新婚旅行の成果
こんなにも、この人外達の存在に感謝したことがあっただろうか。
「ふふっ、師匠お待たせしました」
「くくく…… 師匠、お待たせを」
変な笑い声を上げながら、錆びが完全に落ちている剣をちらちら見せてくる魔王とクロエが愛おしい。
こいつら新婚旅行で何やってたんだろ?素振りかな?素振りだよな……多分。
「ふっ、やり遂げたか…… まさかこうも早く成し遂げるとは思わなかった。 お主らは、その才と弛まぬ努力で神の想像を超えたのだ! 誇ると良い」
「「はっ!」」
随分と綺麗になった剣も、錆びていたころは、まさかこんなに綺麗になるとは思ってなかっただろう……
「お主らに剣士と名乗ることを許す」
俺がそう言い渡すと、魔王とクロエは感極まった様子で抱きしめ合った。
喜んでいるところ悪いが、さっさと目的を達成して帰りたい俺は魔王達に当初の目的を話す。
「すまぬ…… カイと新入りを探してはくれないか?」
「おお! 任せろ! ドラ一とドラニの特徴も聞いてきたから大丈夫だぜぇ!」
「お任せくだされ、師匠」
魔王とトカゲはそう言い残し、すぐさま散って捜索に向かってしまった。
「…ふむ」
戦場のど真ん中に置いていかれた……
魔王にいたっては、自分の妻も置き去りにしたぞ。
「師匠、あれは私が貰っても良いですか?」
そう言いながら、クロエは勇者を指さす。
「え……? いけるの?」
「余裕です!」
笑顔で答えるクロエ。だが、俺は不安だ。クロエは一応人間…のはず。
勇者なんて大層な肩書きを持っている者に勝てるとは思えない。
思えないが……クロエに戦って貰うしか、現状を切り抜けられない。
悩んだ俺は、魔王殺しをクロエに渡した。
「これを飲むと良い」
無敵状態になれば、もし勝てなかったとしても死ぬことはないだろう。
クロエは瓶の蓋を開け、匂いを嗅いだ。
「これお酒じゃないですか! 流石に酔った状態で勝てるほど甘くはないですよ!」
「ち、違うんだ! 魔王殺しと言って。これを飲めば……」
「兄弟子から聞いたことあります!物凄いきついお酒だって。 私はお酒は強くないので、剣を振るえなくなります……」
頑なに受け取りを拒否するクロエ。
確かに酔った状態では、ベストパフォーマンスはできないかもしれないが、これを飲めば安全だというのに。
「お願いします、師匠。 次はどんな鍛錬でも頑張ります。 だから、今回はベストな状態で戦わせてください! 剣士としての初陣なんです!」
「…ふむ」
いきなり現れた圧倒的強者である魔王とトカゲに動揺して、動きが止まっていた聖国兵達もそろそろ動きそうだというのに中々受け取ってくれない。
もうどうにでもなれ。
どうせ俺に戦闘狂の説得など出来やしない。
「クロエよ。 勝て。 それだけだ」
「はいっ」
気合いのこもった返事をするクロエ。
しばらく、聖国兵達を睨んだ後、
「はぁぁああ!!」
単身で突撃した。
「な、なんだ!? このっ!」
「ひっ……化け物!?」
「や、やめてくれぇ!!」
初めこそ応戦しようとした聖国兵達だが、うちの化け物を相手に自分達の技量では応戦出来ないと悟ったのか、逃げ腰になっている。
逃げ腰になり、元々劣っている実力が更に発揮できない状態に追い込まれている聖国兵達をバッタバッタ斬り倒すクロエ。
しばらくして、
「き、貴様! 何者だ!?」
そう叫ぶ勇者の周りには、戦闘続行可能な兵士はほとんどいなくなっていた。
「私は—————幻剣のクロエ!」
勇者の問いに、二つ名付きで名前を名乗るクロエ。
自分で考えたのかな?うちの弟子達は何を目指しているのだろうか。
「まずは……十景からで様子見しましょう」
何やら意味がわからない単語がクロエから飛び出してきた。技か?技なのか!?
クロエは勇者に接近し、剣を振るう。
振るった剣は勿論一本。
それなのに、
「なっ!? 何だこれは!?」
十本の剣が勇者を襲った。
初めこそ、一本しかないはずの剣が十本に増える異常事態に動揺していた勇者だが、しばらく回避行動を続けた後、笑みを浮かべながらクロエにある指摘をする。
「見破ったぞ! 十本に見えようが、本物は手に持っている一本だけだな? 空中に浮いているのは全部幻覚だ!」
……それが本当なら、酷い欠陥技じゃないか。
空中に浮いている九本は全て無視してクロエが握っている剣にだけ集中すれば良いのだから。
勇者の鋭い指摘を受けてなお、クロエは微塵も動揺した様子を見せない。
「では……幻剣百景」
「無駄だ! その技はすでに見切っている! 百本に増えようが、結局本物はお前が握っている一本だけだ!」
勇者の言葉通り、空中に浮いている九十九本の剣達は、斬ったように見えても、勇者にダメージを与えることなく通り過ぎるだけだった。
「ふぅぅ。 流石に舐めすぎでした」
「そんな子供騙しが僕に通じるはずがないだろう! 僕は勇者……世界を救う英雄だぞ!」
高らかに笑い声を上げる勇者。
そんな勇者を、クロエは冷めた目つきで見ている。
「では……真・幻剣百景」
クロエは先程と見た目が変わらない技を繰り出す。
「今度の幻剣は全て—————」
「だから、無駄だと言っているだろう! 馬鹿なのか!?」
確かに無駄だよな。
勇者は嫌いだが、その意見には一理あるように思える。
俺の心配を他所に、クロエは笑みを浮かべている。
「——————本物です」
そう言って、剣をチャキンと鞘に戻したクロエの前には、物言わぬ姿になった勇者が倒れていた。
この子、新婚旅行で何をしていたのかな?




