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物凄く錆びた剣

「私も入門したいです!お願いします!」


「我からもお願いしたします、師匠」


 何この状況。


 嘘を真に受けたクロエと、ノリノリで歌っていた魔王が普通に話せる様になったところまではよかった。


 たが、それで何故道場に入門したいとなるのだろうか。


「…ふむ」


「やはり、私ではダメでしょうか……」


「案ずるなクロエ。 入門するには試練をクリアせねばならんのだ」


「し、試練?」


 そんな制度うちには無い。

 だが、魔王に試練を課した手前、今更ないとは言い辛い。


「…ふむ」


「コツを掴めば簡単だ。 クラーケンを無傷で殺す、それだけのこと」


「ク、クラーケン? 無理ですぅ」


「クラーケン自体は雑魚であろう? だが、無傷で殺す。これがコツがいるのだ」


「クラーケンが雑魚? へ? 無傷で殺す?」


 魔王の無茶振りがひどい。

 その子戦闘員ではなく、事務員なんだけど……


「私からもお願い出来ないでしょうか、剣神様」


 クラーケンが雑魚辺りから、様子がおかしかったクリスさんまで援護に回った。


 お気に召してよかったよ。高級イカ。

 でも、後輩を生贄にするのはやめようね。



「才は磨かねば輝かぬ」


「はっ!」


「はひっ!」


「クロエの才は、まだ磨かれておらぬ原石。 悪戯に実戦に放り込めば良いというものではない」


 受付嬢がクラーケンを討伐……

 なぜ、いけると思っているのが二人もいるのだろうか。


「考えが及ばず、申し訳なく……」


「よかったですぅぅ。 素人なので最初は優しくお願いしたいです」


 悔しそうな魔王に嬉しそうなクロエ。

 何故か、クロエは既に入門してからのことを考えている。


 俺まだ、入門を許した覚えがないんだが。


「では、クロエの試練などのような内容で?」


「そうだな」


 二人はごくりと喉を鳴らした。

 仲が良いね、君たち。


 正直、クロエの入門は避けたい。冒険者ギルドを敵に回したくないからだ。


 冒険者ギルドを敵に回せば詐欺師などひとたまりもない。


 死なない程度の無茶。

 難しい……この際魔王を巻き込むか。


「クラーケンを討伐してもらう」


「……え?」


「だが、単独では無理だ。 そこで魔王にも試練を課そう」


「はっ!」


「魔王がクラーケンの攻撃からクロエを守り、クロエがクラーケンを攻撃する。 その際、魔王は生身で、クロエは剣で行ってもらう」


 それならば、クロエは死なず、クラーケンの討伐に失敗するだろう。


「守る、ですか」


「クラーケンを私だけで……」


「はっきり言えば、お主らにはまだ早い。 だが、困難が人を強くするのもまた事実」


 というか、無理だろう。

 魔王はともかく、受付嬢にクラーケンを一人で倒せなんて無茶もいいとこだ。


「必ずやご期待に添えましょうぞ」


「が、頑張りましゅ!」


 まぁ、頑張りたまえ。

 そして、諦めてギルドへ帰れ。


「魔王、絶対に死なせるなよ?」


「承知」


 じゃないと、冒険者ギルドが敵に回るかもしれないからな。




###




 翌日。


 俺と魔王は道場の外で素振りをしていた。

 周りの草木を破壊しているが、道場を破壊するよりマシだ。


「来ましたな」


「…ふむ」


 俺たちにぶんぶんと手を振りながら、こちらに歩いてきているクロエが見えた。


「師匠!こんにちは」


「…ふむ。 こんにちは」


「マオウさんもこんにちは!」


「こんにちは。 よく来た、クロエ」


 何故金にならない無茶を好き好んでやるのだろうか。


「…ふむ」


「では、師匠。 行ってまいります」


「い、行ってきましゅ!」


 噛むほど緊張するならこなきゃ良いのに。


「渡すものがある」


 俺は朝、武器屋でゴミ同然の扱いを受けていた剣を貰ってきた。


「こ、これは」


「わ、我にもですかな」


 物凄く錆びた剣を二人に渡す。


 店主に二本セットならタダで良いと言われ、迷わず貰ってきたゴミ。


 店主曰く、全く売れないにも関わらず、何故か捨てる気になれないで、開店当初から売れ残っていたゴミ。


「この錆びが全て落ちた時……」


 二人はごくりと喉を鳴らした。

 やっぱ仲良いよね、君たち。


「剣士と認めよう」


「錆びを全て落とす、ですか。 磨いてよろしいのですか?」


「汚いですぅ」


「素振りのみでだ」


 素振りの風圧のみでやれ。

 無理なら、出て行け。


「クロエにはこれでクラーケンを狩って貰う。 もちろん入門すれば、錆落としもやって貰うぞ。 素振りのみで」


「は、はい! わかりました!」


 いや、わかるなよ。

 素振りで錆び落としってなんだよ。


「これを落としきれば我も剣士……」


「…ふむ」


「目に見える目標があるというのは、努力のしがいがありますな」


「確かに! わかりやすいです!」


 そ、そうか。


 万が一、クラーケンの討伐が成功してしまうのを避けるために貰ってきたゴミ。

 

 そんなに気に入ってくれて、ゴミ達も喜んでいるんじゃないかな。


「では、行ってまいれ。 期限は特に設けない。 必ずや成し遂げてこい」


「はっ!」


「はひっ!」


 気が済むまでやって、諦めてギルドへ帰れ。


 そして、仕事帰りに道場で修行しようというそのやる気を仕事に生かすと良い。

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