巨乳幼女エルフ
闇雲に歩いていたが、そもそも地下牢が何処にあるのかがわからない。
「おい、そこのお前」
「は、はいっ!」
「地下牢まで案内せよ」
俺は萎縮して固まっていた兵士の一人に案内させる事にした。
「そ、それは……」
兵士は返答に迷っている。
裏切れと言われているようなものなのだから、当然といえば当然か。
「案内せよ」
俺は剣を振る構えを見せる。
握っているのは、その辺に落ちていた木の枝だが。
「お待ちください! こちらでございます」
「…ふむ」
構えると同時に兵士は裏切った。
案内の兵士を先頭にゆっくりと歩いて行く。
やがて、世界樹の巫女が捕らわれている牢の前についたのだが、
「……やっ!やめっ」
「グフフ。 エルフは裏切ったようでふ。 なら、シアを美味しく食べちゃっても女神様から文句は言われないでふ」
牢屋の中で巨乳幼女エルフがオークに襲われていた。
「おい、そこの豚。 やめよ」
俺は真っ直ぐ巨乳幼女に近づき抱き上げ、オークから遠ざける。
「ぶ、ぶひぃ? 僕を勇者と知っての狼藉でふか! 無礼でふ! 殺してやるでふ!」
勇者?オークにも勇者なんて大層な存在がいたのか。
「師匠。 ここは、我に任せてくだされ」
「…ふむ」
「それなりの力を感じます。 師匠の相手は務まらないでしょうが、せめて我が糧にしとうございます」
本当に戦闘狂だなぁ。
理解できない。理解はできないが、
そんなに戦いたければ戦えばいい。
「よい、許す」
「はっ! では……いざっ!」
魔王は剣を抜き、上段に構えを取る。
俺は咄嗟に巨乳幼女エルフの頭を抱き寄せ、目を塞いだ。
「もしかして、勝てると思ってるのでふか?女神の加護がある僕に。 笑える、笑えるでふ!僕は最強のゆうし––––––」
「ふんっ!」
豚の勇者の発言を遮って、魔王は剣を振るった……気がする。
俺の目には残像すら映らないのだから予想だ。
「むぅ…… 思っていた数段弱かったですなぁ。 これでは鍛錬になりませんぞ」
「…ふむ」
真っ二つに斬られた豚の勇者。
悲鳴すら上げることすら許さずに勇者を瞬殺した魔王は不満な様子だ。
「与えられた力に過信し、努力を怠った者の末路であるな」
「はっ!」
「与えられた力など脆いものよ。 だからこそ我らは素振りをするのだ。 こうはなるなよ?魔王」
適当にそれらしい言葉を並べていると、抱き寄せていた巨乳幼女エルフが苦しそうな息遣いをしていた。
「すまぬ。息苦しかったか?」
首を横に振って答える巨乳幼女エルフ。
あまり喋るのが得意ではないのだろうか。
「では、脱出するぞ。 行くぞ我が使徒達」
俺は巨乳幼女を再び抱き上げる。
「むぅ…… あまり鍛錬になりませんでしたなぁ」
スパッと豚の勇者を一刀両断したんだから満足しろよ。
俺は早く帰って祝杯をあげたいんだ。
「主ぃ、城攻めの楽しみといえばここからだぜぇ? 宝物庫を荒らさないとなぁ」
俺は出口に向かおうとしていた足を止め、トカゲの方に振り返る。
「場所はわかるか?」
「しらみ潰しに探すぜぇ!」
真っ直ぐ向かえるなら泥棒に転職するのも悪くないと思ったが、場所がわからないとなるとな。
また兵士にでも案内させるか?
悩んでいた俺の肩をトントン叩き、耳元に顔を近づけた巨乳幼女エルフ。
「わかる」
「案内できる?」
巨乳幼女エルフはこくこく頷いた。
「ありがとう。 どっちに向かえば良い?」
頭を撫でながらそう聞くと、出口の方を指さした。
指差した方に行けば良いのかな?
「よし。 では行くぞ、我が使徒達! 金目の物は全て奪ってやろうぞ!」
「全部か!? いっぱいあったらどうするんだよ?」
「コッコよ、安心しろ。 我が異空間に収納しようぞ」
「おお! 魔王は一流の泥棒になれるなぁ」
あの黒いモヤの事か?
盗った荷物が嵩まないなんて最高かよ。
剣士なんてやめて、俺と一緒に泥棒の頂点を目指して欲しい。
「あ、魔王。 豚の剣拾っておいて」
主を失った、高値で売れそうな剣が落ちているのだ。拾わないなんて泥棒の風上にも置けない。
「ほぅ……悪くない剣ですなぁ」
そう言いながら黒いモヤを出して、拾った剣をモヤの中に収めた。
俺たちは巨乳幼女エルフの案内に従い、ゆっくりと歩を進める。
「あ、魔王。 あの絵、回収」
「御意」
「おお、これは良いテカリのツボだぜぇ。 魔王!これ回収」
「投げ入れよ」
目についた高値で売れそうな物を片っ端から魔王の黒いモヤに投げ入れる。
しばらく歩いて宝物庫に着く頃には、城内は物が少なくなりすっきりしていた。
宝物庫へ続く扉は頑丈そうな作りだ。それに、鍵がかかっている。
「魔王、斬って」
「御意」
だが、一流泥棒の魔王にかかれば障害にすらならない。
斬られた扉を避けながら、宝物庫に足を踏み入れると、巨乳幼女エルフが俺から離れ、走って奥に向かった。
「それは……苗木か?」
巨乳幼女エルフは苗木が刺さった鉢植えを大事そうに抱き抱えている。
少し涙を浮かべているようだ。
そんなに欲しいなら貰っていけば良い。
金になりそうもないから俺はいらないし。
俺は巨乳幼女エルフの頭を撫でながら「大切に育てろよ」と声を掛けた。
その言葉に笑顔で頷く巨乳幼女エルフ。
「よし、魔王! 全て回収するぞ!」
「御意!」
「トカゲよ! 飛び立つ準備をしておけ!」
「了解だぜぇ! オイラの背中に乗るんなら、後で報酬を用意しろよな!」
「期待しておけ」
宝物庫を空にした俺たちは、トカゲに乗り魔界へと飛びたった。
何か忘れている気がするな。
まぁ、いいか。エルフ達の願いは叶えたし、懐は温まったし。
「け、剣神様は何処に!?」
「おそらくドラゴン殿に乗り、脱出しました!」
「な、なっ! 巫女様は救出したのだろうか」
「地下牢には姿がなかったのでおそらく」
「ならば、ここに用はない! 行くぞ、魔界へ!」
「はいっ!」




