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「夢より現実」
ヒロに向けて言った言葉なのに、私の心にひっかかる。
ずっと諦めてきた人間が、何を偉そうに言っているんだろう。
私だって、現実しかみていないじゃないか。
カメラを手放す事でヒロが楽になるのなら、それくらい…。
結局、私はヒロからカメラを預かった。
『本日のおすすめコーヒー』の代金と引き換えに。
「じゃあね。ヒロ。またしばらく誘わないでね〜。」
用事の済んだ私は、店の前でヒロに手を振る。
「なんだよ、のんちゃん。たまにはそっちから連絡しろよ。ほっといたら何年も連絡しないつもりだろー。」
「だって用ないも〜ん。」
バイバイ、ヒロ。ヒロに背を向け歩き出す。
「のんちゃん。」
後ろから腕を掴まれた。
「俺はずっと友達だから。」
「…何言って…。」
「カメラ。のんちゃんだから預けたんだよ。」
「うん。」
「俺って意思が弱いから、いつか返してもらいに行くかもよ。」
「えぇ〜。」
「何かあったら連絡しろよ。俺もするから。」
ヒロは心配性だ。掴まれた腕が痛い。
「…ちゃんと連絡するから。」
「よし。約束だからな。」
見上げたヒロは笑顔だった。
子供の頃と同じように。
何か見透かされているようで気分が悪い。
恨めしそうな顔でヒロに手を振った。
次に会う時は冬にしよう。
厚着でお腹をなんとかごまかせるかしら??
紙袋は意外にも、存在感のある重み。
「一眼なんて使い方知らないんだけど。」
文句を言いながらヒロの事を思った。
あいつはやっぱり面倒くさくて、お人好しだ。
紙袋を振り回しながら歩いた。
少し重たかったけど、足取りは軽かった。
「そうだ。小西さんのところに行こう。昨日のお礼をしなくちゃ。」
小西さんの店は夜しか営業していない。
夕方までなら暇だって言ってたし。
鼻歌まじりに歩き出した。
手土産は何にしようか考えながら。