心配事
あの後、私は社に舞い戻った。宮司が毎日掃除をし、大切にしてくれている社。お陰様で私も落ちぶれる事無く人に加護を与える事が出来ている。
数羽の鴉が帰りを歓迎するように集まって来る。それに目を細め、首を指で撫でた。気持ちよさそうに目を細めるのを見て私も暖かくなる。
さてと.......。あの霊力の強い子は無事に過ごせているだろうか.......。また禍を引き寄せて苦しんではいないだろうか。そう思って、月を見上げた。出来ればこの気持ちが、あの娘を喰らいたいという下心から来たものでないと信じたい。でも、私は.......。
翌日、私の事が見える神職の者に、相談してみる事にした。彼は参道の石畳を箒で掃き掃除していた。ヒラヒラと落ちてきた落ち葉を一箇所に集め、ちりとりに乗せている時だ。木の上から急降下し、先ずはお辞儀。それに気が付いた彼もにっこりと笑って深々とお辞儀をした。
「相談があるのですが」
「はい。どうなさいましたか? 崇島様」
彼は持っていた、ちりとりを一瞥すると苦笑いを浮かべた。捨ててからでも良いです? と顔に書いてある。配慮が足りなかったな。私は黙って頷いた。
「さてと、では改めまして。おはようございます。本日はどうなさったのです?」
「実は昨日、巡回していたら霊力のある子が禍に取り憑かれていたのです。とりあえず団扇で祓いましたが、どうにも心配で」
彼は大木に箒を立て掛けた後、私を自室に案内した。畳とちゃぶ台があるだけの質素な部屋。でもなんだか落ち着く。暖かい空気がそうさせているだろう。
ちゃぶ台の上に乗った饅頭を差し出しながら、お茶を入れる。
優しい人の葛藤って、自分の為じゃなくて人の為の事が多いですよね。
もっと自分の為に生きても良いと思います。