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002:偏見・嫌悪

「……は? もう一回言ってくれない?」



 アレス達に追い出されてすぐの事。


 俺は思わず、冒険者組合総合窓口受付嬢である、初めて見る新人ちゃんの前で、間抜けな声で尋ね返していた。

 それだけ彼女の言った言葉が急で、荒唐無稽な話だったからだ。



「〈呪術士〉ラグナ様、貴方の持つ冒険者証明証(ライセンス)は剥奪処分となりました。今後一切、貴方は当組合の恩恵を受ける事はできません」

「……うん、それが意味わかんないから聞いてるんだわ」



 え、何?

 ここでも追放されるの、俺?


 最近は真面目に働いてる奴を追放するのが流行ってるのか? 誰だよそんな馬鹿な事始めた奴は。

 そんでそれを間に受けてる奴もどんな脳みそしてんだよ。


 いつも俺の対応をしてくれてるエリーゼさんに叱られちゃうぞ。今日はなんか本部に呼ばれていないみたいだけど。



「まず、さ。証明証の剥奪ってどういう事よ。それって重大犯罪を犯したり、規約に違反した冒険者に確実に下される処罰だよね」

「はい。その通りです」

「……何で? 俺、別に悪い事何もやってないよ」



 俺、真面目に冒険者やってたよ? 幼馴染の馬鹿に無理矢理誘われて嫌々ながらやってたよ?

 本当なら他にやらなきゃならない仕事が色々あったのに、それ全部泣く泣くお断りして頑張ってたんだよ? そんで明日ようやく()()が完了する予定だったんだよ?


 ……なのになんで俺が罰を受けなきゃなんないの?



「リルムド王国冒険者組合規約第3条に記載されていますので、今一度ご説明いたしましょう……『以下の違反を行なった者は冒険者証明証の取り消し・剥奪を行うものとする。①組合が設定した仲介料を長期にわたって滞納した場合。②組合が設定した依頼料を一定期間こなさなかった場合―――以下略。これらを行なった者の冒険者証明は、然るべき調査を持って剥奪、冒険者を名乗る事を禁じられるものとする』……以上です。ご理解いただけましたか?」

「いいえ、まったく」



 真っ当な法律できっちり決まってんだから、そら従うに決まってんだろ。

 違反して社会的に危うい立場になるんなら、多少おかしくても無理があっても従うもんだろ。俺はそんな危ない橋は渡らねぇよ。



「俺、仲介料ずっと払ってたよな。仕事もしてたよな。俺の担当あんたじゃないけど、俺が以来の受注してるの毎回誰か見てたはずでしょ?」

「……それに虚偽があったと発覚したからですよ、屑が」



 うわっ、さっきまで無表情だった新人ちゃんがごみを見る目を向けてきた。


 え、なんで?

 俺、この人に対して何か気に障る事やったっけ?


 ……考えても分からん。

 俺がいつも担当してもらってるのって別の人だし。今日は何か本部に呼び出されてるからって仕方なく別の人に頼んでるわけだし。しかもその別の人ってのもこの子じゃないし。

 この子とは顔も合わせるの初めてのはずなんだけどな。



「誘ってくれた班の想いも踏み躙り、依頼達成中には全く手を貸さず、野営時にもさぼってばかり。挙句もし問題が発覚しても、自分に有利な証言をするように班の仲間を脅す……聞くに耐えない悪魔のような方ですね」

「いや、俺仕事はちゃんとして……」



 あいつら、適当な嘘吹き込みやがったな。

 そりゃあ、こんだけ悪印象持ってるわけだ……とはならない。


 仮にも国家運営の組織の人間が、片方の話だけ聞いて判断してんじゃねぇよ。誰だよこの馬鹿女雇った奴は。



「〈呪術士〉などという怪しげな〝天職〟を持っている時点で不穏でしたが、まさか自分は何もせずに仲間の努力を横取りするような輩だったなんて……恥を知りなさい」

「……あの、俺の〝天職〟は〈呪術士〉じゃなくて〈呪ほ―――」

「《暁の旅団》の皆様の申告があってようやく明らかにできました。もう貴方に冒険者を名乗る資格はありません。当施設への入場も今後固く禁じさせていただきます」



 またこいつも話聞かねぇし……俺の話をまともに聞く奴は誰もいないのか、この国には。


 というか、そういう事なのね?

