベッドに入ると、自然と涙がこぼれた。


 涙がこぼれなくなり、彼の匂いが薄れ、寂しさだけを感じるようになった。


 何度も彼の傍に行きたいと思った。

 でも、彼との最後の約束を思い出して、子供達に彼の分もキスを送った。



 子供達が結婚して、孫が生まれて、曾孫を三人抱いて、やっと彼の下に行く、眠りにつくことになった。

 私は夢を見た。

 彼が迎えに来てくれる長い長い素敵な夢を。 

 ベッドで眠るときと同じように彼の左側の地中で・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