同盟
果てが見えない真っ白な空間。
神々の遊戯を行うに際し、創り上げたこの空間は、神ならば誰でも許可なく入ることができる。
この世界の神々は非常に仲が悪く、滅多にこの空間を使わない。
だが、本来の使い方は定期連絡の他に、自分たちの駒を神々同士眺めながら、あーだこーだと言いながら楽しむ、観客席のような意味合いもある。
その空間に女神が二人、緊張した様子で対面していた。
「で、何のようだ? さっさと要件を話せ」
呼び出された側……帝国の女神に焦りの色が見える。
格上の神、剣神に隠れて集まっている今回の会合。認めたくはないが、これまでまざまざと実力差を思い知らされている相手だ。わざわざ不況を買う可能性がある事は控えたいというのが本音だろう。
「心配しなくても大丈夫よ……彼、私達なんて眼中にないでしょうし、隠れて集まったところで何とも思わないわ」
聖国の女神はそう言いながらも、少し声が震えている。
本来ならば、自分が相手の眼中にないなどと知れば、怒りを抑えられないほど帝国の女神のプライドは高い。
だが、今の彼女は怒りではなく安堵を覚えていた。それほど剣神に恐怖しているのだろう。
「ちっ、んなことどうでも良いんだよ。 早く話せよ」
内心は安堵しながらも、態度は気にしていない素振りを見せる。せめてものプライドといったところだ。
「聖国は……もう、駄目だわ。 国土の殆どが火の海よ……器用な事に人だけ残してね」
「そうか……」
内心驚きながらも、必死に心の内を隠す。
聖国が甚大な被害を受けた事は帝国側も掴んでいた。おそらくリタイアだろうということも。
だが、聖国側からそれを打ち明けられるとは思わなかった。聖国の女神も負けず劣らずプライドが高い。その女神が自ら敗北を口にするなど有り得ないと思っていたからだ。
「人も一緒に燃えてなくなっていれば、まだ何とかなったかもしれないわ。 でも、人間を残して国土の殆どを焼かれたの……」
「それで?」
「人はいる。でも国は火の海……食べ物がないのよ。 皆が飢えに恐怖し、食べ物を求めているわ。 その恐怖が何処に向かっていると思う?」
「勿体ぶらずに話せよ」
「……唯一無事だった聖都よ。今私は、自らの駒に攻められているのよ。 笑えるでしょう?」
どれだけ広大な国土を誇っても、どれだけ国民を抱えようとも、食料が無ければそれは武器にはなり得ないし、それどころか毒になってしまう。
女神達も下界の民の命など、どうでもいいと考えている。利用できるならば利用するし、要らなくなれば捨てる……人間に対し、慈愛の心など持ち合わせてはいない。
だが……剣神ほどえげつないやり方は考え付かなかった。内乱が起こるように仕組み、崩壊へ導く……女神が悪魔なら剣神は邪神である。
「勇者も死んで、国は足手まとい…… 残念だけど負けを認めるしかないわ。 でもね……」
聖国の女神は真剣な眼差しで帝国の女神を見る。
「このままじゃ……このまま、舐められたまま終われないのよ!! あのいつも飄々としている剣神の顔を歪めてやらないと気が済まないわ!!」
「お、おう」
あまりの迫力に気圧されてしまう帝国の女神。
「だから……あなたに協力するから私を匿いなさい」
「は、はぁ?」
「私は内乱で死んだ事にするの。 そして、私は息を潜めながらあなたに協力する……完璧でしょう?」
「だ、だけどよ…… それ、ルール違反だろう?」
創世神により決められた、神々の遊戯のルールによれば、同盟はルール違反に該当する。
バレれば、ただでは済まない。
「あなたは、ルール違反って何だと思う?」
「はぁ?何言ってるのかわかんねえぞ」
「私はね……バレたらルール違反だと思うの。 バレなければセーフよ」
「そ、そうなのか!?」
「ええ、そうよ。 数多ある世界の一つの神々の遊戯なんて創世神様が監視していると思うかしら?」
「……思わねぇな」
「ふふっ、わかっているじゃない。 絶対にバレないし、剣神に勝つにはこれしかない。 覚悟は決まったかしら?」
「……ああ、わかった!」
怒りに震え、冷静さを欠いている女神の提案を、少し考えが足りない女神が受け入れる形で、前代未聞の同盟はここに成立した。
ここまでお付き合いありがとうございました。
これで三章終了になりますଘ(੭◉◞⊖◟◉)੭✧
更新ペースがめちゃくちゃで申し訳ない。
四章は書き溜めてから投稿しようと思っていますので、待っていただければ幸いです。
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