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「…どうしよう。」
ヒロの事、完全に頭に無かった。
夢とか現実とか言っておきながら…。
あのカメラがヒロにとって大事なものだって知ってるのに。
「あ〜。どうしよう。」
なくしただなんて言えない。
ヒロが知ったらどう思うかな?
今度こそ私から去っていくかも。
でも、そんな無責任は嫌だ。
ヒロがいなくなるのはかまわないけれど、人の大事な物をなくしたままにはできない。
そこは譲れない。
「どこまで持ってたっけ??」
冷静になって考えよう。
たしか小西さんの所から帰る時には、もうこの赤い紙袋しか持っていなかった。
では、小西さんの店?
それとも、その前に行ったお菓子屋さん?
そもそも、ヒロと別れた時は持ってたっけ??
「わっかんないな〜。」
歩きながら落とすほど、小さなものではない。
だとすると。
最初のコーヒー専門店か、焼き菓子を買ったお菓子屋か、小西さんのお店か。
コーラを買ったのは自動販売機だったから違う。
時計は7時を過ぎていた。
お店はまだ開いているだろうか?
「タウンページ!」
部屋の中を見回す。
確かたまにしか使わないから、ベッドの下に置いておいたはず。
ベッドの下を覗き込む。
国語辞典から、ほとんど使わなかった大学の教科書がうっすらホコリをかぶったまま置いてある。
その横に黄色い表紙。
「あったぁ!」
コーヒー専門店は10時まで。
お菓子屋さんは8時まで。
両方の番号をメモして携帯を取り出す。
お菓子屋さんの番号をプッシュする。
感じの良い店員さんが出たので事情を説明する。
「そうですか…。」
ハズレだった。
「コーヒー専門店は絶対ないだろうなぁ。」
ヒロと別れる時はあったような気がするし。
ダメモトで電話するも、見つからず…。
またタウンページをめくる。
「ビストロ KONISHI…。」
飲食店のページに小さく番号と住所が書いてあった。
タウンページにはお店の宣伝も載せれるのに。
「…がんばり続けないとつぶれちゃうって言ってたなぁ。」
小西さんのお店は、宣伝ばかりのページの中で本当に小さく感じた。
時刻は8時を過ぎていた。
「今、忙しいんじゃないかなぁ。」
電話するタイミングがわからない。
小西さんのお店の情報は、電話番号と住所だけ。
営業時間もわからない。
きっと今頃、小西さんは忙しく働いている。
結局この日は、電話をかけるタイミングが見つからなかった。