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私小説まとめ

90%の学生がA以上の成績を取る講義で私だけがB  

作者: ダイニング

 私の大学の鬼仏表には、「研究倫理」という授業についてこう書かれている。


教官 いっぱい

教科 研究倫理

投稿者 張り紙禁止という張り紙は禁止にならないんですか?

投稿日 2016年9月1日

評価 ど仏 

テスト

レポート あり

出席 あり

コメント 学期末に1000文字程度のレポートを課されるが、字数制限と期限にさえ気をつければ大丈夫。あとは出席しておけばAA確定。これでB以下のやつはやばい。


 こうも書いてある。


教官 研究倫理

教科 田中・村上etc

投稿者 

投稿日 2018年8月24日

評価 ど仏 

テスト

レポート あり

出席 あり

コメント AAありがとうございます^^これB以下のやつは馬鹿w


 こんなことも書いてあった。


教官 多数

教科 

投稿者 三人寄ればもんじゃの知恵

投稿日 2021年8月31日

評価 ど仏 

テスト

レポート あり

出席 あり

コメント Aなんてミジンコでも取れる。B以下のやつは…w


 他にもたくさん投稿があったが、みんな同じような感じだったので省略する。大体、というよりほぼ全ての投稿に共通していたのがB以下の成績しか取れなかった学生を煽るような文言である。初めてこれを見たときは、これでB以下をとるような学生は煽られても仕方ないよな、と思っていた。なぜならシラバスに「上位30%の学生にAA、次の60%の学生にAを与える」と書いてあったからだ。B以下の学生は下位1割ということになる。


 私がBを取るまでは。




 サークルの活動中のことだった。友人に「そういえばさ、研究倫理の成績どうだったの?」と聞かれ、思わず私が口ごもってしまったことからすべては始まった。その一瞬の間で、友人たちは察しがついたようだ。怒涛の追及が待っていた。「まさかB?」「嘘でしょ?w」「逆にすごいな、それw」「さすがに研究倫理Bは社不」「ちゃんと出席してた?w」「俺の周りであれがBだったやつお前が初めてだわ」「草」


 私のプライドはずたずたに引き裂かれた。自分が成績のことで馬鹿にされるなど、高校時代には想像できなかったことである。私は、何食わぬ顔で「まあ、BっていうのはBestのBだから」と言い返すのがやっとだった。だが、勉強の話などそう長く続くものでもない。やがて話題は今期のアニメや最近の漫画へと移り変わっていった。「あの漫画、最近完結したんだって」「そうなんだ。結局最後はどうなったの? 文化祭のところまでしか読んでないんだよね」


 友人たちが会話に興じる中、私だけはその輪に入らずぽつねんとその場にたたずんでいた。私の頭は、さっきかけられたばかりの言葉に支配されている。そこへ湧き上がってきたのが鬼仏表に書かれていたコメントだった。それは決して救いなどではない。私の心は呪縛され、沈んでいった。私はやばい。私は馬鹿。私はミジンコ以下……。茫然としている間に、「ここ押さえるの代わってくれない?」と頼まれていたことにしばらくしてから気づき、慌てて代わる。「持った」「離す」


 そのままぼんやりしているうちにサークル活動はお開きとなった。いまいち晴れない気分のまま地下鉄に乗ってアパートへ帰り、味の薄い夕食を摂る。なんとなくパソコンを開いてネットサーフィンをしているとき、私は突然ひらめいた。これだ。私の方からだって煽ってやる。


 鬼仏表を開き、必要事項を入力していく。


教官 田中、中村、村上、上田

教科 研究倫理

投稿者 

投稿日 2022年9月15日

評価 ど仏 

テスト

レポート あり

出席 あり

コメント くそ楽単。これでB以下を取るのは終わってるとしか言いようがない(ちなみに筆者はもちろんAAでした笑)。


 投稿ボタンをクリックする私の人差し指はどす黒い喜びに震えていた。

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― 新着の感想 ―
[一言]  何か面白かったです。負の連鎖…っていうか、誰しもこういうどす黒い行動を取ってしまう怖さがありますよね。何かデマのひとつのパターンであったり、ネット情報でもこういうのあるかも。頷きながら読み…
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