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小学校、中学校、高校。
姉さんと私はずっと一緒の学校に通っていた。
進学する度に『田村陽子の妹』として見られていた。
『キレイなお姉さん』
『平凡な妹』
そんな扱いには、慣れていた。
コンプレックスだったのかもしれないけど、そう感じるほど仲良くなかったのだから。
「姉さんが亡くなった時。私まだ高2だったの。」
姉さんは高校3年生。
私はまだ高校2年生。
「私、本当に知らなかったの。姉さんが精神安定剤とかいろんな薬を飲んでいた事を。父さんも母さんも、何も教えてくれなかったの。いつもそうだった。姉さんの話は自慢話ばかり。都合の悪い事があっても、私のいない所で処理されていたの。」
カリカリと錠剤を噛む音。
死ぬ前日もきっとあの音を立てながら、たくさんの薬を飲んだんだ。
「私は何も知らなかったのよ。」
小西さんは、ずっと黙って聞いていた。
「本当に何にも知らなかったの。」
高校3年生の女の子の突然死。
それは、狭い町の人々の好奇心を煽った。
挫折を知らない女の子が、失恋のショックで自殺しただけ。
私は、それくらいの事だと思っていた。
姉の死。
家族以外の人には何の関係も無いはずだ。
それなのに…。
「小西さん。私、女が嫌いなの。女はね、みんな女が嫌いなのよ。敵なの。潰せると思ったら手のひら返して潰しにやってくるんだから。」
姉は美人でモテた。
いつもちやほやされていた。
本人もそれが当然だと思っていた。
そんな女がねたまれないはずがない。
姉の死。
しかも原因は失恋。
女達はみな喜んだだろう。
死人にくちなし。
好き勝手に話を膨らませ、姉は悪者になった。
最後の彼氏だった男、須藤先輩。
この人も姉を悪者にした。
自分が非難されないように、姉の事をストーカーのように悪く言いだしたのだ。
もともと、須藤先輩は学校で1番人気があった。
姉はその事でも、恨まれていたんだ。
もう、姉の事をかばう人はいなかった。
同時に私の周りからも人がいなくなった。
最初の頃は、興味本位で話を聞きにくる子がいた。
私はそれを無視し続けた。
完全に外の世界を切り離し、ひとりで学園生活をおくった。
誰の顔も見ないように、目線を上に。
空ばかりを見ていた。
私は何もしていない。
だから絶対に、下を向いて歩かない。