16
初めて佐藤くんに会ったのは、大学1年の春だった。
まだ入学して間もない頃。
強引なサークルの勧誘にあっていた私を助けてくれたんだ。
「うちは遊ぶだけのサークルだし〜。」
「絶対たのしいって〜。」
同じ大学とは思えないほど、チャラい男。
趣味の悪いアクセサリーに、やたらアシンメトリーな髪型。
「結構です。私、興味がないから。」
そう言って、何度も逃げようとするのに腕を放してくれない。
「なんで〜。い〜じゃん。」
「あ〜!!あんな所でドラマの撮影してるー!!」
えっ。
チャラ男も、周囲にいた人も声のした方を振り返った。
私の腕も解放された。
「走って。」
小声で誰かが言う。
手を握られひっぱられた。
サラリとした手の感触。
大きな手が私の手を包み込む。
感触は悪くない。
気がつけば一緒に走っていた。
長い腕にひっぱられて。
大学の門をくぐり抜け走る。
彼はどこに行くのだろうか。
急に彼は立ち止まった。
「大丈夫?」
その時、やっと彼の顔が見れた。
いっぱい走った後なのに、笑顔だった。
風が吹く。
薄いピンクの花びら。
「あっ。」
見上げると満開の桜。
はらはらと、風にさらわれて行く。
無邪気な笑顔だった。
その時、きっと私は恋をしたんだ。
嘘みたいに綺麗なシチュエーションの中で。
佐藤くんの事が好きだ。
でも、一緒にはいられない。
妊娠した子供が佐藤くんの子供で良かった。
桜の思い出だけで、私には十分だ。