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危険なゲップ

 最近クロエが素振りで道場に穴を空けれるようになってしまった……


「やりました!」と満面の笑みで語るクロエ。


 やりやがったなこいつ。と内心で思いながら嬉しそうな様子のクロエに文句を言えず、俺は建築ギルドに修繕の依頼をしにいく。


 その時、叱らなかったのが悪かったのだろう。俺は躾の重要性を理解することになる。


 毎日毎日、道場に穴が空くのだ。


 俺は建築ギルドからお得意様扱いされるようになった。


 毎日それなりの金を落とす上客なのだ。

 俺がギルドに入ると、必ず高級そうな紅茶と菓子がだされる。



 何度直しても破壊される道場。

 負けじと直す職人たち。


 職人達の頑張りを見ていると、道場に愛着が湧いてくる。

 大切にしないとな……と思うのだ。


 次の日には破壊されるのだが。



 そんな愛着ある我が家は今、


 燃えていた。

 どう考えても修繕でどうこうなる状態じゃない、全壊である。


「す、すまねぇ。 腹一杯でよぉ……ゲップ、我慢できなかった」


「…ふむ」


「ド、ドラゴンあるあるだから許してくれよ! な? わざとじゃないんだよぉぉ……」


 ちなみにこのトカゲを拾ってきた魔王はまだ道場の中にいるはずだ。


 最後にみた魔王は俺たちがあたふたする中、黙々と素振りを続けていた。


 それを見た俺たちは、多分大丈夫だろうと考えが一致して、魔王を置いて逃げた。


「おいトカゲ」


「なんだよ……というか、トカゲって言うなよぅ」


 お前はトカゲで十分だ。

 トカゲ業界からクレームが来ない限り俺はこいつをトカゲと呼ぶことに決めた。


「酒飲む?」


「ひゃっほーーーい!! 主は話がわかるぜ!」


 俺はなんとか持ち出した酒を、燃える道場を肴に飲むことにした。


 もうどうにでもなれ。



 しばらくして、跡形もなく燃え尽きた道場から魔王が姿を現した。


「火の海の中で素振りをする……なるほどこれは良い鍛錬になる」


「…ふむ」


「集中力が研ぎ澄まされたと感じます。 我のために大切な道場を……感謝しますぞ、師匠」


「オイラが燃やしたんだぜ? オイラにも感謝しろよ」


「おお、そうだったのかコッコよ。 感謝する」


「良いってことよ!」


 火事の中、取り残されたにもかかわらず感謝を述べる魔王。


 放火の犯人であるトカゲは何故か得意げだ。


 先程までは、事故だから許してって喚いていたのに。



「こ、これは……」


「おお、クロエ。 火の海の中での素振り……素晴らしい鍛錬であったぞ」


「え?」


 仕事を終え、道場跡地にやってきたクロエに、火事鍛錬がいかに素晴らしかったかと饒舌に語る魔王。


「ず、ずるいです! 兄弟子ばっかり……」


「…ふむ」


「やっぱり私には期待してないんですね」


 これはまずい。

 寝ずに素振りをし続けるパターンに入りそうだ。


「息を止め……そうだな水中で瞑想してみよ」


「はっ、はひっ!」


「それが新たな鍛錬だ。 魔王とクロエの剣の方向性は違う。 なれば、鍛錬の方向性も変わっていくのが道理。 精進せよ」


 クロエが笑顔で頷いている。

 

 もう俺の理解の及ぶ人間じゃないんだなと改めて思った。




###




 俺達は愛する我が家を復活させるため、建築ギルドに来ていた。


「絶対に燃えない道場で、設備は……台所に風呂にトイレ。あと、火の海の中で素振りできる部屋と人間が二人入っても余裕がある水槽を設置した部屋を作ってほしいです」


「……はい?」


「道場がとうとう消滅しました」


「そ、それは…… ご愁傷様です……」


 いつもの依頼だと考えていたであろう担当の職員が絶句している。


「す、すみません。 何分特殊な依頼なので、お時間を頂きたく……それに、その要望を全て叶えるとなると相当な金額になりますが」


「金に糸目はつけなくていいです」


 火事の犯人と被害者を働かせるので。


「もう少し広くしませんかな、師匠。 今は良いですが、弟子が増えれば少々手狭かと思います」


「私の部屋もほしいです! 家に帰るの面倒くさいので」


「風呂に滝もほしいよな。 あれに打たれると腰痛が治るんだよ」


「じゃあ、それもで」


「……はい」


 建築ギルド総出で取り掛かる事を約束された俺たちは意気揚々と道場に帰ろうとして、現実の厳しさに直面した。


 帰る家がない。


 クロエには帰る家があるが、二人と一匹はホームレスになってしまった。


「…ふむ」


「道場はなくなりましたが、跡地で鍛錬をしますかな?」


「わかってねーな魔王は。 跡地に家建てんだから、そこにいちゃ邪魔だろうが」


「ぬぅぅ……確かに」


 問題はそこじゃないだろ。

 というか、お前たちは働け。誰が道場代稼ぐと思ってるんだ。


「あのぅ、ギルドの寮に来ませんか?」


「…ふむ」


「部屋は余ってるので大丈夫だと思いますし、ギルドに併設されている練習所で鍛錬もできると思います! 壊したら怒られるので、穴は空けたらだめですけど……」


 いや、うちの道場も穴を空けるのはダメだよ?


「それは良い考えであるな!」


 魔王は乗り気のようだ。


 まぁ、野宿よりは良いよな。

 それに、犯人達を試練だと言って働かせるのに冒険者ギルドは都合が良い。


「ペットは大丈夫か?」


「……聞いてみます」


 危険なゲップをすることは黙っておこう。

 でないと、間違いなく拒否される。

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