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奇行()の動機

タイトル回収

そしてプロローグの終わり


―――――――――――――――


気づくと暗闇の中に立っていた。

こちら側に来る前のあの白い箱のような空間とは異なり、一寸先すら見通すことのできない暗闇が広がっていた。また、変わった点としては、ちょうど私が核をねじ込んだあたりの胸部が大きくえぐれており、その中心にぼんやりと白い光の玉が浮かんでいることだろう。


「どこだここ。もしかしてここが本当の死後の世界か?となるとわたしは失敗してしまったのか?」


だとするとわたしの見立てが甘かったのだろうか。あの管理者から聞いた情報とダンジョンの核についての説明からは行けると思ったんだが。


<なぜあのような危険な真似をしたのですか?>


しばらくしないうちにそのような声がどこかから聞こえてきた。それはまるで合成音声のように歪に平坦な声であり、かろうじて女性の声ということだけはわかった。その声は自分のはるか上のほうから響いてくるようであり、しかし自分のすぐそばから聞こえてくるようでもあった。


「その声は、もしかしてあの管理者か?」


<その通りです。なぜあなたはあのような自殺まがいのことを?>


「いや、自殺するつもりはなかったとも。それよりわたしがここにいるということはわたしは失敗して死んでしまったのか?」


<ここはいわば夢の中のようなものです。あなたにとっては幸いにもこのままいけばあなたはじきに目を覚ますでしょう。そしてあなたの試みもとりあえずはあなたの思うとおりに成功することでしょう。>


<しかしあなたの試みが問題なのです。私があなたを転移させた理由は覚えていますよね?>


「『人類の敵になってくれ』だろう?もちろん覚えているとも。」


<そうです。しかし私は人類を滅ぼそうとまでは考えていません。>


<ダンジョンの核の移動を不可能にし、また人類を殺さなければ核の機能が停止するよう設定したのは、ひとえにダンジョンマスターによるやりすぎを防ぐためにほかなりません。>


<しかし現在のあなたはその制約から逃れようとしています。ともすればあなたは私の世界の人類を絶滅させかねない。私はそれを危惧しているのです。>


「おいおい、わたしがそんなことを本当にすると思うのか?わたしの人となりやわたしがあれに挑戦した動機を分かっているものと思ったのだが。

そもそもわたしは快楽殺人者シリアルキラーではないし、大虐殺をするつもりなんて微塵もない。もともと人殺しが正当化される戦争とは縁遠い日本の生まれだったし。それによく言うだろう?『自分がやられて嫌なことは人にやってはいけません』と。他人よりも苦しい思いをしたわたしは他人を苦しめるつもりはない。

もっとも、人類の敵として必要に駆られて人を殺すことはこれからはあるだろうが。」


<ええ。ですが転移を経験して突然人格が変わってしまったという事例も少なからずありますので。>


高校デビューならぬ異世界デビューでやらかすとかか?ないない。そう思いわたしは首を振った。


<いいでしょう。暫定的ではありますが問題はないと判断します。>


「わたしのほかにわたしのようにした者はいなかったのか?先駆者の一人くらいいてもおかしくはないと思ったのだが。」


<少なくとも私の知る限りあなたの行ったような蛮行に及んだ者は他におりません。>


<では明るい道に沿って歩いてください。じきに目を覚ますでしょう。>

そう聞こえるのと同時に自分の前方に一本の道が照らされた。


「ちなみに暫定的に問題なしとのことだが、のちに問題ありと判断された場合にはどうなるんだ?」


<私はあくまで管理者であり、積極的に個人に働きかけることはできません。ですが()が働きかけをしないことはできます。>


うん?よくわからない言い回しだ。


「つまり天罰とかは下せないと?」


<そうなります。>


うーん、どこか引っかかるところはあるが。大量虐殺者にならない限りわたしには関係ないだろう。


気にしても仕方がないので、管理者の声に従ってわたしは白い道を歩いて行った。


<では、くれぐれもよろしくお願いします。>

という声が聞こえると同時に、私の意識は白い光の中に溶けていった。


―――――――――――――――


無事に覚醒。

わたしは成功した!

まああの管理者から伝えられていたことから驚きはそれほどないが。


予想通り、裸の上半身やズボンに少なくない出血の痕跡があるものの、わたしが手術によりつけた傷は完全にふさがり、傷跡がうっすらと残る程度になっていた。強いて言えば右胸に核が存在する影響で少し肺が圧迫され息苦しい感じこそあるもののそのうち慣れるだろう。


見渡すと気を失う前までわたしがいたダンジョンの最奥の小部屋は跡形もなく消え去り、加えて9部屋ほどの面積のあったわたしのダンジョンも消滅してしまったようで、わたしを中心にしてアイスクリームをすくう専用のスプーンみたいな道具(アイスクリームディッシャーというらしい。後で調べて分かった。)で地面を削り取ったかのように直径3メートルほどの半球状のくぼ地が出来上がっていた。


