修也君
季節は夏になっていた。
朝、蝉の声を目覚ましに、起きるこの季節が私は大好きだ。
私は、あれからも彼の子供に逢いたくて店に通った。
修ちゃんの赤ちゃんから漂う匂いは、ミルクの匂いと親子だからか修ちゃんに似た匂いだ。その幸せな匂いは、私を虜にしていった。
彼の子供に逢うことは、苦痛ではなく、むしろ幸福だった。
彼の息子は修也君と言った。修也君はとても可愛かった。
お母さんの背中に背負われているのが大好きで、いつも上から私達お客様を見ている。
その上から目線のふてぶてしさが、更に愛くるしかった。
カフェに通うにつれに彼女とも仲良くなっていった。名前を紗綾さんと言った。
最初は修也君を真近で見たいと言う不純な動機で近づいた。
それが気付けば、彼女の明るい話題と朗らかな人柄に惹かれていった。
彼女の笑顔は眩しく太陽のように、冷えた心を溶かしていった。
いつの間にか彼女は大好きな人になっていた。
修ちゃんが、彼女に惹かれるのも納得できた。
ただ、大好きになればなる程、彼女に自分の事を隠している事が心苦しかった。
そして、何より彼女を好きになれば好きになるほど、私が二人の邪魔をしている悪女みたいで、心が蝕まれていく痛みを感じた。
こんな形でなく出会えていたら、最高の友達になれたのに。
こんなこと、いつまでも続けれない。
修ちゃんに気付かれる前に止めないと。
紗綾さんを傷つけてしまう。
これで最後と言い聞かせながら、誘惑に負けてもう何度あの喫茶店『樹雨』に足を運んだことか。
今日こそ最後にしよう。また今日もそう思いながら店に入った。