 なるほどなるほど……この女、あの宗教にどっぷり嵌った信者、あるいは協会に関わってる人間なんだな。


 こいつにとっちゃ、俺が悪事を働いていようがいまいが、赤の他人に唆されてようが関係ない。

 教会の教え通り、悪しき〝異能〟の持ち主である俺を自分の職場から遠ざけたい。なんの関係もない赤の他人であっても構わず、自分の勝手な基準で排除しようしているのだ。


 ……ぶっちゃけ、この馬鹿に付き合う必要はない。

 こいつの発言は普通に罪だし、俺がここで他の職員に話しかければこいつは外してもらえる。いまも事務所の奥でひそひそやってる奴がいるし。



「……ん、まぁ、わかった。証明証を返して出ていきゃいいんだな?」



 だが俺は、言われた通りに出て行く事にした。


 ()()も破棄されて冒険者を続ける理由はないし、序列とか上下関係も面倒臭かったし、抜ける良い機会だわ。

 新人ちゃん見たら、無表情ながら鬱陶しそうにこっち見てるし……泣くよ、流石の俺も。



「別に文句を言いたいわけじゃないんだけどさ、一方の主張だけで判断するのは如何なものかと思うよ? そっちが虚偽の報告をしてるって場合もあるんだからさ」

「お引き取りを」

「あと、あんた〈呪術士〉なんて怪しい〝天職〟だ~とか言ってたけど、そういう〝天職〟差別はやめておいた方がいいぞ。人にやられて嫌な事は自分もしちゃ駄目ってよく言うだろ」

「……お引き取りを」

「あと、俺の〝天職〟間違ったままだから早く覚え直して―――」

「さっさと出て行ってください!」



 うわ、ついに吠えやがったこの女。

 仕事適当にやりすぎだろ、そこらの連中の視線集めてるし……本当に試験通って受付嬢なったの? 縁故採用じゃないの?


 苛つきはしたけど……もう言い返す気にもなれなかった。

 もう駄目だわこの組合、長くはねぇな。



「あ~あ、やってらんねぇや……帰ろ」



 関わるのも嫌だわ、こんな所。


 どうせあの女もそのうちくびになるだろ。

 どう考えても役所通してないし……事実調査もしないまま個人を追い出すような馬鹿、国がそのままにするわけねぇし。





 何より―――俺の定めた()()を一方的に破棄した奴が、只で済むわけねぇしな。



     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



(……やってやりました)



 去っていく〈呪術士〉の男の背中を見送り、消えたのを確認してから、女―――冒険者組合依頼斡旋窓口の新人受付嬢であるエリカ・マクガレンは小さくほくそ笑んだ。



(あの不気味な男が消えてくれました。神に仇なす穢らわしい〝異能〟持ちの男を追い出せたのです。ああ…! 神よ、あなたの加護に感謝します……)



 ラグナ・エヴァンス。

〈呪術士〉という不気味な〝天職〟を授かり、何の貢献もせぬまま一年もの間組合に居座り続けた厄介者。

 組んでいる班の面々とも不仲で、機会さえあればいつでも追い出したいと全員が愚痴をこぼすほどに嫌われている男。


〝天職〟が役立たずなのかどうかは知らないが、仲間のために尽力する事もなく、ただそこに突っ立っているだけの邪魔者だという噂を何度も耳にし、冒険者や組合の職員達の一部でも毛嫌いされていた。


