…………ふむ
ルナに敗北し、ふて寝していた俺を起こしたのは、ある人物の訪問だった。
「剣神様……こちらが聖国と帝国の動きを調査し、それを記した書類です」
騎士団長が、書類を取り出した。
別に俺、そんな事頼んでいないんだけど……
「…ふむ」
それを渡して、俺にどうしろと言うつもりだ。
「差し出がましいかとは思いますが、王国の守り神である、剣神様に万が一でも負けていただくわけにはいかないのです! どうか……どうかお受け取りください!」
「へ?」
思わず、変な声が出た。
王国の守り神……?詐欺師が?
「受け取って頂けぬなら……我が命、ここで断つ所存」
「う、受け取ろう」
「ありがとうございます! 皆の努力が報われました……」
受け取らなきゃ、おまえんちで自殺してやるって脅されたら、そりゃあ受け取るしかないじゃん。
神様脅すとか頭大丈夫かな?
用事はそれだけだったようで、騎士団長は引き上げていった。
俺は書類に目を通す。
「師匠……僕にも見せていただけませんか?」
「まぁ、別にいいけど……」
オトコにそう言われ、軽い気持ちで了承した事を、俺は後に後悔する事になった。
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帝国は目立った動きはないそうだ。
城攻めによる被害が、思っていたよりも大きく、しばらくは身動きが取れないだろうと書いてある。
問題は聖国のほうだが、
周辺国の吸収に力を入れているらしい。
公国はその一つで、今にも落ちそうだと書いてあった。
あらかた読み終わった俺の感想は、
俺にはどうする事もできないな。という当然と言えば当然な感想しか思い浮かばない。
どうにかするにも、魔王達が帰って来てからだな。
俺は不安を抱えながらも、その日は眠る事にした。
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朝起きて、道場に向かうと、オトコとカイが真剣な表情で俺を待っていた。
挨拶をしてみると、返っては来たが声が固く感じる。
嫌な予感がするなぁ。
「師匠!お話があります!」
「……言ってみよ」
「師匠のお力で、公国を救って頂けませんか!?」
ほら、やっぱり面倒事だ。
頭パーなやつが真剣な表情をしている時はやばいというのは、魔王と共に過ごした日々の中で学んでいる。
だから、面倒事だと覚悟は出来ていた。
出来ていたが……どうやって、断ろうかな?
「師匠!俺からも頼むよ! なんとか、オトコの故郷を救ってくれ!」
カイの声は大きく、そのせいで弟子達の目線が一斉に俺に集まる。
「拙者は神。 故に、人の争いには干渉できぬのだ」
「な、なんでだ!? 聖国は師匠の敵だろ!?」
「肝心の女神が参加しておらぬからな……拙者が手を出すことはできぬ」
昨日貰った書類には、女神自身は公国との争いには参加していないと書いてあった。
ならば、これを利用するしかないだろう。
「そんな……」
落ち込んだ様子のカイにオトコ。
その姿を見ると、居た堪れない気持ちになるが、無理なものは無理だ。
魔王達が帰ってきたら、なんとか頼んであげるから今は我慢してくれ。
「今日はお主らは休め」
「……なんでだ?」
「今のお主らでは、鍛錬に身が入らんだろう。 それに、案ずるな。 魔王達が帰って来れば、勇者などすぐに討伐できよう」
豚の勇者をスパンッと真っ二つにした魔王の事だ。聖国の勇者に負けるはずがない。
「で、でも……」
オトコが言葉を詰まらせる。
「魔王さんっていつ帰ってくるのですか? 僕は会ったことがないのですけど」
「そうだ! 兄弟子達はいつ帰ってくるんだ?」
さ、さぁ?寝て起きたら居なかったし。
「……わからぬ……」
「「そんな……」」
元々良くなかった二人の顔色が、今では真っ青になってしまった。
どうする事もできない俺は、二人に休むように言いつけて、道場を後にした。
街に出て、嫌な事を忘れようと思い、酒を飲んだが忘れられない。
忘れようとするたびに弟子達の悲しげな様子を思い出す。
……早く魔王達、帰ってこないかなぁ。
美味いはずの酒を不味く感じるなんて初めての経験だ。
こんなことなら道場にいた方がマシだと思い、会計を済まし、道場へ帰る。
玄関前までたどり着いた俺が聞いたのは、目を背けたくなる様な内容だった。
「カイとオトコがいないです!!」
「どこを探してもいないわ!」
「ドラ一とドラ二もいません……」
玄関前まで聞こえる声で弟子達が騒いでいる。
ドラ一とドラ二ってドラゴンの事か?
いや、それより、
俺は玄関を開け、弟子達のほうに駆け寄る。
「それは誠か?」
「師匠! は、はいっ! カイ殿とオトコ、それにドラ一とドラ二がいません! 状況から見て……」
ドラゴンに乗って二人で公国に行ったのか?何が出来るって言うんだよ!冷静になれよ!
俺は、残っているドラゴンに声をかける。
「公国まで俺を乗せて行ける?」
「グルルルル」
やべぇ、何言ってるのかわからない。
だが、背中を見せ姿勢を低くしたところを見ると、まさかこれは乗れと言っているのか?
考えても仕方がない。
俺は公国の場所なんて知らない。カイ達を連れ戻すためには、ドラゴンの力を借りるしかないのだ。
俺はドラゴンの背中に乗り、弟子達に声をかけた。
「いってくる」
「師匠、私達もいくです!」
「そうよ! カイもオトコも仲間よ! 私達も助けに行くわ!」
「当然我々も行きますぞ!」
仲間思いの弟子達はそう言うが、俺は断った。
なぜなら、
「速攻で捕まえて連れ帰ってくる。 じゃあ行くぞ!ドラ三!」
戦う気などない。
弟子達を回収するだけだ。ならば、団体より個人の方が良いだろう。捜索中に逸れて、二次被害にでも会えば、何をしに行ったのかがわからなくなる。
俺の掛け声と同時に、ドラ三と俺は、大空へと旅立った。
今行くぞ、カイ、オトコ!死ぬなよ!
「ただいま」
「ただいま戻りました!」
「え?」
「ん? みんなどうしたんだ? 顔を真っ青にして?」
「ドラ一とドラ二は何処に……?」
「ああ、近くの川で見かけたぞ。 水遊びしてた。 なぁ、なんなんだ?みんなして?」
「「「…………ふむ」」」




