13
白いアパートは5階建て。
もちろんエレベーターはついていない。
全室ワンルーム。
みんな一人で暮らしている。
階段を3階まで上る。
手前から1号室、2号室。
私の部屋は突き当たりの5号室だ。
角部屋だから、他の部屋より窓が1つ多い(らしい)。
少しだけお得な部屋。
鍵を開け、中に入る。
すぐに鍵をかける。
もう安心だ。
最近どうも、体がキツイ。
小西さんのところでは、吐きそうになったし。
『つわり』の3文字が頭をよぎる。
「本当にひとりでがんばれるのかなぁ。」
ため息。
不安が無いと言えば嘘になる。
本当は不安でいっぱいだ。
育てる云々よりも、産むまでが特に。
調べたところでわからないのだ。
自分の体が、自分だけのものではないのだから。
眠気。
貧血。
吐き気。
そのどれもが自分の思い通りにならない。
我慢もできない。
「大丈夫!」
私は大丈夫。ひとりで大丈夫。
もう考えるのは止めよう。
暗くなってからの考え事はネガティブになるだけだ。
考え事は明日にしよう。
テレビをつける。
笑い声が部屋に響く。
急に部屋の中が活気づく。
くだらないバラエティ。
お約束のギャグ。
一緒に笑ってみる。
嘘でも笑ってればいいから。
テレビの中のタレントだって、そうしてる。
コーヒーでも飲もう。
キッチンに向かう。
赤い紙袋とコーラ。
「…。」
違和感。
「…!!」
やっぱりどうかしてる。
私は大変な忘れ物をしている。