 エリカも例に違う事なく、顔を見る前からその男を嫌悪し、一方的に憎んでいた。

 何か問題を起こし次第絶対に追い出してやる、と心に決めていたのだ。



 そして今日、エリカはついに行動を起こした。

 普段例の男の担当をしている先輩受付嬢が不在であるのをいい事に、自分が代わりを買って出て通告してみせたのである。それも、周到に用意をして。


 本来の短刀が不在の日を調べ、代わりの担当が誰になるのかを調べ、その代わりも誰になるのかも調べ。

 グナがいつ来るのかを計算し、担当する者が誰もいなくなるように調節―――具体的には少し手を加えた差し入れをしたり、嘘の情報を与えて席を外させたり。


 他の冒険者達の迷惑にならないよう知恵を絞り、努力に努力を重ねてついに計画を成就させたのである。



(もっと渋るものだと思っていましたが、思いの外あっさり引き下がりましたね。まぁその方が好都合ですが……気が変わって戻ってくる前に上層部に向けた報告書でも作成しておきましょうか。あの男が二度と戻ってこれないようにしておきましょう)



 自分の主観と印象を書き留めた報告書を提出しておけば、組合上層部もあの男に対する悪印象を持ってくれるだろう。

 後からあの男が文句を言ってきても、相手にされないくらい罪状に塗れた状態にしてやればいい。元班の仲間から聞いた話に加えて、自分が多少脚色すれば問題はない。



(ふふふ…! ありがとうございます、エヴァンスさん。あなたのおかげで私は少し幸せになれます。あなたがいなくて気分は爽快。組合は厄介者がいなくなって私に感謝をする。そして上層部の覚えも良くなる……少し訂正しましょう。私は今とても幸せな気分です)



 そして自分は悪党を排除した優秀な職員として記憶され、昇進が約束されるに違いない。頭の固い現組合長も左遷させられるかもしれない。


 普段から口うるさく、何かにつけて小言をぶつけてくる禿頭の上司への悪態を内心でこぼしつつ、エリカはふっと笑みを滲ませる。

 心なしか、周りの職員達も自分に感謝の視線を送ってきている気がする。それもそうだ、組合の敵を排除した英雄にも等しき人間になったのだから。


 ……感謝の念ではなく、戸惑い。何事か、と訝しんでいる視線である事に、彼女は気付いていなかった。



(こんな事なら、もっと重い罪をかぶせてもよかったかもしれませんね。そうすれば死罪になって、二度と顔を見る事もなくなったかもしれませんし……いえ、今からでもそうしましょうか? 後から発覚したことにすればいいのですしね)



 本人がいない今、好き勝手に考えるエリカ。

 涼しい顔で他者を貶める策略を巡らせる彼女の元に、不意に大きな人影が近づいてきた。



「―――おう、何だ? 妙に騒ついているが、何かあったのか?」



 のしのしと巨体を揺らし、やって来た焼けた肌に禿頭の男。

 冒険者組合の長を務める、元凄腕の冒険者ガゼフ・ロンギスが、周囲で何やら困惑した様子の部下達を見やって片眉をあげる。


 彼の登場に、職員達ははっと表情を引き締め、慌てて態度を正した。



「今日は確か……エヴァンスの奴が毎度報告にくる曜日だろ。今日はまだなのか? 今日はエリーゼがいないから来てないのかもしれんが……ロイはどこだ? 代わりの担当はあいつだろ?」



 辺りを見渡し、部下達に命じる組合長ガゼル。

 だが尋ねても誰も答えようとはせず、おろおろしながら様子を伺うように横目を向けてくるばかり。



「…その、ロイ先輩はお腹が痛いと」

「あ? そうなのか? じゃあ誰が担当したんだ? 担当できる奴がいないんなら俺を呼べっつっただろ」

「く、組長は忙しいから、自分がやると……エリカさんが」

「は? エリカって……新人のあいつか?」



 訝しげに首をかしげる大嫌いな上司に、痺れを切らしたエリカが溜息混じりに口を開いた。



「……あの方は除籍処分にいたしました。規則を破ってしまわれたので、冒険者証明書を剥奪し退会していただきました。今報告書を作成している所です」

「……は?」



 ガゼフの疑問の声に、エリカは丁度いいとばかりに椅子を回して振り向き、ささやかな胸を張って上司に向き合う。

 ぽかんと呆けるガゼフの顔を小馬鹿にするように、腕と足を組む。上司にすべきではない態度で、見下すような口調で続きを話す。



「《暁の旅団》の皆さんから陳情がありまして……それに穢らわしい〝異能〟持ちの男なんて誰だって視界に入れておきたくありませんし。あとはこちらで適当に書類を作って後処理をしておけばよろしいでしょう」



