18
『秘密』
自分のは知られたくないのに。
ひとの秘密はどうしてこんなに…。
小西さんはきっと私の秘密を知っている。
秘密を知った人はもっと知りたくなる。
興味本位。
好奇の目。
結局、私も同じなんだ。
秘密の2文字に惹かれてやってきた。
重い扉。
開く前に深呼吸。
カランカラン。
いつもの音が鳴る。
「いらっしゃい。」
笑顔の小西さん。
でも、今日は何かが違ってみえる。
Tシャツにストライプのシャツをはおった、ラフな服装。
私服の小西さん。
今日はテーブルに座っていた。
私は手招きに応じて、向かいの席に座った。
「何だか今日の小西さん。女の敵みたい。」
「なんだ?それ。」
「ちょっと優しくてカッコイイけど、二股とか何股かかけて平気みたいな?」
嘘ついても平気みたいな…。
「ははっ。のんちゃん言うね〜。でも、僕は二股どころか彼女もいないよ。それに嘘はつかないよ。今回の事は偶然。」
「だってヒロの事知ってたじゃん。」
「あれはこの店の常連だよ。深夜にやってきては愚痴をこぼしていく…。まぁ良い奴だよ。」
小西さんの手が伸びる。
「のんちゃんとヒロが幼馴染みで良かった。」
ポンポンと頭を撫でられた。
「…小西さん。ヒロから聞いてるよねぇ…。」
「ん?」
「だから…。」
「お姉さん。亡くなってたんだね。」
「うん…。」
「でもそれはお姉さんの人生で、のんちゃんはのんちゃんだよ。」
「でも…。」
深くため息をついた。
感情的になりたくはなかった。
「姉は、人の好意は当たり前だと思うような人だったの。」
色白で病気勝ち。
大きな目と通った鼻筋。
「機嫌が悪くなると熱を出したり、喘息の発作のふりしたり。両親はいつもかかりっきりで、私はいつもひとりで遊んでたの。」
夕方になっても誰も迎えに来なくて、家に帰ってもだれもいなくて。
ぼんやり空を眺めていた事もあった。
両親は発作をおこした姉さんの病院に行ってて、私のことを忘れていた。
「夕方は退屈しないの。空を見てたらどんどん景色が変わっていくから。」
綺麗な夕焼け。
忍び寄る暗闇。
「でも、友達もいたから寂しくなかったよ。カワイイお姉ちゃんでうらやましいって。」
「のんちゃんもカワイイじゃないか。」
「あの頃は、髪も短くて日焼けしてたの。健康的な子供ってかんじで。」
活発な明るい女の子だった、外では。
「姉妹の仲は悪くなかったの。だって家は一緒でも、生活は別々だったの。姉はいつも部屋にいたし、食事も太りたくないってほとんど食べてなかったの。食卓を囲む事もなくって、いつも母さんが食事とかお菓子とか運んでたもの。」
わがままなお姫様。
「姉さんはずっとキレイ、カワイイって言われてモテてたの。でも、誰とも付き合わなかった。結局、最初にできた彼氏が、最後の彼氏になっちゃったんだけど。」
姉さんは、あの男の何がそんなに好きだったんだろう?
『須藤先輩。』
姉を男にしたような美人な男。
2人が歩く姿は、人目を惹くほどだった。
薄桃色の唇、小さなほくろ。
あれはきっと悪い男のしるしだ。
「ふたりがどんな風につきあっていたのか、どんな風に別れたのか私は知らない。でも、姉さんにとっては初めての挫折だった。思い通りにはならなかったの。そこから姉さんは…。」
「おかしくなっていったの。」