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師匠、お話が

 俺には相談できる者がいなかった。


 魔王はいつだって、俺の意思を曲解して事態を悪化させるし、クロエは何が起きても寝ずの素振りで解決しようとするので相談役には向いていない。


 悪女二人は俺から貢がせることしか考えていないし、カイはカブトムシ以外に興味がない。


 俺だって不安な事ぐらいある。というか、不安だらけの人生だ。


 誰かに相談に乗ってもらっても、その不安が直接解決するとは思っていない。

 だが、人に聞いてもらえば、心が軽くなるとは思っている。


 誰かに相談したい……そう考えた俺が、相談相手に選んだのは……


 無口な方の幼女だった。


「シア。 俺、どうすればいいのかな…… 大国二つに命狙われてるとかやばくない?」


 無敵状態になれる魔王殺しを持っているとはいえ、俺には障害に打ち勝つ力など無い。


 敵に包囲されれば、無敵状態が続く限りは膠着状態を維持することはできると思う。

 だが、膠着状態が長く続けば、いつかは俺がクソ雑魚なのだとバレるだろう。


 そうなれば……俺は、ただただ、死を待つのみになってしまう。



 シアが俺の頭を撫でながら、耳元で囁く。


「大丈夫。 シアに良い考えがある」


 流石は俺の相談役だな……

 俺には打開策なんて何も浮かばないのに。


「シアと一緒に逃げよう? 誰もいない場所で二人で暮らすの。 きっと楽しいよ?」


 確かに、楽しそうだな。

 

 すぐに暴走する人外達のせいで、俺の意思とは全くの別方向に話が進んでいく、今の状況。


 そんな状況より、俺を甘やかしてくれるシアと共に逃げた方が、素晴らしい未来が待っているんじゃないか……?


「世界樹様を育てながら、二人でのんびり暮らすの。 ずっとシアが甘やかしてあげる」


 なんて甘美な誘惑なんだ。

 今すぐにでも、この誘惑に乗りたい。

 

 だが、戦力面が不安だ。

 俺とシアには戦う力など無いのだから。


 シードちゃんとトカゲを連れて行くか?

 いや、シードちゃんはともかく、トカゲはトラブルメーカーだ。


 トカゲはいらない……ならば、幼女二人と俺で逃げるか。


「シードちゃんも連れて逃げるか」


 俺の言葉を聞いて、困った様子のシア。


「それはダメ」


「なんでだ?」


「シアは、逃げるのにちょうど良い場所を知ってる。 でもその場所は定員二名」


 な、なんだと……

 確かにそれじゃあシードちゃんは連れて行けないな。


 俺がどうするべきか迷っていると、ルナが慌てた様子で近寄ってくる。


「また師匠を誑かしてるです! 油断も隙も無いです!」


「……違うもん」


「違わないです! 師匠、何を言われたです?」


「え? 誰もいない場所で二人で暮らそうって……」


 ルナは俺の言葉を聞いて、ため息をついた。


「これで何度目です?」


「七回目」


 きっ、とシアを睨むルナ。


「これ以上、師匠を誑かすなです! それは、私の仕事です!」


 そんな仕事があったのかよ。

 ひでぇ仕事だなぁ、おい。


「誑かしてなんかない」


「誑かしてるです!」


 俺を抜きにして、二人は言い争いを始めてしまった。


 少し落ち着いた所で止めようと思い、しばらく眺めていると、ルナと視線が合った。


「駆け落ちしたら地獄の底まで追いかけてやるです。 兄弟子とお姉様とコッコちゃんをけしかけて」


「…ふむ」


 詰んだ。

 一人でも手に負えないのに、二人と一匹が相手では絶対に逃げきれない。


「元より、駆け落ちする気などない。 な?シアよ」


「嘘だったの?」


 すぐに諦めた俺とは違い、シアはまだ諦めていないようだ。


 目に涙を浮かべ、俺を見るシア。


「はぁ……師匠が涙に弱いのは間違いないです。 でも、流石に露骨すぎです。 ね?師匠」


「シア……いつ逃げる?」


「少しは疑えです!」


 こんなに可愛い子の涙が嘘なわけないだろう。


「し、師匠は、ちょっとお馬鹿なところも魅力です…… でもこのままじゃまずいです……」


 下を向き、ぶつぶつ呟いているルナ。


 顔をあげると、涙目になっていた。


「師匠ぉ…… 師匠がいなくなるなんて嫌ですぅ……」


 甘い声で、俺に迫るルナ。


「……騙されちゃダメ。 あの涙は嘘」


「お前が言うなです」


 涙を浮かべ、悲しげな表情だった二人は、その表情が嘘だったかのように、怒りを浮かべ、言い争いを始めてしまった。


 女の子って感情豊かなんだなぁ。


 ぼーっと、二人の言い争いを眺めていると、魔王とクロエが真剣な表情で近づいてきた。


「師匠、お話が」


 真剣な表情の魔王とクロエなんて嫌な予感しかしないなぁ……


 だが、聞かないわけにもいかないか。

 何も知らないまま、とんでもない事をしでかされても困るし。


「言ってみよ」


 二人は同時にごくりと喉を鳴らした。

 相変わらず、君たち仲が良いよね。


「結婚を認めていただきたく……」


「…ふむ」


 は?え?誰と誰が?


「師匠! 兄弟子と結婚しても、剣の道を突き進む事に変わりはありません! なのでお願いします! 認めてはくれないでしょうか……?」


 魔王とクロエが結婚?

 それはめでたいな。だが、なぜ俺の許可が必要なんだ?


 普通許可を貰うなら、お互いの両親とかじゃないか?


 真剣な表情で黙って俺を見つめる二人。


 訳がわからないが、そんなに俺の許可が欲しいならくれてやる。


「ふっ、許可しよう。 幸せになるのだぞ?」


 俺の言葉を聞いて、二人は抱きしめ合って喜んでいる。


 はぁ、結婚かぁ……

 小柄なクロエは魔王の大魔王を受け入れられるのかな?

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