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…………ふむ

 ルナに敗北し、ふて寝していた俺を起こしたのは、ある人物の訪問だった。


「剣神様……こちらが聖国と帝国の動きを調査し、それを記した書類です」


 騎士団長が、書類を取り出した。

 別に俺、そんな事頼んでいないんだけど……


「…ふむ」


 それを渡して、俺にどうしろと言うつもりだ。


「差し出がましいかとは思いますが、王国の守り神である、剣神様に万が一でも負けていただくわけにはいかないのです! どうか……どうかお受け取りください!」


「へ?」


 思わず、変な声が出た。

 王国の守り神……?詐欺師が?


「受け取って頂けぬなら……我が命、ここで断つ所存」


「う、受け取ろう」


「ありがとうございます! 皆の努力が報われました……」


 受け取らなきゃ、おまえんちで自殺してやるって脅されたら、そりゃあ受け取るしかないじゃん。

 神様脅すとか頭大丈夫かな?


 用事はそれだけだったようで、騎士団長は引き上げていった。


 俺は書類に目を通す。


「師匠……僕にも見せていただけませんか?」


「まぁ、別にいいけど……」


 オトコにそう言われ、軽い気持ちで了承した事を、俺は後に後悔する事になった。




###




 帝国は目立った動きはないそうだ。

 城攻めによる被害が、思っていたよりも大きく、しばらくは身動きが取れないだろうと書いてある。


 問題は聖国のほうだが、

 周辺国の吸収に力を入れているらしい。

 公国はその一つで、今にも落ちそうだと書いてあった。


 あらかた読み終わった俺の感想は、

 俺にはどうする事もできないな。という当然と言えば当然な感想しか思い浮かばない。


 どうにかするにも、魔王達が帰って来てからだな。


 俺は不安を抱えながらも、その日は眠る事にした。




###




 朝起きて、道場に向かうと、オトコとカイが真剣な表情で俺を待っていた。


 挨拶をしてみると、返っては来たが声が固く感じる。


 嫌な予感がするなぁ。


「師匠!お話があります!」


「……言ってみよ」


「師匠のお力で、公国を救って頂けませんか!?」


 ほら、やっぱり面倒事だ。

 頭パーなやつが真剣な表情をしている時はやばいというのは、魔王と共に過ごした日々の中で学んでいる。


 だから、面倒事だと覚悟は出来ていた。

 出来ていたが……どうやって、断ろうかな?


「師匠!俺からも頼むよ! なんとか、オトコの故郷を救ってくれ!」


 カイの声は大きく、そのせいで弟子達の目線が一斉に俺に集まる。


「拙者は神。 故に、人の争いには干渉できぬのだ」


「な、なんでだ!? 聖国は師匠の敵だろ!?」


「肝心の女神が参加しておらぬからな……拙者が手を出すことはできぬ」


 昨日貰った書類には、女神自身は公国との争いには参加していないと書いてあった。

 ならば、これを利用するしかないだろう。


「そんな……」


 落ち込んだ様子のカイにオトコ。

 その姿を見ると、居た堪れない気持ちになるが、無理なものは無理だ。


 魔王達が帰ってきたら、なんとか頼んであげるから今は我慢してくれ。


「今日はお主らは休め」


「……なんでだ?」


「今のお主らでは、鍛錬に身が入らんだろう。 それに、案ずるな。 魔王達が帰って来れば、勇者などすぐに討伐できよう」


 豚の勇者をスパンッと真っ二つにした魔王の事だ。聖国の勇者に負けるはずがない。


「で、でも……」


 オトコが言葉を詰まらせる。


「魔王さんっていつ帰ってくるのですか? 僕は会ったことがないのですけど」


「そうだ! 兄弟子達はいつ帰ってくるんだ?」


 さ、さぁ?寝て起きたら居なかったし。


「……わからぬ……」


「「そんな……」」


 元々良くなかった二人の顔色が、今では真っ青になってしまった。


 どうする事もできない俺は、二人に休むように言いつけて、道場を後にした。



 街に出て、嫌な事を忘れようと思い、酒を飲んだが忘れられない。

 忘れようとするたびに弟子達の悲しげな様子を思い出す。


 ……早く魔王達、帰ってこないかなぁ。


 美味いはずの酒を不味く感じるなんて初めての経験だ。

 こんなことなら道場にいた方がマシだと思い、会計を済まし、道場へ帰る。


 玄関前までたどり着いた俺が聞いたのは、目を背けたくなる様な内容だった。


「カイとオトコがいないです!!」


「どこを探してもいないわ!」


「ドラ一とドラ二もいません……」


 玄関前まで聞こえる声で弟子達が騒いでいる。

 ドラ一とドラ二ってドラゴンの事か?

 いや、それより、


 俺は玄関を開け、弟子達のほうに駆け寄る。


「それは誠か?」


「師匠! は、はいっ! カイ殿とオトコ、それにドラ一とドラ二がいません! 状況から見て……」


 ドラゴンに乗って二人で公国に行ったのか?何が出来るって言うんだよ!冷静になれよ!


 俺は、残っているドラゴンに声をかける。


「公国まで俺を乗せて行ける?」


「グルルルル」


 やべぇ、何言ってるのかわからない。

 だが、背中を見せ姿勢を低くしたところを見ると、まさかこれは乗れと言っているのか?


 考えても仕方がない。

 俺は公国の場所なんて知らない。カイ達を連れ戻すためには、ドラゴンの力を借りるしかないのだ。


 俺はドラゴンの背中に乗り、弟子達に声をかけた。


「いってくる」


「師匠、私達もいくです!」


「そうよ! カイもオトコも仲間よ! 私達も助けに行くわ!」


「当然我々も行きますぞ!」


 仲間思いの弟子達はそう言うが、俺は断った。


 なぜなら、


「速攻で捕まえて連れ帰ってくる。 じゃあ行くぞ!ドラ三!」


 戦う気などない。

 弟子達を回収するだけだ。ならば、団体より個人の方が良いだろう。捜索中に逸れて、二次被害にでも会えば、何をしに行ったのかがわからなくなる。


 俺の掛け声と同時に、ドラ三と俺は、大空へと旅立った。

 

 今行くぞ、カイ、オトコ!死ぬなよ!



「ただいま」


「ただいま戻りました!」


「え?」


「ん? みんなどうしたんだ? 顔を真っ青にして?」


「ドラ一とドラ二は何処に……?」


「ああ、近くの川で見かけたぞ。 水遊びしてた。 なぁ、なんなんだ?みんなして?」


「「「…………ふむ」」」

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― 新着の感想 ―
[一言] 剣神怒りの聖国単騎特攻
[一言] 成る程⋯これはミステリーですな!
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