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勿体なき才

 俺は道場の穴を塞ぐ資金調達のため、冒険者ギルドに来ていた。


「魔核の買取はここで合っていますか?」


「は、はい……」


 何故か俺を避ける冒険者達。

 受付嬢も緊張している様子だ。


 学生時代、小遣い稼ぎに何度かギルドに素材を持ち込んだことはあるが、こんな事はこれまで一度もなかった。


 今と昔、俺の変化といえば、

 剣……か?


 試しに、剣に手をやる素振りを見せてみた。


「ひっ、ひぃぃ」


 あ、剣だ。みんな剣にびびってる。


 振り返り冒険者達を見ると、皆が俺から目を逸らした。


 何これ、面白い。


「ふっ、すまぬ。 剣がざわついたので治めたのだ」


「あ、ありがとうございます?」


「非常に才あるものを見つけてな……まだ斬るにはおしい」


「………」


 謎の強キャラムーブで何言ってるのかわからない俺の言葉を聞いた受付嬢は気を失ってしまった。


「…ふむ。」


「も、申し訳ありません。 その子は今日が初日で慣れていなくて……どうかご容赦を」


「勿体なき才であるな」


「才ですか? この子に?」


「だが、意思が弱ければそれで終いだ。 それより、魔核の買取をお願いしたいのだが」


 俺の遊びで気絶した受付嬢。

 流石にこのまま放置は可哀想なので、強キャラの俺が才ある認定してあげた。


 これで許せ、勿体なき才の受付嬢よ。


「これは、クラーケンですか」


「…ふむ」


「失礼ですが、他の素材はありませんか? クラーケンの素材は非常に需要が高く、高価買取させていただきますが…」


「すまぬな、食べた」


 あの高級イカ、そんなに凄いのか。


「た、食べた!? クラーケンって食べられたんですか?」


「え?うん」


 お伽話の英雄の大好物がクラーケン焼きって、この子知らないのかな?


「お伽話の話だと思っていました……」


「…ふむ」


「味はどうなんですか?」


「ん? ああ、めっちゃ美味しいよ」


 お伽話は知っている。だが、食べない。

 

 まさか……食用ではないのか?

 じゃあなんだ、あの巨大イカ。


「特上回復薬の材料なので、体に害は無いと思いますが……どんな味なんですか?」


「ああ、そりゃあ———特上のイカだよ」


「死ぬまでに一回は食べてみたいです。 恥ずかしながら美味しいものには目がなくて……」


「じゃあ、食べに来る?」


 昨日二人で食い散らかしたのだが、まだまだ残っている高級イカ。


 魔王が素手でスパスパ切り分けてくれたおかげで何とか冷蔵庫に入ったが、氷魔石の消費が半端じゃないのでさっさと食べきりたい。


「良いんですか!?」


「お、おう。 でも、道場に穴が空いてるから外でバーベキューになるけど」


「全然大丈夫です! というか、道場に穴?」


「弟子がお茶目でね」


「苦労してるんですね……」


 苦労話で親近感を持たれたのか、その後も話が弾み、仕事終わりに高級イカ祭りの約束をしてギルドを後にした。



 ———買取金額、金貨八十枚。

 しばらく遊んで暮らせるな……


 魔王半端ねぇ。





###





 建築ギルドに道場の穴の補修を依頼してから、市場で過去最高に温まっている懐を武器に高級酒や肉に野菜を買い込んで、道場へ帰った。


「師匠……申し訳ありませぬ」


「…ふむ」


 正直全く怒りがない。

 高級イカの魔核でむしろ利益がでているし、美人な受付嬢とバーベキュー大会ができるのだから怒りが湧くはずがない。


「精進せよ」


「はっ!」


 これで終わり……バーベキューの用意をしようと台所に向かおうとしたが、魔王に止められる。


「未熟な我に、手本を見せていただきたく……」


「手本?」


「あれから考えたのですが、道場を壊さずに全力で素振りするなど、 我にはどうすれば良いのかわかりませぬ……」


 なんだそんなことか。


 斬り合えなんて言われれば全力で拒否するが、素振りを見せるぐらいなら良いだろう。


 剣術に覚えがあるものならともかく、魔王は素人。適当に振ってもバレはしない。


 俺は今ではお気に入りの【神怒】を抜いた。


「ふんっ!」


 ビュッ


 情けない音が道場に響く。

 ……流石にバレたかもしれない。


「さ、流石は師匠……神剣で周囲に被害を出さず振り切れるとは……」


「…ふむ」


「我であれば、辺り一体を破壊し尽くしてしまいましょう……」


 そっちのほうがすごくない?

 本物の強キャラの感覚がいまいちわからない。

 

「どうすれば……」


 縋る様な目つきの魔王に俺は口から出まかせを言った。


「剣の極意、それは集中にある。 力を集約し、支配せよ」


「はっ!」


「後は剣と語り合うが良い。 それでも掴めぬと言うなら……」


 魔王がごくりと喉を鳴らす。


「それまでの才であった」


「必ずやその境地に至ってみせます」


 死ぬほど真面目な顔で決意表明している魔王には悪いが今日のメインイベントはバーベキューなのだ。


「客人を呼びバーベキューをする。 手伝って貰うぞ」


「了解しました」


 渋々という感じの魔王。

 そんなに剣と語り合いたいのだろうか。

 

 言った本人が剣と語り合ったことなんてないのに。


「魔王よ、これも鍛錬の一つだ」


「鍛錬ですか?」


 そう、鍛錬。

 全ての道は剣に繋がっていそうだろう。


「客人はか弱いおなごだ。 その客人を怖がらせる事なくもてなせ」


「わ、我にできるでしょうか……」


「貴様は我が弟子でありながら困難に立ち向かう気概すらないのか?」


「い、いえ、その様な事は」


 何が困難なのだろうか。


 むしろ、利益を出してくれた魔王へのお礼の気持ちも含まれているというのに。


「力を集約し、支配せよ。 さすれば……」


「さすれば……」


「お主はか弱きおなごをもてなせる」


「はっ!」


 そしてそれは剣に繋がる。多分。

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