 変化に乏しい表情の中には、状況をまだ飲み込めていない様子のガゼフへの嘲笑が表れていた。

 頭の足りなさを見せつけた彼を嘲笑い、お前にできなかったことをやってやったぞという優越感をこれでもかと視線に込め、鼻を鳴らしながらつい数分前に起こった事を語って聞かせた。



(馬鹿な男です。現場主義だか何だか知りませんけど、脳まで筋肉でできてるような方にしくられるのはもううんざりしていたんです。ついでにこの方にも消えていただきましょうか。〝天職〟にも恵まれないどうしようもない方ですし……)

「……あの方は組合に害しかもたらさない方ですから、今回〈暁の旅団〉の方々から上がった陳情を理由に出て行ってもらいました。前々から組合でも悪い噂になっている方ですし、自業自得で―――」



 肩を揺らし、喜びと嗜虐心を露わにしてエリカは嗤う。

 これで私は認められ、何もしなかったお前は見捨てられて追い出されるぞ、とそんな想像をして。



 だが、鼻高々に話すエリカは気づかなかった。

 話を聞いたガゼフの表情が―――唖然としたものから徐々に怒りに満ちた鬼の顔に変貌していった事に。



「この―――屑がぁ!!!」



 次の瞬間、どかん!と凄まじい轟音が鳴り響き、エリカの視界に無数の火花が散る。

 突如襲ってきた衝撃により、エリカの華奢な体は軽く吹き飛び、背後の棚に背中から叩きつけられる羽目になる。



「おまっ……お前ぇ!! 何ふざけた真似してやがる!! 除籍だと!? 馬鹿かお前はぁ!!」

「…!?」



 エリカは困惑し、目を白黒させながら、自分を見下ろす禿頭の鬼を凝視し、瞬きを繰り返す。


 強面だが、滅多に声を荒げることのない組合長ガゼフが、凄まじい剣幕で部下を怒鳴りつけている。

 それどころか、明らかな禁忌である女性に対し拳を振るい、つばを吐き散らして暴言を吐いている。


 他の職員達は、温和な上司の見た事のない豹変に戸惑い、ぱくぱくと口を魚のように開閉するだけとなっていた。



「な、何を…!? あ、あの方は規則違反を犯したのです! 仲介料も支払わず、仲間の足を引っ張り続ける愚図! 追い出さなければ当組合の汚点に―――」

「うるせぇ、糞餓鬼!!」



 反論するエリカの頬に、再びガゼルの拳が飛ぶ。

 再度壁に叩きつけられ、地面に落ちて強く咳き込む彼女を案じて他の職員達が近付くが、どうすればいいのかとおろおろ戸惑うだけで役に立たない。


 ガゼフは倒れた部下には目もくれず、髪を失った頭をがりがりと掻いて焦りを見せつけた。



「お前らぁ! この場にいて何で誰も止めなかった! 最重要事項だぞ!!」

「い、いえあの……先輩方が全員で払っていて、我々はまだ受付業務について教えて貰ってなくて、どうしようって思ってたらエリカさんが『自分に任せろ』って……」

「……! こいつ、まさかここまで計算済みで……!?」



 見渡してみて、経験を積んだ先輩衆の姿が見えない事に気付く。

 本来ならば、あり得ない。必ず誰か経験者がこの場にいて、新人達の模範となっていなければおかしい。


 必要な知識を習得するまで雑用に従事させ、最重要事項を教授しないようにしていた事が仇となった―――ガゼフは大きな後悔に苛まれた。



「間に合うか!? まだこの街にいるよな!? どこにいるか今すぐに特定しろ!!」

「は…? そ、そう言われましても……」

「やれ! 今すぐに! できないなんて聞きたかねぇ!!」



 困惑したままの部下達に命じ、組合の外に走らせてから、ガゼフはその場を頭を抱えながら行ったり来たりする。

 怒りを持て余し、獣のような唸り声を漏らしていた彼は、しばらくすると再びエリカを睨みつけ、歯を食い縛って怒号を発した。



「あの男がどれだけ重要な能力を持っているか、知らんとは言わせんぞ!! 追い出さなければ組合の汚点になる? 逆だ!! あいつが居なきゃどれだけの損害が出ると思ってんだ!!」

