表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/30

6

午後になり、私は出かけることにした。

幼馴染のヒロに呼び出されていたからだ。

佐藤くんと偶然にでも出会わないように、コーヒーの種類の豊富な店(コーラの置いていない)で待ち合わせ。

店に着いたとき、ヒロはもう着いてた。


「お待たせ」

「おう。待たされたぜ。」

ここの店はわずらわしいくらいコーヒーの種類が豊富で、それぞれに気恥ずかしい名前がついている。

そのせいで、私はいつも『本日のおすすめ』を選ぶ。

ヒロは何にしたのかと思ったら、ホイップされた生クリームがのってるアイスコーヒー。甘そうで参考にならない。

いつものように『本日のおすすめ』をオーダーした。


「のんちゃんに今日はプレゼントがあるんだぁ〜。」

ヒロは作ったような笑顔で紙袋を取り出した。

私は中身を確認すると、ヒロをじっと見つめた。


ヒロは唯一、昔から付き合いのある友人だ。

小学校の頃にメガネをかけ始め、いまじゃ流行りのメガネ男子。

協調性のない私に、家が近くだという理由だけでなぜか面倒をみてくれる。

ありがたいような面倒くさい存在だ。


「ヒロ。これは何の冗談?あんたの大事なカメラなんて私ぜんぜん欲しくないんだけど。」

紙袋の中身は見てすぐわかった。

ヒロがいつも持ってた一眼レフ。


「いつかちょうだいって言ってたじゃん。」

「それはあんたが大事にしてたから、わざと言ってたんだけど。」

「もういらないんだ。」

「新しいの買ったとか?でも、買ったらすぐポイって…。」

「…もういいんだ。」

「何で??」

「カメラはもうきっぱり諦める事にする。」


ヒロは目を細めて笑った。

何か言おうとした時、ウェイトレスが『本日のおすすめ』コーヒーを持ってきた。

タイミングが良いんだか悪いんだか。


ヒロの言葉に納得のいかない私は、ひたすらコーヒーをスプーンでぐるぐるかき混ぜた。

砂糖もミルクも入れないから混ぜなくていいんだけど、猫舌だし。

…なんか苛々する。


「…カメラってね。趣味のうちはいいけど、結局食べていけないんだよ。」

「…。」

「俺、今の彼女とつきあい長くてさぁ。」

「…。」

「結婚とか…考えてて。彼女は普通に就職して欲しいみたいだし。」


夢より現実。


「わかった。ヒロはカメラやっていく自信がないんだね。夢より現実見る方が楽だもんね。」

たっぷりとした大きさのカップを持ち上げ、『本日のおすすめ』を飲む。

久しぶりに飲んだ濃い目の味。

今は味わう余裕はないけれど。


「のんちゃんは最近どうなの?」

「別に。」

妊娠してるけど、言わない。

「あ、あの彼氏は?優しそうな顔の。」

「…別れた。」

「何で??すごくいい感じの奴だったのに。」


「…のんちゃん。」

やばい。

ヒロの声のトーンが変わった。

怒ってるようなあきれているような…。


「のんちゃん。いいかげん、あの事忘れなよ。そんなんじゃ、いつまでたっても…。」


腕組みをしたまま、ヒロがこっちを睨んでいる。


忘れるわけがないし、忘れられるわけがない。

『あの事』が、なかった事にはならないように。


『あの事』で私の人生は変わった。

友達もなにもかもその時リセットした。

ヒロはお人良し過ぎるから…。

ただ見捨てる事ができないから友達でいるだけだ。


みんな私から去っていく。


面倒な事は思いをするのは、もう嫌だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