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角ギュッ

 ベテラン悪女と新米悪女に搾り取られた翌日。

 癒しを求める俺は、カイと二人でカブトムシを捕まえに近所の山に来ていた。


「師匠、カブトムシってどうやって捕まえるんだ?」


 目をキラキラさせて質問してくるカイ。

 楽しそうな様子の弟子を見ていると俺まで楽しくなってくる。


 これだ。これなんだ。俺が求めている弟子とは。


 俺が吐いためちゃくちゃな嘘で超強化されていく謎の生物でもなく、仮にも師匠であるはずの俺に剣を向ける受付嬢でもない。


 勿論、金を搾り取るのが仕事なはずの詐欺師から、逆に金を搾りとっていく悪女達でもない。


 純粋な、騙しやすそうな弟子。

 大好物だ。だって俺、詐欺師だもの。


「知らぬ」


「教えてくれるって言ってなかったか!?」


 知るわけないだろ、俺は虫捕りなんかした事ないし。


 とにかく、純粋なカイと二人きりになりたかったのだ。

 だから師匠な俺は「教えてやろう」と上から誘ったのだ。後悔はしてない。


「知らぬな」


「なんなんだ師匠、ニコニコして…… ちょっと気持ち悪いぞ?」


「ふふっ」


「なんか背中がゾワッとしたぞ……」


 純粋な少年、すごく良いな。

 何かに目覚めそうである。


「ま、まぁ、いいや。 それより二人とも知らないなんてどうするんだよ?」


「…ふむ」


 罠を仕掛けるとかか?

 でも、手ぶらできたしな……


「こう、角をギュッて掴めばいいんじゃないか?」


「それだけか!? 罠とかは仕掛けないのか?」


「いやいや、剣士のカブトムシ捕りは角ギュッで終わりだから。 太古の昔から伝わる剣士の嗜みだから」


「そうなのか!?」


 そんな訳ないだろ。そもそも、剣士じゃない俺が剣士の嗜みなんて知るはずがない。


「というか、師匠は兄弟子ですらまだ剣士として認めてないんだろ?」


「…ふむ」


 錆びた剣の錆びを素振りのみで落としきったら剣士。という謎の定義を新人達まで信じていたのか……


 あれはクロエの入門を阻止するためにゴミを押し付けただけなんて、今更言えないな。


「俺は素振りの風圧で錆び落としなんてまだできないぞ! 兄弟子とクロエ姉の錆びた剣が素振りでどんどん綺麗になっていくのが、俺にはまだ理解できてないからな」


 安心しろ。やれと言った俺も理解できてない。


「だから俺はまだ剣士じゃない」


「…ふむ」


「そんな俺に師匠は角ギュッでカブトムシ捕りをやれって言うのか?」


「やれ」


「なんでだよ!? 罠とか仕掛けたいんだよ! なんかかっこいいじゃん、罠」


 罠……罠かぁと弟子の要望を叶えるために頭を回らしていた俺は『ガサッ』という音でその思考を中断し音がしたほうに目をやる。


「で、でけぇ……」


「…ふむ」


 そこには、一メートル級のカブトムシがいた。


「師匠頼む、一生のお願いだ。 捕まえて俺にくれよ! ほら、角ギュッで!」


 無茶言うな!

 俺の手が、あの馬鹿でかい角をギュッと出来るわけないだろ!


 絶対に俺の手に負えない生物だ。だが、カイはあれが欲しいと言う。


 自分でやらせよう。


「カイよ、これは試練だ」


「試練なんてどうでもいい! 俺はあいつがほしいんだ!」


「え? …ふむ」


 くそっ!魔王なら試練の一言で何でもやってくれるのに……だからお前は素振りで錆び落としができないんだよ!


「さ、さぁ、逃げる前に角ギュッとしてくれ」


 そう言って俺の背中を押したカイ。

 

「…………」


「…………」


 俺とカブトムシは無言で見つめ合った。

 

 無理だ。角ギュッした瞬間殺される。


「カイよ、見張っておけ。 拙者はカブトムシが好きそうな餌を買ってくる」


「え……? 角ギュッじゃ駄目なのか」


「駄目だ」


 ちゃんと目が見えてるのか?

 自分の掌より大きい角をどうギュッしろと言うんだよ。


「あのメガカブト……ほしいのだろう?」


「あ、あぁ」


「つまり仲間にしたいと」


「そ、そうなる……かな?」


 そうだ、そうなのだカイ。

 お前はあのメガカブトを仲間にしたいのだ。だから捕まえちゃ駄目だ。ちゃんと信頼を得ないと。


「餌をやり、信頼を得て、仲間にせよ。 これが此度の試練である!」


「わ、わかったぜ、師匠! 餌買ってきてくれ! 頑張って見張りしておくからさ」


「任せよ」


 メガカブトとカイを置いて離脱した俺は、とにかく甘いものを大量に購入し、カイの元に戻ったのだが…


「ど、どうしたのだ?」


「逃げられちまったんだ……情熱的に口説きすぎたかもしれねぇ……」


 振られたことで落ち込んでいるカイ。

 

 虫を相手に、どんな情熱的な口説き文句を言ったのか気になるが、それを聞くと振られて落ち込んでいる弟子の心を更に傷つけてしまう可能性がある。


 俺は出来るだけ優しい声を心がけ、カイに声をかけた。


「何を下を向いている」


「だ、だって……」


「悪い結果に終わったが、少なくとも相手はカイの存在を認識しただろう。 一歩前進したのだ。 お主はまさか、一度で口説き落とせるとでも思っていたのか?思い上がるなよ!」


「はっ!」


「ふっ、わかったようだな。 振られてから始まる恋だってある。 今日のところは帰るぞカイ」


「ああ、今日は帰るけど俺は諦めねぇ……!」


「その意気だ」



 後日、全身に砂糖を塗りたくって「師匠、今日こそは口説き落としてくるぜ!」と言うカイを見て俺は思った。



 弟子は魔王に限るな。



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