そんな中で、ダンジョンとは別の物として扱われたのか、幸いにもスマホとヘッドホンはダンジョンに巻き込まれて消滅することなく私の手元に落ちていた。スマホの時刻を確認してみると手術から丸一日が経過していたようだ。


さて、わたしが今回の手術で何をしたかったかというと、私自身の身体をダンジョンに改造することである。


その動機はいくつかあるが、大きなものとしては2つが挙げられる。


何よりもまず自分の生命線となるダンジョンの核が最奥から動かすことができないというのは恐ろしいことだと感じたのが一つ。

これが例の「名前を言ってはいけないあの人」の用いた分霊箱の魔法のように自らの生命のバックアップとなるものを複数個分散して保管することができるならまだしも、核が一つしかない以上は某カ○ブの海賊の化け蛸船長のようにダンジョンを攻略した人類に核を質に取られて人類の奴隷となってしまうという末路は否定できないだろう。

この世界での命の価値の程度はまだ知らないが、最悪の場合権力者がダンジョンマスターを奴隷化して領民をダンジョン内で殺し宝物を生成させるということも考えられる。それは避けたい。


そしてこれはわたしの願望になるが、第二の生をダンジョンの中で縛られたままというのは我慢できないと感じたからだ。

端的に言えばわたしは今世を謳歌したいのだ。

具体例を挙げればきりはないが、せっかく病気を持たない健康な体を得ることができたのに、ダンジョンの最奥に引きこもったままというのは至極つまらないではないか。

管理者の説明では核を最奥から動かすことができないという話だったが、ダンジョンマスターが最奥から離れることは可能のようだった。

もっとも、ダンジョンの整備は核を用いた手動であり、遠隔地から整備することができない点や、わたしが不在の間に核が破壊されてしまうリスクが存在する以上、わたしの行動はどうしても制限されてしまうだろう。それはわたしにとって受け入れがたいのだ。


そして私の手術だが、実際のところはどれほど危険な行為であったかはわからないが、勝算は十分にあったと考えている。

まずダンジョンの最奥から私の肉体の中という物理的に異なりより狭い空間に核が移動した以上、元のダンジョンが機能不全に陥ることは予想ができた。

そしてここからが賭けであったのだが、この後想定される展開としては2通りが考えられた。

一つは今のわたしのように核が無事に体内に存在するままであるもの。そしてもう一つが、わたしの肉体がその境界をあいまいにし生きながらダンジョンに溶けて同化してしまい意識のみが残るという発狂待ったなしのバッドエンドだ。


もっとも、後者の展開はないだろうと考えていた。

というのも、転生したこの体は見ての通り核を通じての再生が可能であり、聞いた話では致命傷ではない限り時間を掛ければ欠損すら修復されるという話だった。

ならば核が無事で肉体が致命傷を負わない限り肉体は修復・維持され、上記のバッドエンドにはならないだろうというのが一つ。

あとはダンジョンの核がわたしの思念によって操作されるものである以上、いくら機械的な画面表示・操作システムであったとしてもわたしの願望が無意識のうちに出会っても反映されないことはないだろうというのが一つである。


などと考察してみたが、実際のところなぜ成功したのかは神ならぬ管理者の視点に立たないわたしにはわからない。自分でこの手術を2度以上経験するわけでもなし、要は成功したという結果のみが重要である。



おっといけない。わたしが手術で気絶する直前からスマホに届いたアラートがあるのだった。

確認するとそれは「核が最奥から持ち出されました。ダンジョンの新規立ち上げをしてください。残り時間 47:10」というものだった。

加えてNから「深刻なエラーが発生したため緊急パッチを当てました。ダンジョンマスターの思念のみをキーとする核の操作を可能にしました。また一部UIの表示方法を変更しました。」というメッセージが入っていた。


あー。うん。そりゃ管理者の想定していない使い方をしたのだもの。エラーの一つくらい起こって当然か。ましてや人体に埋め込んだ以上従前のプロジェクターみたいな画面表示や核を握っての起動などできるわけもなし。反省こそしないが少しばかり申し訳なく思わなくもない。


気を取り直して自分の右胸にある核に意識を向けてみる。すると両目の視界に「新規ダンジョンを立ち上げますか? はい/いいえ」という文字が映り込んだ。

当然「はい」を選ぶ。

するとわたしの口を入口とし核の隣接する肺を最奥とするなんともごく小規模なダンジョンができたとの表示がされた。その際身体に特に違和感も生じなかった。強いて変化を挙げるとすれば、手術の修復とダンジョンの新規立ち上げに使ったのか、BEの量が10ほど減ったことくらいだろうか。


ともあれ、こうしてわたしはダンジョンの地縛から逃れ、自らをダンジョンマスターにして生きるダンジョンとしたのであった。


ブックマーク・高評価ありがとうございます!

精進します。


次回は第一村人発見の予定です。

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