羽音
そんなある日、私は下校途中にあの激しい耳鳴りと頭痛に見舞われた。立っていられない。その場に座り込んで、頭蓋を押さえ付けるようにして蹲る。周りに住宅が軒を連ねているとはいえ、此処は人通りの少ない道。もう夕暮れでの女の一人歩きは危ないと言われる時刻だった。
早く帰らねば。そう思えば思うほど、耳鳴りも頭痛も酷くなった。頭が割れるように痛い。意識が霞んでいく。
.......どうやら気絶していたらしい。あれからどれくらい経ったか分からない。けれど突然誰かに抱えられるように体を持ち上げられた。丁度横抱きにされるように。怖くなって声を上げようとしたが、声が出ない。金縛りあったように、体を動かす事さえ出来ない。ただしんしんと恐怖だけが体を覆う。
不安に思いながらも目を開ける事が出来ない。目が合ったら殺されるかもしれない。乱暴に落とされるかもしれない。血の気が引く。どうするのが正解なの?
「ごめんなさい。今暫くご辛抱なさって下さい」
品のある声。案じるような言葉は自然と体の緊張を解きほぐしてくれた。相手が何者か分からない以上、警戒心を解くべきでは無いのかも知れない。でもどうする事も出来ない。
――バサリっ。
不意に羽音のようなものが聞こえた。まるで大きな鳥が翼を広げたように。私を抱える人の腕に力が入るのが分かった。落とさないように、自分の胸に引き寄せているようだ。その仕草に不覚にも安心してしまう。母が子にするような優しさが伝わってくる。
「もう、大丈夫」
そう言って冷たい床の上に転がされる。それと同時に金縛りから解放された。目を開く。辺りを確認した。そこは自宅の前。倒れていた道端じゃない。紛うこと無く私の帰るべき場所。この不可解な現象に唖然としながら立ち竦む事しか出来ない。気が付くと耳鳴りも頭痛もなりを潜めていた。
タイトル変更するかも知れません。
この抱えた方の視点は、また後日になります。