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コッコちゃん

 最近街で評判の頭のおかしい受付嬢のおかげで、俺は街で知らないものはいないほど有名になってしまった。


 振る舞いに問題があったが、確かな実力を持っていたギルドのエースをクロエがぼこぼこにしたのが原因だろう。


 それだけならまだよかった。いや、よくはないが。


 ギルド最強の名をほしいままにしているクロエ。

 そのクロエがどうやってその強さを手に入れたのかと聞かれると、こう答えるのだ「私は道場最弱……兄弟子の足元がやっと見えてきた程度で、師匠にいたっては未だ影すら見えない」と。


 ギルド最強が道場最弱。


 この噂は瞬く間に広がった。

 というか、クロエ自らべらべら喋るのだ。まるで自慢かのように。


 そして、まさかそんな訳は……と道場を覗きにきた人間が魔王の人智を超えた素振りを見て腰を抜かし、ついでにぼーっと立っている俺にも畏怖の念を抱いてお帰りになる。


 酷いループが完成していた。

 

 ほとんどの人はすぐにお帰りになる。

 だが、時々魔王に質問する勇者がいるのだ。


「師はあなた以上なのか」と。

 その問いに対する魔王の返答はいつだって「我など師匠の足元にも及ばぬ」だ。


 俺は最近では人類最強と噂されている。



「最近魔物が凶暴化しており、スタンピートの兆候ではないかと騎士団では噂になっております。 それについて、剣神様の見解をお聞かせいただきたく……」


「…ふむ」


 俺に聞かれても、ご婦人同士の井戸端会議程度の見解しかでない。

 だと言うのに、騎士団のお偉いさんがわざわざ道場に訪ねてくる。


「解決してもよいのか?」


 最近俺は、鍛錬や試練との名目で、魔王に面倒事を押し付ける事を覚えた。

 

「え?それはもう…… 剣神様のご助力を得られるならば皆安心しましょう」


 いや、俺は動かないぞ。

 凶暴化した魔物相手とか、死ぬ。


「魔王よ、それにクロエよ」


「はっ!」


「はいっ!」


「原因を調査し、それを断て」


「調査……ですか」


「人の世の平常と異常……魔王には、その差異を感じ取れる感性を磨いてほしいのだ。 お主にとっては難しいことだろう」


 魔王、クロエ、ついでにお偉いさんが俺の話を真剣に聞いている。

 魔王とクロエに面倒を押し付けたいだけなのに。


「象に蟻の世界を知れと言っているようなものだ。 誰しもが必要ないと考える。 しかし、魔王。お主には必要だ。わかるな?」


 わかってくれ!

 言った本人はわかっていないけど。


「はっ! 己を知り、相手を知り、誰よりも正しくあるためには必要なことかと」


「…ふむ」


 その妄言、恥ずかしいから忘れてほしい。


「クロエには魔王のサポートをしてもらいたい」


「サポートですか?」


「此度の試練、魔王にとって困難なものになるだろう」


「兄弟子の実力でもですか?」


 魔王の実力で困難に陥ることなどないだろう。

 大抵の事は、魔王にぶん投げといたら解決する。

 

 だが、あまり魔王を頼りすぎると、クロエが拗ねる。

 拗ねたクロエは寝ずに素振りしだすので怖い。俺は面倒を押し付けているだけだというのに……


「強さだけで全ての問題が解決するわけではない。 強きものが何に苦しみ、もがくのか……側で支え、見届けよ」


「は、はひっ!」


「お主らは対極の存在だ。 心の在り方、剣の方向性、全てが真逆に向いていると言っていい。 だからこそ、お互いを知れ。 さすれば……」


 バカ三人がごくりと喉を鳴らした。


「真に強きとは何か、その答えを得ることができるだろう」


「はっ!」


「はい!」


「はっ!」


 バカ三人は決意に満ちた顔をして、道場から出て行った。


 俺は市場に向かい、酒や肉に野菜を大量に買い込んで、バーベキューの準備を始めた。



 最近、わかってきたのだ。

 どうせ、やつらは直ぐに解決して帰ってくる。


 ならば、労いの意味を込めて宴会でも開いてやろう。

 酒でも飲まなきゃやってられないし。




###




 古龍とかいうトカゲが原因だったと、魔王から報告を受けた俺は「…ふむ」と言いながら高級イカを焼いていた。


 古からの眠りから覚めたトカゲ。

 そのトカゲの目覚めは周囲の魔物を狂乱させてしまった。


 だが、古龍に悪気はない。

 ただ、そこに居ただけだ。


 それを知った魔王の事件の解決策が、


「焼いたイカうめぇ。 ウンコしたくなって起きたの正解だったなぁ」


「食事中に下品な言葉を発するのはやめよ」


 我が家のペットにする事だった。

 どうして、そうなった。


「コッコちゃん、食事中に下品な言葉はだめですよ〜」


「寝てる間に世界は変わったんだなぁ…… オイラのドラゴンジョークが受けねぇなんてよぅ」


 コッコと名付けられたトカゲ。

 その存在は国家の存亡を左右するほど強大だと、騎士団のお偉いさんに言われた。


 だが、暴れないなら良い魔物除けになるので、ぜひ飼って下さいとのことだ。


 トカゲにびびって魔物が街に近づかないらしい。


「見境なく暴れていた魔物達が、まさか怯えていただけなどと……師匠の言う通り、我一人では此度の試練乗り越えられなかったかと」


「…ふむ」


「今回の試練で事の本質を見定める大切さを学びました」


 面倒事を押し付けたら面倒事と一緒に帰ってきた魔王。

 何故いつも俺の想像の斜め上な事をしでかすのだろうか。


「わ、私も、力の在り方について学びました!」


「…ふむ」


「真に強きとは、力を向ける矛先を誤らない事だと感じました! いくら強くても、その矛先を誤ればそこに意味はない……」


 そうだね。その力で俺を斬ろうとするのはやめてほしい。


「二人ともよくぞ辿り着いた。 しかし、剣の頂はまだ遠く険しい。 慢心せず、精進せよ。 いつの日かお主らが剣の頂きに辿り着けることを期待している」


「はっ!必ずや、必ずや辿り着いてみせますぞ!」


「私もでしゅ!」


「イカうめぇ! ごくごく……ぷはっ。 酒もうめぇなぁ。 腹痛ありがとうございますだなぁ、これは」


 酒を飲もう、浴びるほど。

 

 記憶を失うほど飲もう。

 俺はコップの酒を一気に飲んだ。



 面倒事など明日の俺に解決させれば良い。

 

 

 


 

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