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それから数十日か、下手したら一か月以上か、俺はこのボロ家を拠点に色々と学ぶことになった。
まず真っ先に教えられたのは、ロスベルグの能力についてだった。
こいつはどうやら
≪≪自分のイメージが具現化される≫≫
というとんでもない能力を持っており、それを聞いたとたん俺の頭の中には数えきれないほどの煩悩が広がっていた。
しかし、現実は思っていたほど甘くはない。
たとえば、剣や斧のような単純な鉄の塊みたいなものは簡単に作り出すことができる。
だが銃などの近代兵器は、中身の構造なんか知ったこっちゃないので形だけの張りぼてが出来上がってしまった。水鉄砲ですら無理だったのは自分でも情けないと思う。
思い切って俺の家をそのまま具現化しようとしたものの、あっという間に魔力が枯渇しその場で気絶してしまった。
もしかしたら扉とか家具とかを個別で具現化すれば耐えられるのかもしれない。魔力切れの不快感が脳裏に焼き付いているためしばらくはやりたくないが。
一番うれしかったのは、火や水などの自然物は問題なかった事。
それと、自分の体にも効果があったこと。
パンチ一発で木が倒れた時の爽快感ったらなかった。
「正確に言うとお前の木が倒れるイメージが具現化されただけで、身体能力が向上したわけではない」
「あ、そうなの。確かに筋肉の構造なんてよく知らないな」
敬語は疲れるのでため口に変わったのは修行を開始してすぐのことだった。
「構造を理解する必要などない。単純にイメージが弱いだけだ」
「でもイメージを高めるのは構造を理解するのが一番いいんだろ?」
「いいというだけで、絶対ではない」
「……難しいな」
「精進することだ」
ロスベルグの能力については以上だ。
食料や飲料は意味がないからやめたほうがいいらしい。
自産自消でプラスマイナスゼロだからとかなんとか。
次に教えられたのはこの世界についてなのだが、これが驚いた。
なんでも、この世界にはロスベルグのような意志を持ち能力を持った武器がいくつも存在しているらしい。
武器に選ばれた者は、その力を使って組織の上に立つ、戦場に身を投じ戦い続ける、生活の便利アイテムとして役立てている、と様々だそうだ。
ちなみに、別世界から人間を召喚したなんて大技を使ったのはロスベルグだけらしい。
もしかしたら、こいつもこいつで変わり者なのかもしれない。
「もしかして、その武器たちを全部破壊してもらいたいとか、そういう事か?」
「そういうことだ」
「……いくつもあるって、具体的にはいくつ?」
「不明だ。封印されている間に減ったかもしれないし、増えたかもしれない」
「増えるのか!?」
「それほどの職人がいれば、の話だが」
「伝説の鍛冶屋の弟子とかいたら嫌だなあ……」
ほかにも色々と教えてもらったが、それは追々話していくとしよう。
そして、新緑の葉っぱが茜色に染まり始めた頃。ついに俺はまだ見ぬ世界へと旅立つことになった。
「この世界にも季節があるのか、そういえば寒いとか暑いとか気にしてなかったな」
「私を手にしている間は気温などに左右されることはない。快適に過ごしたいというお前の本能的なイメージのお陰だな」
「はー便利な力だこと……ちょっとまてよ? ってことは、今もこうしてる間に魔力は消費し続けてるってことか!?」
「その通りだ」
なんてことだ! 魔力切れの苦痛は二度と味わいたくないというのに!
必死にイメージを消そうとするも、一向に肌寒さは感じてこない。
本能はもっと発現しやすく消し難いイメージだということを教えてもらったのは随分と前だったか。
「食事・睡眠・性欲の制御ぐらいだと思ってたのに……」
「常に腹を満たしておくことだな、食事は魔力を獲得するのに一番効率がいい」
一気に街まで出ようと思っていたのに。
この森を抜けるにはそれなりに時間のを覚悟したほうがよさそうだ。