「……! 何を馬鹿な事を……〈呪術師〉などという汚らわしい〝異能〟持ち、どうして受け入れなければならないのですか!? あれはこの世の害悪! 排除すべき悪の化身なのですよ!?」



 エリカは自身が叱られている理由がまるでわからず、猛然と抗議の声をあげる。

 自分の昇進が第一の目的である事は確かだが、それは結果的に組合の益になる事であり、感謝されこそすれ、怒鳴られる謂れなどないはずだった。


 そんなエリカの反論に、ガゼフは顔をくしゃくしゃに歪めると、本気で頭が痛そうに嘆きをあらわにした。



「……お前みたいな馬鹿をどうして雇っちまったんだ」

「なっ…! 言わせておけば! 〝天職〟も持たない平民が偉そうに! 私を誰だと思っているのですか!!」



 頭に血が昇ったエリカは、明らかに自分を見下している上司に感情のままに言葉を吐き散らす。

 もはや自分が何を言っているのかもわからないほどに怒り狂った彼女は、神に愛されなかった者に対する侮蔑の視線を向け。



 直後、再び振るわれた上司の拳により、今度は顔面を凹まされながら勢いよく倒れ込んだのだった。




「屑だろうがよ……!!!」




 肩で息をし、目を血走らせてガゼフは目の前の女を……鼻血を吹いて気を失っている図に乗った愚者を見下ろす。


 能力は高かった、少なくとも今後の組合の運営に必要な人間ではあった。

 上昇志向、というか立場に対する欲が強い傾向にはあったが、それを有効活用すれば十分な戦力になると踏んでいた。


 自分を嫌っている事をわかっていたし、先輩の受付嬢達を目の敵にして、いつか蹴落としてやると目で語っていたのにも気付いていた。

 有能な冒険者や上司に媚びを売る態度から同僚達に嫌われていたが、業務自体に問題はない。力のある者を()()()能力に関しては高い評価を下し、認めていた。


 舵取りさえすれば、大きく役に立つ駒になると考えていた。


 だが、蓋を開けてみればこれだ。

 高い能力を全て嫌いな人間を排除する事に使用し、己の欲のみを優先させる愚者。それがこの女だった。


 遅すぎた、最も重要な情報について教えるのが。

 測りかねた、己の欲を叶えるためにどこまで狂った行動を起こすか。



 沈黙し、ぴくぴくと痙攣するだけとなったエリカにぺっと唾を吐きかけてから、ガゼフは周りで怯えている別の部下達に振り向いた。



「おい!! 俺はこれからラグナを捜しに出る!! お前らはその糞餓鬼を縛ってどこかに捨てて来い!! 二度とうちの敷居を跨がせないよう痛めつけておけ!!」

「は……はい!!」



 言うが早いか、ガゼフは巨体に似合わぬ俊敏さで組合を飛び出し、走っていった。


 すれ違う通行人たちがぎょっと慄くほどに恐ろしい形相で街を睥睨し、しかし内心は必死に祈りながら、馬鹿な部下の勝手な思惑で追い出された男を探し続けていた。



「頼む……頼むよラグナ様よぉ…! お願いだからこの町を……この国を捨てるとか考えないでおくれよ…! あんたを怒らせたとあっちゃ、うちは終わりだ……全てがうちの、この国の敵になっちまう!!」



 脳裏に浮かぶ、最低最悪の未来。

 それを決して現実にしてなるものかと、ガゼフは歯茎から血が滲むほどに歯を食い縛り、街の中を駆け抜けていった。









 ―――この町を、国を、世界を、彼が呪わない事だけを請いながら。



()()()()()()()()ような男を、誰がブチ切れさせたいってんだよ、くそったれがぁ!!!」

2023/1/10 新人受付嬢エリカの狂気度合いを強化してみました。

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