表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/30

23

もう、全く意味がわからない。

小西さんが、当たり前のようにさらりと言った一言。

そんなの、忘れるとか言うレベルの話じゃないでしょ?


いったい、この人は…。


「うちの店さぁ。小さいけど、結構お客さんついているんだよ。この辺りの店の中じゃおしゃれな方だし?」

「…そんなの知らない。」


佐藤くんがこの店に来たなんて…。

その後、私が来た時には何も言わなかったじゃない。

この人。

知ってて隠してたんじゃ…。


「佐藤くんもヒロみたいに、ここに来てたの??ていうか、私と初めて会った日、何で佐藤くんここに来たの?小西さん、なんで何も教えてくれなかったの!!」


恨めしそうに、小西さんを見上げる。

もしかしてこの人は、最初から??

見ず知らずの私に親切だったのは何か理由があったから??


「のんちゃん。佐藤くんはね、お客じゃないよ。高校生の頃から、ずっとここにバイトで来てもらってるんだ。のんちゃんと初めて会った日…。」


「何??」


「のんちゃんをここに連れて来たのは、佐藤くんなんだ。」


知らなかった…。

私、何にもしらなかった。

佐藤くんのバイトの事。

あの日倒れた私を、佐藤くんが運んでくれていたことも。


「佐藤くんは色々、複雑だから。のんちゃんをこの店に運んで、そのまま帰って行ったよ。僕にくれぐれもよろしくって。」


甘くて鈍感で、優しい。

それが佐藤くんだと思ってた。

あの日だって、ぼんやり店に取り残されてるとばかり…。


「のんちゃん。僕は高校生の頃から佐藤くんを知ってる。でも、佐藤くんの秘密は僕からは言えない。人は見かけによらないんだよ。きみが佐藤くんに何も言わなかったように、佐藤くんにも人に知られたくない事があるんじゃないかな?」


優しい低い声。

小西さんの声はやっぱり落ち着く。


「大切な人が去っていくのを引き止めたくても、引き止められない理由があるんじゃないかな?」


佐藤くんの秘密。

佐藤くんの理由。


何も知らなかった私。

何も話し合わなかった私。


私には円満な家庭のお坊ちゃんに見えた佐藤くん。

小西さんには複雑に見える佐藤くん。


私は何を今まで見ていたんだろう。

佐藤くんはいつも笑顔で少しだけ困った顔をしていた。

複雑な顔は見たことが無い。


もしかして、佐藤くんは…。


「小西さん!私、佐藤くんときちんと話そうと思います。」


何だか、元気が出てきた。

小西さんは笑顔だった。

私も笑顔で答えた。


「これから、佐藤くんに会いに行きます。」


立ち上がり、バッグから携帯を取り出す。


「のんちゃん!」

「…何?」


「直接、佐藤くんの家に行った方がいいよ。いや。連絡しないで直接行って。あいつ今日家にいるはずだから。」

「…小西さん。何か企んでない?ここ数日、小西さんの手のひらで遊ばれていたような気が…。」


「ははっ。」


小西さんは質問には答えなかった。

入り口に向かい、重いお店の扉を開けてくれた。


「のんちゃん、僕は誰にでも親切なわけじゃないよ。佐藤くんは本当に良い奴だよ。」

ぽんぽんと頭をなでられた。


「ありがとう。小西さん。」

そう言って店を出ようとした。


小西さんは笑顔で見送ってくれた。

「佐藤くんがダメだったら、いつでもおいで。のんちゃんが幸せになるまで、プロポーズは有効だからね。」


そんな冗談を言いながら。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