結婚式
魔王とクロエが結婚。
この結婚に一番反応を示したのは、意外な事にトカゲだった。
「オイラが結婚式ってやつをプロデュースするぜ! なぁ、主ぃ、オイラに任せてくれよ?」
それは、夫婦に聞けよ。
何故、俺に決定権があると思っているんだ。
夫婦に許可を取れと伝えると、トカゲは夫婦の元に飛んで行った。
しばらくすると、笑顔を浮かべてトカゲが戻ってくる。
「主が良いって言うなら良いってよ! なぁ、主ぃ。 いいだろぉ?」
何故、俺に決定権を委ねた。
その信頼は何処から生まれてくるんだ。俺は詐欺師だぞ!
「…ふむ」
どうやって諦めさせようか。
やつらは馬鹿な弟子達だ。いつも迷惑をかけられている。
だが、そんな馬鹿達でも、これだけ一緒にいれば、情が湧く。人生の一大イベントぐらい成功させてやりたいと思う程度には。
ならば、プロに任せるべきだ。トカゲの出る幕は無い。
「トカゲは結婚式の事など、何も知らんのだろう?」
「う、うぅ。知らねぇなぁ……」
やっぱり知らないのかよ。そりゃあお前ドラゴンだもんな。
ならば、諦めろ。人生の一大イベントを思いつきで荒らすな。
「わかってくれたな?」
「ああ、わかったぜ主! 結婚式について調べてくるぜ!!」
「え……? お、おい」
「そうと決まれば、すぐに行動だぜ! じゃあな主! 楽しみにしといてくれよ!」
そう言って、トカゲは飛び立った。
「…ふむ」
本当に人の話を聞かないな。
もうどうにでもなれ。
俺は悪く無いぞ?トカゲの提案を断らず、俺に決定権を委ねた魔王とクロエが悪い。
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トカゲの結婚式プロデュース計画が始動してから、三カ月が経った。
そして今、
ドラゴンの群れと我が弟子達に囲まれ、工事中の道場で結婚式を挙げようとしている夫婦がいる。
「さぁ、主。 これが、原稿だ。 間違えずに読んでくれよな」
「…ふむ」
俺はトカゲから原稿を受け取った。
何故、ドラゴンであるトカゲが原稿なんて用意できたのかはどうでも良い。おそらく、人の手を借りたのだろうし。
だが、何故直前になって渡した!?
というか、俺が司会進行なのかよ!
「新郎新婦の入場です」
「「「グルルルルラァァァア!!」」」
ドラゴン達の雄叫びが鳴り響く中、ウェディングドレスを着たクロエと、ぴっちぴちのタキシードを着た魔王が入場した。
魔王はタキシードが似合うような体格ではない。ごっりごりのムキムキなのだから当然だ。
だが、元から似合わないにしても、もう少しなんとかなっただろう。サイズを大きくするだけでいいのだから。
「はぁ、お姉様綺麗ですぅ」
「本当に綺麗ね」
皆、クロエに目がいっているせいか、魔王の姿に疑問を覚えている様子はない。
動揺している俺を他所に、ゆっくりと俺の前に歩いてきた新郎新婦。
まさか……
神父役も俺なのか?
俺は慌てて、原稿を見る。
「では、新郎よ。 己の武を示してみよ」
結婚式の最中とは思えないセリフを言う神父役の詐欺師。
だが、これは原稿をそのまま読んだだけだ。俺は悪くない。
「ふんっ!」
俺は一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
魔王がぴっちぴちのタキシードを、筋肉を膨張させ、弾け飛ばしたのだ。
もしかして、それやる為にぴっちぴちのタキシード着てたの?
意味がわからない。何がしたいんだ、こいつら。
呆然としている俺を他所に、シードちゃんがクロエの剣を持って近づいてくる。
それをそのまま、持ち主であるクロエに渡して、シードちゃんは席に戻った。
皆の視線が俺に集まる。
俺は慌てて、原稿通りの言葉を口にした。
「新郎への入刀です」
俺の言葉を聞いたクロエが、剣を抜く。
「ふんっ!」
何の躊躇いもなく、魔王の胸のあたりを斬ったクロエ。
胸に切り傷ができながらも笑顔の魔王。
ウェディングドレスが返り血に染まったクロエ。
なんだこの状況は。
「クロエ……お前を幸せにすると、この傷に誓おう」
「はいっ!」
血塗れで、満面の笑みを浮かべる新郎新婦。
頭の整理が追いつかない俺は、原稿通りのセリフを読むことしかできない。
「良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み……剣の道を突き進むと誓えますか?」
「「誓います!」」
ウンコの件で脅してでも、トカゲを止めるべきだった……
これ、絶対に結婚式じゃない。




