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それぞれの思い

修一

 あれから、冬が来て、春が来て、また夏がきた。愛おしい修也は歩き初めた、可愛いいが目が離せない時期だ。

僕は相変わらず、眠れない日々だ。夜中に電気の消えたリビングで、ビール片手に深夜番組を視て、うたた寝するのがやっとだった。

ベットでは、落ち着いて眠る事が出来ないのだ。


 何をすれば落ち着くかと悩み、洗濯洗剤を昔使っていた物に変えたり、ボディーソープやシャンプーも以前の物に変えてみた。

紗綾さんに不審がられずに変えるのは、一苦労だったが、これで落ち着ければと色々試した。


しかし、何をやっても落ち着かなかった。そもそも、あの匂いや香りになるはずがなかった。

有加さんの匂いや香りが存在しないのだから。


 紗綾さんの勧めで、二人で心療内科にも行った。薬を飲むと睡眠は取れる。

睡眠はとれるが、心は休まらず心労は溜まっていった。

 それでも紗綾さんが心配しているのが分かっていたので、少しでも安心させるためと薬を服用し、眠る事にした。

 ただ薬を服用した翌日は、頭が重かったし、ふらつくことがあった。


 僕は何故眠れないのだろうか?どうしたら、紗綾さんと修也と住むこの家が、僕の家になるのだろうか。




紗綾

 樹雨に戻ってきたのは、仕事で行ったアメリカの風土や国民性が合わなかったからだ。傷ついて戻ってきた私は、若干人間不信になっていた。


 最初に彼を見たのは、ランチタイムも終わろうとしてる時だった。

彼は父と少し話し、ランチを注文した。

彼は本棚から1冊の本を手に取り窓際の庭が見える席に座った。

ランチの後、本を片手に珈琲を飲む 静かな横顔が妙に心に残った。


 その後、彼との距離は縮まることなく、あの事件が起こった。

事件後の母と私は父の残してくれた樹雨を存続される為に、全てを費やした。

しかし、店の常連客は減っていく一方だった。

そんな中、彼は以前と同じように来てくれていた。いつものように庭が見える席に座った。



 ある日勇気を出して彼に相談してみた。

彼は、無表情で数日待って欲しいと言った。

私は彼に相談したのは間違いだった、やはり他人事なんだと諦めていた。

しかし、3日後、彼は事故以前の本のリスト作ってきた。


「ここの常連の7割は、古書目当で来ていました。

しかし、事故で本の半分近くが失われてしまった。

コストは掛かるが、ここの強みであった古書を収集すべきだと思います。

僕の知り合いの古書店店主に話しをしてあるので、迷惑でなければ行ってみますか?」

私はその時、彼の優しさに感謝し、勇気を貰った。

何度もお礼を言う私に、彼は微かに笑って

「いや、僕もマスターのお店の存続に一役買えればと思っていたので。」と言った。

私はその不器用そうな笑顔に一目惚れをした。


その後 彼に手伝って貰いながら、古書を収集し、本棚を購入し、内装だけは 少しだが父が営んでいた頃の面影を取り戻す事ができた。

すると、常連客が戻りはじめ、新たなお客も取り込む事ができた。

 

 気が付くと私は彼が、ますます大好きになっていた。

でも彼との距離は、縮まらない。一見、親しそうに話すはするが、彼の糸心に触れる事はできなかった。

 私は、どうしても彼を手に入れたかった。

彼が結婚していたのも知っていたから、せめて彼の子供だけでも欲しかった。


 ある日、どうしても彼に触れて欲しくて私から誘った。

お礼と称し、食事に誘い、彼がお酒に弱いと知った上でお酒を飲ませ ホテルへ誘った。

その一度の関係で、私は修也を身籠もった。そして彼は元奥さんと離婚することになった。



 結婚すれば、彼の糸心に触れることが許されると思っていた。

しかし、現実は違った。確かに彼は私達を大切にしてくれている。

でも、彼の糸心に触れること、心に立入る事は叶ってはいない。

飾らない彼自身と年を重ねていきたいと思って結婚したのに。

いつも気を張って心を閉ざしている彼、そんな気を張った状態でいつまでのも体と心が保てつるわけがない。


 最近では、寝付けないようだ。

一緒に住んで、一年近く経つのに落ち着かないのか、家のベットではほどんど眠らない。いや、眠れないのだろう。


私は修一さんを心療内科へ誘った。修一さんは嫌な顔せず、病院へ行った。

しかし、症状はほとんど改善しなかった。



 結婚後知った、彼の奥さんがあの有加さんだと。

私は裏切られた気持ちで傷ついたが、私は自分が傷ついていい立場では無いことをすぐに悟った。


いつもお店でホットラテを注文し、私の話に楽しそうに耳を傾けてくれる、優しい有加さんが大好きだった。

でも修一さんとの一件をきっかけに、私達は連絡出来なくなってしまった。


ある日、修一さんの不眠を相談するために勇気を出して有加さんに電話した。


 


有加

 紗綾さんから連絡が来た。

私達は、違う出会い方をしていたら、きっと良い友達になれたと思う。


 話は修ちゃんの不眠症について、どうすれば良いかという相談だった。

修ちゃんが眠れない理由はなんとなく分かった。

きっと私と同じで、帰る場所、居場所を失った事が不眠へとつながっているのだろう。

 しかし、その事を紗綾さんに伝えては駄目だと思った。彼女を傷つけ、修ちゃんの努力を無にしかねないと。

かと言って私が修ちゃんに直接連絡するのも間違っている気がした。

また、連絡してどうにかなるという事でもない気がした。

修ちゃん自身の問題だから、自分で何とかするしかない、もしかしたら時間が解決してくれるかもしれないし。


どうしたら良いかと悩んで、結局「考えてみるわ」と電話を切った。

 

私は、この時修ちゃんに連絡しなかった事を一生後悔することになるとは思わなかった。

 

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