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翌朝。
カーテンの隙間から射す日差しが心地よくて、窓を開けた。
ふうわり、ふわり。
秋風がカーテンを揺らす。
涼しげな風がすっぴんの肌を撫で、私の長過ぎる髪を通り抜けた。
「気持ちい〜っ。」
思いっきり腕を伸ばし、大きく背伸びをする。
昨日は小西さんのお店から帰って、夜を待たずにそのまま寝てしまった。
長い睡眠時間のおかげで、心身ともにスッキリしたようだ。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
マグカップに半分注ぎ、やかんにも注ぐ。
最近どうも、体が水道水を受け付けない。
やかんを火にかけ、マグカップのミネラルウォーターをゆっくり飲む。
カラになったマグカップにインスタントコーヒーをいれ、やかんのお湯を注ぐ。
『コーヒーは妊婦に良くない』
そんな話を以前どこかで聞いたような気がして、大好きなコーヒーは薄め。
猫舌だからお湯も完全には沸騰させない。
ベッド、小さなローテーブル、奥行きのじゃまな古いテレビ。
一人暮らしの小さな部屋には必要なものしか置いていない。
『いるものといらないもの。』
その区別ができれば、お金も物もたいして必要ないのかもしれない。
洋服だって、本当に自分に似合うものはそんなにたくさんは無いのだから。
コーヒーをひとくち飲み、マグカップをテーブルに置いた。
「パンも食べようかなぁ」
冷蔵庫の横には白いカラーボックスに扉を付け改造したボックスが置いてあり、『食』に関係のあるものは全てそこにいれてある。
私はそこからクロワッサンを取り出し、冷蔵庫からバターを取り出す。
あらかじめ薄くカットしておいたバターを、クロワッサンに挟む。
「絶対カロリーオーバーだよね。」
カサカサとしたクロワッサン。
冷たくて少し硬いバター。
私はバターが好きだ。
本当はチーズみたいに食べてみたいけれど、それをやってしまうのは何だかタブーな気がする。
だからしょうがなくパンと一緒に食べる。
割り合いは一般的ではないけれど。
ベッドを背もたれに、テーブルの前に座る。
ぬるくて薄いコーヒー。
しっかりとバターの挟まれたクロワッサン。
風は、相変わらず窓から吹き込みふうわりとカーテンが揺れていた。
ふと、伸ばした手。
指先に何かが触れた。
バッグ。
昨日、帰ってから手付かずのまま。
電源を切ったままの携帯が眠っている。
多分、佐藤くんからの着信とメール。
見たくないけど、気になる。
バッグから取り出す。
電源の切れた携帯はいつもより存在感を増している。
PWRのボタンを長めに押す。
急に色を取り戻す画面。
『HELLO』
私は我が目を疑った。
着信どころか、メールすら届いていなかった。