友情
「世界樹が現地住民に取り入って盾にしていた?」
「はっ! それも幼な子ばかりでして……師匠の威光を理解できぬ者たちとはいえ、斬るのは流石にどうかと思い……」
説明する魔王に力が入る……言葉ではなく体に。
体に力を入れただけで床を破壊した魔王は、悔しそうに言葉を続ける。
「説得を試みたのですが、世界樹に心酔しているようで……世界樹から離れようとしないのです」
「そうか……幼な子とは女の子ばかりか?」
「よくわかりましたな。その通りです」
復興の為に植えられたはずの世界樹が現地で幼女ハーレムを形成……あのロリコン、何やってるんだ。
「我等も必死に説得を続けたのですが、世界樹を神と崇める幼な子達には届きませんでした。 それで……そのですな……」
魔王にしては珍しく、歯切れの悪い言葉遣いで会話に詰まる。嫌な予感がするなぁ……
「少々、口が悪い幼な子がおりまして、我等を罵倒してきたのです」
「あ、ああ、それで?」
「コッコがその罵倒に耐えられず、弱めにではありますがドラゴンブレスで応戦しました」
幼女に舌戦で負けたから火を吹いたのか……
まさか、殺したのか?その重い罪を認めたくない一心で、魔王に責任を被せようとしていた?
嫌な汗が身体中から吹き出す。
なんたって、登場した問題児達は、全員我が道場の関係者だ。もし幼女が死んでたら、俺が責任を取らないといけないのか?どうしよう……俺は何も悪いことなんてしてないのに。
「それで、幼女はどうなった?」
「世界樹が幹を自在に操り、幼な子を守ったので無傷です」
俺は手に力を入れ、拳を天に突き上げた。
よしっ!耐えた!さすがはロリコン。木であるにも関わらず、火をも恐れず幼女を守った態度だけは認めてやっても良い。
「ですが……燃え広がりました」
「は?」
「燃え広がったのです。あれは、木ですし。なんとか我が消化し、人的被害は無かったのですが……」
魔王が何やらぶつぶつと言葉を発する。すると、魔王の近くに黒いモヤが発生した。魔王がたまに使う魔法だな、これは。
その黒いモヤに手を差し込み、引き抜く動作を見せる魔王。
その手にあったのは……
「呪イ殺ス呪イ殺ス呪イ殺ス呪イ殺ス……」
掌サイズにまで小さくなった呪いのロリコン世界樹だった。なんだか焦げ臭い……ドラゴンブレスが燃え広がった結果、大部分は焼き払われたが、ギリギリ生き残ったという感じか?
「捨てて来なさい」
何持って帰って来てるんだ。
呪いのロリコン世界樹なんて、うちの道場には必要ない。
「ですが師匠、こやつは植えるとすぐに成長するのですぞ。すなわち……木材が取り放題です」
「捨てて来なさい」
例え世界中で木材が不足しようと、呪いのロリコン世界樹産の木材なんていらない。
魔王が渋々了承し、黒いモヤに世界樹を入れようとしたその時、
「世界樹様!!」
道場内に悲鳴に近い声が響き渡る。
その声のした方に目を向けると、そこには涙目のシアがいた。
「パパ……なんで?なんで世界樹様は……」
「い、いや、それは……」
「返して!」
魔王から世界樹を奪い取ったシアが、世界樹に語りかけている。
「世界樹様……ごめんね、ごめんね……」
「シア……ヤツラハ悪魔ゾ」
シアは泣きながら世界樹を撫でている。
しばらくすると、俺と魔王を睨んだ。
「誰が……誰がこんなことしたの?」
普段とは違うシアの様子に俺と魔王は怯んだ。
そして、
「「トカゲ(コッコ)だ」」
トカゲに全ての責任を押し付けた。
元々、焼いたのはトカゲだ。捨てようとしたり、無限木材にしようとしたのは俺達だが、主犯はトカゲと言える。
俺はシアに近づき、腰を下ろす。
そして世界樹に向けて語りかけた。
「すまなかったな、世界樹よ」
「…………」
反応がない。やはり幼女としか喋る気はないのか……筋金入りのロリコンだな。
シアの了承を得て世界樹を抱き抱える。
そのまま立ち上がり、シアに会話が聞こえない場所まで歩いた。
「シアにお前を捨てようとしたことをバラしたら……燃やすぞ?」
「ナ、ナント……ヤハリ、貴様ハ悪魔ゾ」
俺はちょいちょいと手を振り、魔王を呼ぶ。
「魔王、この木を最も残酷な殺し方をするとすれば、どうする?」
「そうですなぁ」
俺達は脅している事がシアにバレないように世界樹を撫でる素振りを見せながら、ロリコンの心を折りにいく。
「少しずつ切り刻んで、バラバラにでもしますか」
「ヒッ」
悪い顔をした詐欺師と魔王に囲まれたロリコンは、小さな悲鳴をあげた。
「ナ、ナニガ望ミダ?」
「俺達は仲良しだ、今までの事は全て水に流せ。悪いのはトカゲだけ……わかったな?」
「ウ、ウム」
その日、俺と魔王と世界樹の間で美しさのかけらもない友情が芽生えた。
シアに嫌われたくないからね。




